「ダム管理所長に聞く」第35回《霞ヶ浦導水事業》

(聞き手:水源地環境センター 企画部 奥秋)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第35回は、現在事業実施中の霞ヶ浦導水工事事務所の宮下事務所長にお話しをお聞きしました。
宮下事務所長、どうぞよろしくお願いします。

■事業及び事務所の紹介 ~霞ヶ浦導水路の完成により、那珂川から利根川までの広域的な水のネットワークを形成~

(宮下事務所長)
霞ヶ浦導水事業は、那珂川(下流部)、霞ヶ浦及び利根川(下流部)を連絡する流況調整河川を建設し、霞ヶ浦、桜川・千波湖の水質浄化、那珂川及び利根川における既得用水の補給等流水の正常な機能の維持と増進、首都圏の水道及び工業用水道の供給の確保を目的とする事業です。

霞ヶ浦導水路が完成すると、那珂川から利根川までの広域的な水のネットワークが形成されます。これにより、首都圏の渇水被害の最小化や社会経済活動の発展、また霞ヶ浦、桜川・千波湖の水質改善による賑わいのある水辺の復活・再生の実現などに寄与します。

本事業は、昭和51年度に実施計画調査に着手し、そして昭和59年度に建設事業に着手してからは今年度で40年目を迎えました。

霞ヶ浦導水工事事務所は、建設事業着手に合わせ、昭和59年4月に土浦市内に開所しました。当初は、JR土浦駅近くのビルを間借りしてスタートさせました。その後事務所は土浦駅より約2km西側、土浦市内を流れる桜川沿いの現在の位置に移っています。

霞ヶ浦導水路位置図

霞ヶ浦導水事業の目的、模式図

■流況調整河川とは? ~「ダム」ではないが、役割は「ダム事業」~

流況調整河川とは、流況(流量の季節的特性)が異なる2つ以上の河川を水路で結び、時期に応じて、流量に余裕のある河川から不足している河川に水を送り合うことで、各河川の流況改善を図り、渇水時においても流水の正常な機能の維持や新規都市用水の供給の確保等を行うものです。

このように流況調整河川事業は、「ダム建設」は行いませんが、各河川間の流況を調整することにより生み出す水で、新規の水資源開発、不特定用水の補給などを行う事業であるため、河川総合開発事業(ダム事業)のカテゴリーに位置づけられています。

なお、流況調整河川事業は、国内での実施事例はほんのわずかで、現在事業中は本事業のみです。また既に完成し現在運用中のものは、利根川、江戸川等を結ぶ北千葉導水路(千葉県)、筑後川、嘉瀬川等を結ぶ佐賀導水路(佐賀県)となります。

流況調整河川のしくみ

■霞ヶ浦導水事業が先駆けたトンネル等の施工技術

霞ヶ浦導水事業において既に完成しているトンネル等の施工技術は、当時は最新の技術として、安全かつ効率的に施工が行われてきました。なお、現在では、主流の工法となっています。

1)長距離急速施工シールドシステムの導入(石岡トンネル第6工区 (平成13年12月完成) )
①シールド機に耐摩耗性に優れた超硬ビットを装備し、従来の2倍以上、連続約5kmの長距離掘削を可能とすることにより立坑構築数の削減や、②セグメントの高速搬送やセグメント組立と地山掘削の同時施工することにより通常の約2倍の日掘進長(約20m/日)を確保し施工期間の短縮等を図りました。

長距離急速施工シールドシステム概要図

長距離急速施工シールドマシン

2)自動化オープンケーソン工法(SOCS)(玉里立坑 (平成9年12月完成) 他4カ所で施工)
掘削、揚土、ケーソン圧入を自動化施工することにより、従来工法に比べ省力化、コスト縮減を図りました。

