「ダム管理所長に聞く」第13回《八ッ場ダム》

(聞き手:水源地環境センター 企画部 奥秋)

(WEC)
利根川ダム統合管理事務所は、藤原ダム・相俣ダム・薗原ダムと新たに令和2年度から八ッ場ダムの管理が加わったとお聞きしています。

本日は八ッ場ダムを中心にご紹介をお願いいたします。

■首都圏の安全安心の役割を担う、4つの目的を持った多目的ダム

(佐々木事務所長)
首都圏の安全・安心の向上に大きな役割を担う「八ッ場ダム」は、群馬県北西部利根川の右支川、吾妻川中流部の群馬県吾妻郡長野原町に位置し、計画発表から68年間を経て令和2年3月に完成し、令和2年4月よりダムの運用を開始しました。

この間、建設にあたり地元地権者の方々をはじめとして、長野原町・東吾妻町及び群馬県、下流都県などの関係機関、工事・業務関係者等多くの皆様のご理解とご協力をいただきました。

八ッ場ダム位置図

八ッ場ダムは、以下の4つの目的を持った多目的ダムです。

  1. 洪水調節(治水)
    八ッ場ダム建設地点の計画高水流量3,000m3/sのうち2,800m3/sの調節を行い、吾妻川下流及び利根川下流部の洪水被害の軽減を図ります。
  2. 都市用水(水道用水及び工業用水)の補給(利水)
    新たに、群馬県・埼玉県・東京都・千葉県及び茨城県の新規都市用水として、最大22.209m3/sの補給を可能とします。
  3. 流水の正常な機能の維持と増進
    ダム下流に位置する名勝「吾妻峡」の景観を保全するための流量を確保する等、吾妻川の流水の正常な機能の維持と増進を図ります。
  4. 発電
    ダム下流に群馬県により新設される八ッ場発電所において、最大出力11,700kw(年間約4,200万kwh:一般家庭約12,000世帯分の消費電力量)の発電を行います。

■令和元年台風第19号における試験湛水状況

(WEC)
令和元年台風第19号で八ッ場ダムは、SNS上で首都圏を救った英雄と称されていますが、状況について説明をお願いいたします。

(佐々木事務所長)
令和元年の台風第19号洪水を迎える直前では、八ッ場ダムは試験湛水を開始してから2週間足らずということもあり貯水池はほぼ空の状態でした。このため約7,500万m3の洪水を貯め込むことになりました。その結果、他の利根川上流にあるダムによる洪水調節効果とあいまって下流の利根川(基準地点:八斗島(群馬県伊勢崎市))において約1mの水位低減に寄与したものと推定しています。

「たまたま空に近い状態だったから貯められたのではないか」「治水容量はそもそも6,500万m3であるから、今後台風第19号と同規模の洪水が再来した場合は全て貯留できずに緊急放流をするのではないか」など様々なご意見が寄せられています。

台風第19号洪水時、八ッ場ダムは試験湛水に伴う常時満水位に向けた貯留中であったこともあり、下流にはおおむね維持流量相当の流量しか放流していませんでした。通常、洪水調節中のダムは維持流量のみしか放流しないということはありません。八ッ場ダムも他のダムと同様に洪水調節時には定められたルールに従って運用します。このルールに沿って運用すると、貯留しながら放流することになりますが、八ッ場ダムのルールではその放流量は、流入量がピークに達するまでの間は200m3/sであり、その後は次第に増加させ、最大で1,000m3/sとしています。台風第19号洪水時における八ッ場ダムからの実際の合計放流量は約60万m3でしたが、このルールに沿って運用していた場合は約2,400万m3と推定しています。よって、洪水の貯留量は、今回の貯留量約7,500万m3から、放流したと推定される約2,400万m3を差し引いた5,100万m3となるため、仮に台風第19号洪水時に運用中であったとしても治水容量の6,500万m3内に収まっていたと考えています。

■ダム湖周辺に桜を植樹するプロジェクト

(WEC)
八ッ場ダムで、地元地域と連携した取組がありましたらご紹介ください。

(佐々木事務所長)
地元住民と一緒に八ッ場ダム湖畔や長野原町に桜を植樹し、「また訪れたい!!『水と桜の郷 長野原町』」を目指した取組です。

本プロジェクトは、みなさまのご理解、ご協力による応援寄付金などで活動を行っています。また、桜の維持管理(下草刈りなど)については、「桜守」や企業協力などにより行われています。

令和2年までに、ダム湖周辺に約3,000本もの桜が植樹されました。今後、皆様の手で維持管理され健やかに成長した後は、毎年春に長野原町に訪れる多くの方々に感動を与え、そして八ッ場ダム周辺地域を盛り上げてくれることを期待し、事務所としても引き続きこの取り組みを支援して参りたいと考えています。

