「ダム管理所長に聞く」第29回《早明浦ダム》

(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第29回は、四国の吉野川に建設された多目的ダムである早明浦ダムを管理する水資源機構 池田総合管理所の岩本所長にお話しをお聞きしました。

岩本所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに早明浦ダムのご紹介をお願いします。

■吉野川総合開発計画の中核を担う早明浦ダム

(岩本所長)
四国を代表する吉野川は、その源を高知県吾川郡の瓶ヶ森(標高1,897m)に発し、途中で銅山川や祖谷川を合わせ、徳島県三好市を通って紀伊水道に注ぐ、幹線流路延長194km、流域面積3,750km2の1級河川です。

吉野川は古くから流域の人々に恩恵を与えてきた反面、「四国三郎」として、利根川の坂東太郎、筑後川の筑紫次郎と並び称され、ひとたび大雨が降れば暴れ川となり、毎年のように洪水被害を発生させてきました。そこで、戦後の四国全体の発展を図る一大プロジェクトとして「吉野川総合開発計画」が策定され、早明浦ダムはこの中核として、昭和50年に完成しました。この事業は、早明浦ダムの他に、池田ダム、新宮ダム、富郷ダム、香川用水、旧吉野川・今切川河口堰の各事業からなり、これらの完成により洪水による被害軽減が図られるようになり、また、吉野川の水は四国4県で有効的に利用することができるようになりました。

吉野川流域図

■総貯水容量3億1,600万m3の西日本最大級の大ダム

(岩本所長)
早明浦ダムは、四国のほぼ真ん中に位置しており、洪水調節と四国4県への農業・工業・水道用水の供給や発電を目的とした高さ106mの重力式コンクリートダムで、総貯水容量3億1,600万m3の西日本最大級の大ダムです。この早明浦ダムを通じて四国4県は一つに繋がっており、「四国のいのち」、「四国の水瓶」とも呼ばれています。

早明浦ダム放流写真

■壇ノ浦の戦いに端を発する早明浦の地名

(WEC)
ところで「早明浦」とは意味ありげな地名ですが、何か由来はあるのでしょうか?

(岩本所長)
日本の歴史で源平合戦の壇ノ浦の戦い、屋島の戦いは有名ですが、ある平家の残党が源氏の兵に追われて吉野川をのぼりつつ、早明浦ダム近くの地まで落ちのびてきた時の話です。

平家の残党を今夜中に全滅させようと源氏は追い詰めましたが、幸か不幸か白々と夜が明け始め、あたりは一面の雲海で海を思わせる風景だったらしく、そこで源氏の大将は、「えれ残念。早や夜が明けたか」と地団駄踏んで悔しがったという、このような伝説が、いつか早や明けの浦となり、早明浦となったということです。

■計画最大流入量を超える洪水が4回発生!

(WEC)
近年全国で大きな出水が頻発していますが、早明浦ダムではどのような対応をされていますか?

(岩本所長)
早明浦ダムは管理開始以降、計画最大流入量4,700m3/sを超える洪水が4回発生しています。

特に平成17年9月の台風14号による出水では、それまで記録的な空梅雨による渇水で0%だったダムの貯水率が、1日で100%以上になりました。

洪水調節前の貯水状況

洪水調節後の貯水状況

■早明浦ダム再生事業により洪水調節容量を1,700万m3増加

(WEC)
早明浦ダムでは再生事業を実施しているそうですが、再生事業とはどのような事業ですか?

(岩本所長)
「早明浦ダム再生事業」では、早明浦ダムの治水機能を向上させるための改築を行い、吉野川の洪水による被害の軽減を図ります。本事業では、利水容量から洪水調節容量への容量振替と予備放流方式の導入により洪水調節容量を1,700万m3増加させるとともに、早明浦ダムに新たな放流設備を設置します。

本事業は平成30年度から事業がスタートし、今年度で5年目になりました。昨年度からは、工事に使用する道路を整備する工事や、建設発生土の受入地の整備などの準備工事を実施しています。令和10年度の事業完了に向けて、今年度は速やかに本格的な工事に着手できるよう準備を進め、来年度から本体工事を実施する予定です。

増設放流設備(イメージ)

再生事業前後の容量配分図

再生事業前後の放流イメージ

■早明浦ダム周辺地域の活性化 ~源流の大川村は人口日本最少~

(WEC)
次にダムの周辺地域の活性化は大きな課題ですが、早明浦ダムではどのような取組みが行われているのでしょうか?

