一般財団法人 水源地環境センター 第22回 技術研究発表会 開催

一般財団法人 水源地環境センター
企画部 渡邉 和典

令和3年11月26日、千代田放送会館(東京)において、一般財団法人 水源地環境センター(WEC) の第22回 技術研究発表会を開催しました。

新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除されたとはいえ、引き続き警戒が必要な情勢下、出席者数は昨年と同様、定員の半分程度に止め、ソーシャルディスタンス確保など、発表者や来場者のリスク低減に配慮しながらの開催となりました。

また、昨年導入したWeb聴講は、好評に付き、今回も実施させていただきました。本年は、システムを改善し、質問フォームでWeb聴講者からの質問を受付ける方式を導入しました。

聴講者数は、来場者数58名、Web聴講数233アクセスとなりました。Webを利用することで、全国からも多数の聴講をいただくことができ、誠に感謝に耐えません。

冒頭、当センターの平井理事長が、
「令和元年の台風19号による洪水の八ッ場ダムでの貯留、これをきっかけとする事前放流の導入、令和2年7月豪雨の被害を受けた川辺川ダムの計画再開など、ダムの治水効果に目が向きがちですが、それだけに留まらず、昨今話題となっているSDGsにもダムは貢献するものであります。例えば、Goal 6:「全ての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」、Goal 9:「強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」、Goal 13:「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」、Goal 15:「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、並びに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」など多くの貢献が考えられます。そのためにも、ダムが健全に機能することが大切です。当センターとしても、水質・堆砂・生態系の維持などの研究の一端を発表させていただきますので、忌憚の無いご意見をお寄せ下さるようお願いいたします。」
と挨拶しました。

今回は、特別講演として、日本放送協会の中村 淳氏をお招きしました。

中村氏は、NHKで主に災害報道などに携われ、ニュースウォッチ9の編集責任者をなさっておられる方です。

当日は、『チーム「水害から命を守る」』と題して、防災という観点から各地のNHKによる地域への働きかけなどの取り組みについて、専門のお立場から最新の知見をご紹介くださいました。

WECからは、5つのテーマで研究発表がありました。

最初に、「新技術を活用したダム湖利用実態調査の高度化に向けて」と題して、研究第一部 浅井 直人から発表がありました。

ダム湖利用実態調査の精度と頻度を向上させるツールとして、携帯電話基地局データを基に作成された人流データ「モバイル空間統計」を用いて試行分析したダム湖利用者数推計を通じ、データ特性を十分に理解した上で分析手法を確立し取扱い目的を明確にすることで、ダム湖利用実態調査への人流ビッグデータの活用の可能性は十分にあると説明しました。

次に、「プロペラ式湖水浄化装置による底層嫌気化対策の効果と課題」と題して、水質技術開発室 木村 文宣から発表がありました。

最初に、ダム貯水池における底層嫌気化現象の発生状況や底層嫌気化対策手法について紹介し、その上で、近年着目されているプロペラ式湖水浄化装置について効果発現メカニズムの説明や適用実績の紹介をしました。

また、実際にプロペラ式湖水浄化装置が導入されたダム貯水池における調査結果から得られた知見と課題として、装置の稼働により深部からDOの回復が見られること、pHやORPの状況によっては溶出抑制状況に違いが見られること等を説明し、今後も調査研究を継続してプロペラ式湖水浄化装置による底層嫌気化対策についての技術確立を進めていく方針であると締め括りました。

三番目に、「計画検討段階における排砂バイパストンネルの概算コスト」と題して、研究第二部 小野 雅人から発表がありました。

まず、「ダム土砂マネジメント研究会」での検討経緯を紹介し、ついで国内の事例において排砂単価を試算した結果を報告、さらに研究会からの技術的な指導・助言を得つつ、「排砂バイパストンネル計画策定のための参考手引(案) をとりまとめていくという、今後の展開の方向性を示しました。

四番目に、「ダム事業で整備した湿地ビオトープとダム湖水位変動帯の生息環境」と題して、研究第三部 大杉 奉功から発表がありました。

ダム事業における環境保全措置の概要を説明した上で、その中のビオトープ整備について、宮ヶ瀬ダム・灰塚ダムなどの湿地環境創出の事例や地元NPOとの連携事例、ダム湖に特徴的な水位変動域に成立する湿地環境の機能評価などの紹介があり、最後に湿地ビオトープ整備と維持管理・モニタリングの方向性と課題についての提言を示しました。

最後に、「WEC応用生態研究助成 ~17年の歩みとこれから~」と題して、研究第三部 渡邊 茂から発表がありました。

当センターの主要事業であるWEC応用生態研究助成制度の概要の説明があり、この17年間に採択された研究の特徴や傾向を分析し、さらに先進的事例として環境DNA関連研究助成の経緯、水源地生態研究会と連動する萌芽研究の紹介がされました。

最後に、今後の応募に望まれる特性として、斬新性、応用性、実装性に言及した後、令和4年度募集への積極的な応募をお願いして発表は終了いたしました。

今回は、Web聴講の方からの質問を受付け、2名の方からの質問に対応させていただきました。初めての試みで、まだまだ課題は多いと思います。来年に向けて、一層の改善に努力させていただきます。

講演者・発表者の方々や、来場、或いはWebでの動画配信を通じて聴講いただいた皆様方、誠にありがとうございました。