一般財団法人 水源地環境センター 第21回技術研究発表会 開催

水源地環境センター
企画部 渡邉

令和2年11月27日、千代田放送会館(東京)において、一般財団法人 水源地環境センター(WEC)の第21回技術研究発表会を開催しました。

本年度は、新型コロナウイルス感染が拡大している現下の情勢を踏まえ、会場の定員減によるソーシャルディスタンス確保、来場者の地域制限とWeb聴講併用による長距離移動に伴うリスク低減等、各種対策を実施した中での開催となりました。

聴講者数は、来場者数58名、Web聴講数215アクセスとなりました。初めての試みでしたが、困難な社会情勢の中、多数の聴講をいただき、誠に有難うございました。

Web聴講者を対象としたアンケートでは、動画の品質・内容共に、概ね好評価を頂くことができ、担当者としては安堵しているところです。

冒頭、当センターの森北理事長(※1月1日付けで平井理事長に交代しています)が挨拶し、

「熊本県球磨川支流の川辺川ダムは、平成21年に建設が中止され、地域でダムによらない治水対策について議論されてきましたが、結局、有効な治水対策を見いだせないまま、令和2年7月豪雨により、球磨川流域で死者50人以上に及ぶ大水害が発生しました。

一方で、同じく平成21年に一旦中止された八ッ場ダムは、その後建設が再開され、完成直後の昨年10月、台風19号による大洪水を、利根川上流のダム群や中流の調整池と共に貯留し、利根川の氾濫を防ぎ、首都圏を大水害から守りました。

ダムの必要性、事前防災の重要性を改めて痛感しています。

是非、一日も早く川辺川ダムの建設が再開され、完成することを願っています。」と述べました。

今回は、特別講演として、株式会社熊谷組 社友の大田弘氏をお招きしました。

「”クロヨン”が遺(のこ)したもの -志の連鎖-」と題して、少年の頃、地元で黒部ダム建設工事に触れながら育ち、土木技術者を志して熊谷組の社長にのぼり詰めた人生での体験談や、映画「黒部の太陽」で有名な黒部第四発電所大町トンネル工事(熊谷組施工)や黒部ダムに纏わる様々な逸話をご紹介いただき、黒部ダムや「土木」に対する熱い想いを聴くことができました。

WECからは、4つのテーマで研究発表がありました。

最初に、「降雨予測技術の特性分析と事前放流等への活用手法の検討」と題して、研究第一部 三戸 孝延 から発表がありました。

近年の代表的な豪雨を例に取って、最新の降雨予測技術の予測精度に関して、降水域分布及びダム集水域内降水量の実績との比較評価を、アニメーションを駆使して紹介し、降雨予測技術のダム管理への適用手法研究上の課題を指摘しました。

次に、「プロペラ式湖水浄化装置による水質改善対策と今後の展望」と題して、水質技術開発室 木村 文宣 から発表がありました。

最初に、全国のダムにおける水質改善対策の実施状況に関するアンケート(平成27年)を基に、全体の1/3が富栄養化と底層嫌気化に対する対策を導入している現状を紹介しました。

さらに、水質改善の大きなテーマであるアオコ対策について、プロペラ式湖水浄化装置と、期待される水質改善効果について解説し、「プロペラ式湖水浄化装置応用技術研究会」の調査研究を通じて得た知見による成果であるマニュアルの解説、さらに今後の課題として、富栄養化対策のマニュアル更新、底層嫌気化メカニズムの究明とマニュアル作成の必要性を示しました。

三番目に、「排砂バイパストンネルの計画・設計手法の体系化に向けた計画・設計標準検討フローの検証(続報)」と題して、研究第二部 小野 雅人 から発表がありました。

ダムの堆砂対策として恒久的な効果が期待できる排砂バイパストンネル(SBT:Sediment bypass tunnel)について、かつてから検討を重ねてきたダム土砂マネジメント研究会での検討経緯を紹介しました。

まず、SBTの概要と国内での設置例を説明した上で、研究会の成果である「SBT計画・設計標準検討フロー」について解説、次に検証ダムを昨年度発表の37ダムから93ダムに拡大して「標準検討フロー」を検証した結果を報告しました。

さらに、「標準検討フロー」によりSBTが適用可能と評価されたダムは、貯水池回転率と貯水池寿命の関係からSBTの適用性があると評価される範囲に集中し両者の調和性が高いこと、SBTの適用性を決定する主要因の分析から、排砂単価(コスト)は土砂量に関する項目と相関が高いことなどを報告しました。

最後に、これまでの研究会検討成果を踏まえ、SBT計画・設計に関する技術資料の作成、「標準検討フロー」を活用したSBTの高度化・効率化に向けた検討の実施という今後の方向性を提示しました。

最後に、「環境DNA等の新技術を用いたダム湖環境調査の手法」と題して、研究第三部 大杉 奉功 から発表がありました。

従来のダム事業のアセスメントや「河川水辺の国勢調査」における自然環境調査は、捕獲調査等の直接的な手法が用いられてきたが、近年、UAVを用いた環境調査やDNA分析を用いた種の同定等の新技術が導入されていること、特に近年環境DNAを用いた水生生物の調査等新たな環境調査技術の開発が急ピッチで進んでいることを紹介し、これらの新しい河川環境調査手法の実施状況と活用事例が報告されました。

さらに、環境DNA調査についての概要を解説した後、ダム湖生物相調査として環境DNAを使用した場合と、従来型の調査手法の比較検討結果を、実例を挙げて様々な側面から考察し、調査の効率化が可能であることを示しました。

特別講演・研究発表を通じて、演者と聴講者の間に心地よい緊張感が流れる中、発表会は無事終了することができました。

講演者・発表者の方々や、来場、或いはWebでの動画配信を通じて聴講いただいた皆様方、誠にありがとうございました。