(岩本所長)
早明浦ダムは高知県嶺北地域に位置しており、嶺北地域は本山町、大豊町、土佐町、大川村の4町村で構成されています。中でも大川村は吉野川の源流域であり、かつては高知県最大の銅の鉱山「白滝鉱山」がありました。最盛期の村の人口は約4,000人でしたが、鉱山が昭和47年に閉山し、人口は大きく減少しました。

その後、昭和50年の早明浦ダム完成により村の中心部が水没したことから、さらに村の人口は減り、現在は約400人と、日本一人口の少ない村(離島を除く)となっています。

嶺北地域4町村

■水源地域ビジョンによる様々な取組み

(岩本所長)
水源地域の活性化を図るため、地元自治体を始め、国土交通省や水資源機構は「早明浦ダム水源地域ビジョン」を策定し、水源の森整備、自然・ダム湖を活用した交流拡大、水源地や施設に対する学習など、現在、様々な取組みを実施しています。

代表的な取組みとしては、水源の森整備では「上下流交流会」、自然・ダム湖を活用した交流拡大では「さめうら湖面利用、カヌー競技」、「やまびこカーニバル、いかだまつり」、水源地や施設に対する学習では「香川用水の水源めぐりの旅」があります。

3001年の森(上下流交流会)における作業状況

さめうら湖カヌー

やまびこカーニバル

いかだまつり

■さめうらレイクタウンで自然体験を

(岩本所長)
さめうら湖を中心とした自然体験型観光の拠点である「湖の駅 さめうらレイクタウン」には、カヌーやSUPなど湖面を中心としたアクティビティが楽しめる施設や、森と湖が一度に楽しめるキャンプ場「さめうらテントパーク」などがあります。

カヌーやSUPが楽しめます

さめうらテントパーク

■美味しいものがいっぱいです

(岩本所長)
一方、地元名産としては、土佐あかうし、大川黒牛、土佐はちきん地鶏、ダムカレー(あかうしステーキ、からあげ)などがあります。

「土佐あかうし」は出荷頭数が少なく、幻の和牛と呼ばれ、濃厚な旨みの赤身とサシの絶妙なバランスが特徴で、早明浦ダムをモチーフにしたダムカレーなど美味しいものがたくさんあります。

3年ぶりの開催となった大川村名物イベント「謝肉祭」は、村人口約400人の4倍の約1,500人が来場し、大川黒牛5頭分と土佐はちきん地鶏約450キロをたいらげました。

土佐あかうしのステーキ

ダムカレー

謝肉祭
[写真提供:高知新聞]

■ダム最深部で1年貯蔵した早明浦ダム貯蔵酒

(岩本所長)
また地元土佐町の蔵元が醸造した日本酒をダム内部の最深部に貯蔵し、1年熟成させたものを「早明浦ダム貯蔵酒」として数量限定で販売しています。

早明浦ダム貯蔵酒はテレビなどで広く紹介されました

■貯水池はまさに竜!早明浦ダムドラゴンカード

(岩本所長)
また、水資源機構では広報の一環として早明浦ダムカードを配布していますが、これとは別に、平成29年9月、旅客機から撮影された早明浦ダム貯水池の写真が「ドラゴンがいた」とツイッター上で話題になり、新聞等でも取り上げられたことから、これを使用した特別版のダムカード「早明浦ダムドラゴンカード」を作成し、大川村の「村のえき」で配布しています。

早明浦ダムカード

早明浦ダムドラゴンカード
[写真提供:雷門獅篭(かみなりもんしかご) 様]

■自然豊かで美味しい食べ物が豊富な嶺北地域にぜひお越しください!

池田総合管理所のある池田ダムをバックにした岩本所長

(WEC)
早明浦ダムや周辺地域では人を呼び込むための様々な取組みが行われているのですね。
では最後になりますが、一言お願いします。

(岩本所長)
早明浦ダムは全国的にも有名で多くの方が訪れるダムです。ダムが所在する嶺北地域では地域活性化の目玉としてダム及びダム湖周辺の更なる活用を進めているところです。ダム再生事業においてもインフラツーリズムの場としての活用を近隣地域と一緒に考えながら、事業完了後の将来も見据え、ダムとともに地域が発展するよう取り組んでいきたいと考えています。是非、自然豊かで美しく、おいしい食べ物もたくさんある嶺北地域におこしください。

皆さまの来訪をお待ちしています。


(WEC)
本日はありがとうございました。


■池田総合管理所HP: https://www.water.go.jp/yoshino/ikeda/
■Twitter: https://twitter.com/jwa_ikesou