開花した八ッ場あがつま湖畔の桜

プロジェクトによる植樹の様子

■観光スポットの紹介

(WEC)
八ッ場ダム周辺地域の観光スポットなどありましたらご紹介ください。

(佐々木事務所長)
八ッ場ダム周辺には、国の名勝にも指定されている「吾妻峡」が、ダムサイト上流には、源頼朝が発見したと言われる「川原湯温泉」があります。また、1時間圏内に年間300万人以上が訪れる草津温泉をはじめ、四万温泉、伊香保温泉、軽井沢等の観光地が多数あり、湖面沿いを通る国道145号は平日24時間交通量約1万台/日を有しています。関越自動車道「渋川伊香保IC」から約1時間、地域高規格道路である上信道の整備も進んでいます。

【八ッ場ダムサイト】【なるほど!やんば資料館】
八ッ場ダムは、令和2年7月よりダム堤体周辺を一般開放し、多くの方々に訪れていただいております。(令和3年5月末現在:約26万人)

八ッ場ダム管理支所に併設した資料館では、ダム事業の経緯や本体工事に係る技術、周辺地域の情報などを紹介しています。

八ッ場ダム堤体開放状況

八ッ場ダム管理支所「なるほど!やんば資料館」

【八ッ場あがつま湖】
八ッ場ダムにより新たに生まれた「八ッ場あがつま湖」には、群馬県初となる「水陸両用バス」の他、観光船やカヌー、SUP(サップ)、バンジージャンプなど、湖を楽しめる様々なアクティビティが展開されています。

八ッ場ダム湖名碑

水陸両用バス「八ッ場にゃがてん号」

【川原湯温泉】
ダム建設により高台に移転した「川原湯温泉」には、共同浴場の「王湯」やオープンしたばかりの「あそびの基地NOA(バーベキュー、キャンプ場、日帰り温泉など)」が整備されています。

共同浴場「王湯」

「あそびの基地 NOA」

【吾妻峡】
吾妻峡のすぐ下流には、日帰り温泉「天狗の湯」、「道の駅あがつま峡」があり、ダム事業により付替えられ廃線となった旧JR吾妻線敷地を有効活用した「自転車型トロッコ(A-Gattan!)」が運行されています。

令和3年4月29日からは、ダム堤体に設置されているエレベーターによってダム天端と「吾妻峡」がつながり、散策等が可能となりました。

自転車型トロッコ(A-Gattan!)

「天狗の湯」「道の駅あがつま峡」

【各地区の地域振興施設】
八ッ場ダム堤体近くにある「やんば茶屋」。不動大橋近くにある「道の駅八ッ場ふるさと館」。丸岩大橋近くにある「八ッ場湖の駅丸岩」。長野原草津口駅隣にある「長野原・草津・六合ステーション」など様々な地域振興施設が整備され、各施設においては、地域の特産品や地酒、八ッ場ダムオリジナル商品などが充実しています。

横壁地区に整備された「八ッ場屋内運動場」では天候に関係なく、テニス・ゲートボール・グランドゴルフ・フットサルが楽しむことが出来、林地区に整備された「やんば天明泥流ミュージアム」では八ッ場地域の成り立ちを学ぶ事が出来ます。

「やんば茶屋」

「道の駅八ッ場ふるさと館」

「八ッ場湖の駅丸岩」

「長野原・草津・六合ステーション」

「八ッ場屋内運動場」

「やんば天明泥流ミュージアム」

■地元関係者の皆様に感謝を

佐々木事務所長
(八ッ場ダムにて)

(WEC)
最後になりますが、ダム・水源地域について一言お願いします。

(佐々木事務所長)
八ッ場ダムは、利根川下流部の地域に対して、洪水被害の軽減や、都市用水の補給を図る役割を担うため、日本の社会経済活動の中心である首都圏の安心安全の確保等には必要不可欠な施設であります。

一方で、八ッ場ダム建設のためには、ダムを含む関連施設予定地の長野原町・東吾妻町の地元の関係者の皆様に、先祖伝来の住み慣れた豊かな自然に囲まれた土地をご提供いただき、またご移転をいただく等、苦渋の選択と大変なご苦労をいただく必要がありました。

地元関係者の皆様に対しては、八ッ場ダムが昭和27年の予備調査着手から、令和元年度の事業工期に至るまでの長きにわたり、何世代にもわたり、ご苦労・ご心配をおかけしたことに対し改めて感謝を申し上げるとともに、令和元年台風第19号でも試験湛水中ではありながら、首都圏の洪水被害の軽減に少なからずとも、貢献できたことについても、これもひとえに地元の皆様のご理解とご協力の賜と重ねて感謝いたします。