「ダムの魅力とは」女性技術者らの座談会 電源開発(Jパワー)と水源地環境センター(WEC)が開催

一般財団法人 水源地環境センター
調査部 岡本 二郎

2023年9月28日(木)福島県只見町にあるJパワー只見展示館(福島県只見町)内で、「ダムの魅力とは」をテーマにした女性技術者らの座談会が開催されました。

当日関係者は会津若松駅に集合、只見川下流から上り、東北電力㈱の展示館みおのある敷地内にて昼食、同社の本名ダムを見学、途中から生憎の雨となりましたが、以降はJパワーの滝ダムと滝ダムの堆砂処理を見学し、15時頃からダムに対する熱い思いを語り合いました。その後は田子倉ダムを見学、季の郷ゆらに宿泊し、更なる懇親を深めました。

翌29日(金)は前日とは打って変わって好天に恵まれ、只見駅から小出駅まで只見線に乗り風景を楽しんだ後、そば処薬師にてへきそばに舌鼓を打ち、奥只見ダム工事のために開発された、当時の困難を感じさせるシルバーラインを通り、リニューアルした展示館奥只見電力館を訪問し、当時の工事の映像やドローンによる映像風景に目を見張りました。奥只見ダム、発電所の見学と、最後は悠久にダムに沈んだ村に想いを馳せながら、ダム湖上遊覧船を楽しんで、浦佐駅より帰路に着きました。座談会以外のこれらの見学については次回12月号にてご紹介させていただきます。

参加したのは土木技術者やダムマイスターら6人。各人がそれぞれの参加者の経験からダムの魅力や今後の課題などに対する熱い思いを語り合いました。

参加者は、国土交通省水管理・国土保全局の河川環境課流水管理室田中里佳企画専門官、水資源機構一庫ダムの廣瀬早苗所長代理、東北電力事業創出部門のスマート社会実現ユニット中川真理子サブマネージャー、Jパワー水力発電部東日本支店の栗﨑夏代子田子倉電力所長、ダムマイスターの町田奈桜氏、WEC研究第一部の最上友香子主任技術研究員(司会)の6人です。

本企画はJパワーとWEC幹部の意見交換の場で話が盛り上がり、関係各所と調整しながら参加者を決めさせていただきました。

女性技術者らの座談会開始前
(左から町田さん、最上さん、栗﨑さん、田中さん、中川さん、廣瀬さん)

ダムにはまったのは、子供の遊び場所として素晴らしいから

日本ダム協会のダムマイスターの資格を持つ町田さんは「子供との遊ぶ場所として、自然も満喫しながら、巨大構造物も見学でき、ダムカードも配付していることからたくさんのダムを訪問したのが(資格取得の)きっかけで、自らダムの働きも勉強した」とした上で、「ダムは一つとして同じものはなく、家族と出かける場所として魅力はつきない」とし、これまで約500カ所のダムを訪問したことを明らかにしました。「今後は機会があれば、海外のダムを訪問してみたい。日本の技術者によって開発された台湾には大変興味がある」とお話されました。

ダムの必要性、重要性を伝えていきたい

兵庫県川西市にある一庫ダム管理事務所で働く廣瀬さんは、ダムの運用について、「治水面では、洪水期や降雨予測があるときはなるべく水位を下げておきたいが、利水面ではなるべく水位を高くしておきたい。両立しながらダムの運用は難しい」と指摘しました。「ただ、自然災害の激甚化、また毎年起こる渇水により多くの方がダムの必要性を感じていると思われる。ダムの操作も事前放流や水位高度化などの新しい方法が取り入れられている中、今後も難しい判断を強いられるような状況が増えていくと思うが、下流地域の方々が安全に安心して生活できるよう今後も適切な建設、管理に努めていきたい」と意気込みをお話されました。

ダムのファンを獲得、歴史を感じながら

人気のダムカードのデジタル化に取り組んでいる中川さんは「(デジタル化は)現地に行けない方にもアプローチできる。ダムに対する一般の方の理解が深まり、地域貢献にもつながっていければ嬉しいし、実際SNS上で海外からも反応があったことから、新しいファンの獲得にもつながる可能性がある」また、「当社の展示館みお里では、昔の只見川におけるダム・発電所開発に尽力した白州次郎氏の特集を紹介している。発電事業者として先人の想いを感じながら、設備の老朽化などの諸課題にも取り組んでいきたい」との思いをお話されました。

ダムを通じた地域共生、課題解決を進めたい

Jパワーの電力所で初の女性所長に就任した栗﨑さんは「地元との関わりを第一に考えていきたい」と抱負を語るとともに、「日々の徒歩通勤の中で、只見の自然の美しさ、季節の移り変わりに触れ、地元の方との挨拶など、東京では味わえなかった貴重な体験はとても有難いと感じている」とお話されました。地元の行事参加を通じては、建設当時の方のお話を伺う機会などで地域とのつながりを感じ、「もっとダムに人を呼び込み、Jパワーを知ってもらいたい」との思いを持たれています。その一方で、ダムの課題として、堆積土砂の増加による治水・利水機能の低下に懸念を示されました。「土砂掘削だけでは限界。下流の事業者や河川管理者、林野関係者、流域市町村と協力しながら、解決策を考えていきたい」と力強く語られました。

ダムの寛容性受け入れと社会貢献度を高めたい

河川行政に携わる田中さんは「水辺やダムは地域に価値を生み出す。ミズベリングでは、河川の整備の観点ではなく、公共空間を使う側の視点から、ある程度自由に使って行こうとすることで人を呼び込めた。ダムも流域内外の人を呼び込めるコンテンツになる。最近あるダムでアートイベントがあった。アートにより寛容性が生まれる」とする一方で、「堆砂対策の課題解決や、治水のため、利水ダムも含めた事前放流を実施していく。最新の降雨予測技術を活用し、利水、治水の両者にとってwinwinになる運用の高度化を目指し、今あるものをできる限り活用し、社会への貢献度を高めたい」と熱い思いをお話されました。

ダム好き集まれ、好きを仕事に

司会進行役の最上さんは「このような様々なバックグラウンドの方が集まる会はとても新鮮。自身もダム好きが高じて、今の仕事に就いている。今回のこの記事もWEC発行のWEB媒体である「水源地ネット」に掲載する。好きなダムをいろいろな形で情報発信していこう」とお話するとともに、「堆砂対策の一つである土砂バイパストンネルの手法については、この3月に[土砂バイパストンネルの計画策定のための参考手引き(案)]を策しているので積極的に活用して欲しい」とアピールし締め括りました。

なお、この座談会と只見川水系のダム巡りの詳細はJパワーグループの広報誌「JーPOWERs」と、水資源機構の広報誌「水とともに」にも掲載される予定です。

女性技術者らの座談会写真
(左から最上さん、中川さん、廣瀬さん、栗﨑さん、田中さん、町田さん)