「ダム管理所長に聞く」第18回《品木ダム》

(聞き手:水源地環境センター 企画部 奥秋)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第18回は、関東地方整備局 品木ダム水質管理所の岩﨑所長にお話しをお聞きしました。
岩﨑所長、どうぞよろしくお願いします。

■中和生成物を貯めることを主な目的としている特殊なダム

(岩﨑所長)
品木ダムは、群馬県の白根山(草津白根山)を源とする湯川、大沢川、谷沢川が合流する地点にあります。1965年に建設された堤高43.5m、総貯水容量166.8万m3の重力式コンクリートダムで、洪水を調節する機能を持たず、中和反応の促進や酸性河川の中和のために投入された炭酸カルシウムと酸との化学反応により発生する中和生成物を貯めることを主な目的としている特殊なダムです。中和事業の効果により群馬県企業局が発電を行っています。

■世界初の酸性河川の中和事業、甦った「死の川」

ご当地ソングの草津節に「♪お医者様でも草津の湯でも(ドッコイショ)、♪惚れた病は治りゃせぬヨ(チョイナチョイナ)」とあるように、草津の湯は恋の病以外ならどんな病も治すといわれ、長い歴史の中で多くの湯治客の病を癒してきました。硫黄を多く含んだ草津白根山に浸透した雨水が温泉となって湧き出ているもので、pH2.0という強酸性で非常に高い殺菌力を持っています。令和3年2月には草津温泉(湯畑源泉)のお湯が新型コロナウイルスを不活化させるというデータが発表されたほどです。この草津温泉のお湯は湯川となって白砂川、吾妻川へと流下しています。同じように草津白根山の硫黄の影響を受け強い酸性となっている河川は複数あり、これらの酸性河川の影響で吾妻川は魚などの生物も棲むことができず「死の川」と呼ばれていました。生物が棲めないだけではなく鉄やコンクリートを使った建造物が作れない、農業に適さないなど人間の生活にも多くの負担を強いていたものです。そこで、吾妻川に流入する酸性河川のひとつである湯川を中和して、川を甦らせようという取り組みが昭和39年から始まったのです。この中和事業により、現在の吾妻川には魚などの生物が棲むようになり、中和された河川の水の恵みを受けて生活しています。

浸透した雨水に硫黄成分が溶け出して強い酸性の水に

中和前の吾妻川上流域の酸性河川の状況

湯川につけると約2週間で釘が針金に

湯川の水でコンクリートもボロボロ

■「死の川」吾妻川をよみがえらせた中和システム

湯川と大沢川、谷沢川へ石灰石粉を投入して酸性河川の中和を行っています。
原石山で採掘され近くの工場で加工された石灰石粉を草津中和工場と香草中和工場に輸送し、大型のサイロ(タンク)に貯留します。酸性の川から汲み上げられた水に、貯留した石灰石粉を工場内で混ぜ合わせ川に戻します。品木ダムへ流下する間に石灰石による中和反応が促進し水質を改善させます。
草津中和工場が湯川、香草中和工場が大沢川、谷沢川の中和を担っています。

下流の皆様の暮らしを守るため24時間365日、中和工場を止めることはできません。そのためのメンテナンスは欠かせません。

■品木ダムに貯まった中和生成物を除去しています

品木ダムには、投入された石灰石粉の成分である「炭酸カルシウム」と中和生成物である「硫酸カルシウムと塩化カルシウム」などが沈殿・堆積します。そのほか河川からの流入土砂なども堆砂するため、定期的に浚渫してダム機能を維持しています。浚渫物は脱水した後にセメント系固化処理剤で固化処理を行い、環境に配慮した状況で処理地に盛土し安全に管理しています。

■環境体験アミューズメント(学習広報施設)

草津中和工場は草津温泉の町中にあります。草津温泉は年間300万人が訪れる観光地です。中和工場の周りにも沢山の観光客が訪れるのですが、工場の様な施設から綺麗な川に白い液体が・・・

誤解のないように、また、事業の重要性を広く理解して頂くためにも広報も重要です。

学習広報施設「環境体験アミューズメント」を草津中和工場の敷地内に設けています。環境体験アミューズメントは中和反応を利用した百年石の制作体験や、草津温泉と周辺地域の歴史や自然、中和事業、さらには品木ダム建設に伴い故郷を離れた品木地区などについてパネル展示による情報発信を行っています。また、中和工場の見学も行っており、中和が行われる現場を実際に見て頂き、中和事業の理解やこの地域の魅力をもっと知り、体験していただけることができます。

ぜひ一度、足を運んでみて下さい。きっと新しい発見があります。

(環境体験アミューズメントの紹介サイトです)
https://www.ktr.mlit.go.jp/sinaki/sinaki00009.html

■不思議な温泉クラフト「百年石」

百年石制作体験は「環境体験アミューズメント」で一番のご好評をいただいているメニューです。石灰石で酸性河川を中和している原理(石灰石が酸性水により溶ける原理)を応用したもので、石灰石にペンキで絵や文字などを描いていただき、それを草津温泉に2日間つけておくと、温泉の強酸性パワーでペイントしていない部分が溶けて立体的になるという温泉クラフトです。

百年石という名前は、草津町の町制施行100年(1900年町制施行)を記念して、また百年経っても作品が残ってほしいと希望を込めて「百年石」と命名したとのことです。

草津温泉を訪れた記念に、世界に1つしかない、あなただけの作品を制作されてはいかがでしょうか。

(百年石の動画サイトです)
https://www.ktr.mlit.go.jp/sinaki/sinaki00251.html

立体的な温泉クラフト:百年石

■目的記号に漢字があるダムカードは品木ダムだけ?

品木ダムの目的は水質改善と発電です。そのためダムカードの目的記号には「水質改善」と漢字が表示されています。すべてのダムカードを確認していないのですが、目的記号に漢字があるダムカードは品木ダムだけではないでしょうか。ダムマニアであるならば入手したい逸品!だと思っています。

■最後に

所長室には「継続は力なり 結束は力なり」という初代管理所長の武藤速夫氏の言葉が飾られています。中和事業は、皆様の暮らしや生き物を守るため休むことができない事業です。華やかではないですが、継続することで下流の皆様の生活を支える力となっていると思います。この中和事業をより安全に安定して実施していくために一同が結束して頑張って参ります。

また、この事業をより多くの皆様にご理解頂くことも大切な事だと思っています。皆様のご理解が我々のモチベーションにも繋がります。今般のコロナ禍で中和施設の団体見学など実施できないメニューもありますが、是非、多くの皆様に品木ダム、中和工場、環境体験アミューズメントに足を運んでいただき、自然豊かな品木ダムを堪能していただくと共にダムや中和事業の重要性をご理解いただけると幸甚です。

〇品木ダム水質管理所HP:https://www.ktr.mlit.go.jp/sinaki/