自動化オープンケーソン工法(SOCS)概要図

3)新素材コンクリートを用いたシールドの発進・到達防護工法(NOMST)
従来のシールドによる立坑の発進・到達にあたっては、鏡切り作業の防護のために大規模な地盤改良を行っていましたが、立坑壁の発進・到達部分に新素材コンクリート(NOMST:石灰石粗骨材と炭素繊維を鉄筋の代わりに使用したコンクリート)を用いることにより、大規模な地盤改良を行うことなくシールドマシンの発進・到達が可能とすることでコスト縮減を図りました。

新素材コンクリートを用いたシールドの発進・到達防護工法(NOMST)概要図

■早期の石岡トンネル区間の完成を目指して、トンネル工事が本格化

これまでに霞ヶ浦と利根川を連絡する「利根導水路」は完成しており、那珂川と霞ヶ浦を連絡する「那珂導水路」においても一部区間が完成しています。

現在、那珂導水路の石岡トンネル区間の第1工区では掘削工事を進めています。また、第4工区は、シールドマシンの製作に着手しています。さらに、第3、5工区は今月(令和5年6月)工事契約となりました。今年度には全ての石岡トンネル区間において工事が着手となります。

引き続き、1日でも早期の事業効果の発現を目指し、先ずは石岡トンネル区間のトンネル工事等を関係機関とも連携しながら着実に進めて参ります。そしてこれら工事の実施にあたっては、細心の注意を図りながら、事務所と施工者が一丸となって工事や地域の安全、安心を最優先に確保しつつ、早期完成に向けて確実に進めて参ります。

霞ヶ浦導水事業進捗状況図

■試験通水により事業効果を確認(桜川・千波湖)

令和4年度には、那珂川漁業関係者のご理解のもと、水戸市内を流れる桜川・千波湖の浄化効果確認のため「試験通水」(最大導水量:約3m3/s)を茨城県、水戸市と連携して行いました。

通水前は、桜川・千波湖の水⾯をアオコが覆い、景観や水辺環境が悪化していましたが、通水開始後は、徐々に水⾯を覆っていたアオコが薄まり、水質が改善していく様⼦を確認出来ました。

目に見える形で浄化効果が確認出来たことから、地元の方々からは早期の本格通水に強いご期待を寄せられているところです。

今年も、桜川・千波湖の水質が悪化する前から試験通水を行い、効果的な水質改善のための運⽤⽅法を検討して行く予定です。

桜川・千波湖の試験通水前後の変化状況

■完成施設、工事現場の見学等を通じて、霞ヶ浦導水事業をもっと知って欲しい

霞ヶ浦導水工事事務所では、本事業への理解を深めて頂くため、出前講座や完成施設、工事現場の見学を随時受け付けております。

これらの見学等は、未来を担う子供たちを対象にした社会科見学の場としてもご活用頂けたらと存じます。
ご希望に合わせて見学等のコースをご案内いたしますので、お気軽にご連絡、ご相談ください。

見学等にご参加頂くと、もれなくオリジナル「導水カード」を差し上げております。
(なお、「導水カード」は、見学等にご参加頂かなくても霞ヶ浦導水工事事務所において随時配布しておりますので、是非お越しください。)

「出前講座」のご案内

「完成施設、工事現場の見学」のご案内

「導水カード」

■最後に、宮下事務所長より一言

霞ヶ浦導水事業は、建設事業着手後5度にわたる事業計画の変更を経てまいりましたが、石岡トンネル完成に向けていよいよ石岡トンネル全区間で工事に着手いたします。

これまでの間、本事業に携わられた多くの皆様のご尽力には、改めて深く感謝申し上げます。

また、地域の皆様からは「早く通水してほしい」「霞ヶ浦導水による事業効果を期待している」との早期完成を期待する多くの声をいただいております。

これからも、早期効果発現を目指し、職員が一丸となって事業の着実な推進に努めて参ります。

引き続き、関係する皆様のご理解とご協力を、よろしくお願いいたします。

宮下事務所長
(施工中の石岡トンネル(第1工区)にて)


(WEC)
本日はどうもありがとうございました。


■霞ヶ浦導水工事事務所■

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