(聞き手:水源地環境センター 企画部 伊藤)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第44回は、独立行政法人 水資源機構 下久保ダム管理所にお伺いしました。下久保ダムのこれまでの取り組みなどについて伺っていきたいと思います。
石橋所長、どうぞ宜しくお願いします。
それでは初めに「下久保ダム」の概要について、ご紹介願います。

■利根川上流で半世紀以上働き続けている下久保ダム

(石橋所長)
下久保ダムは、群馬県と埼玉県の県境を流れる神流川に位置する重力式コンクリートダムです。

神流川は、群馬・埼玉・長野3県の県境の三国山を源とし、群馬・埼玉の県境を流下する利根川水系烏川の支川であり、その流域面積は約407km2です。

利根川の河口から約185kmで烏川と合流し、その合流点の上流約3kmで烏川と神流川が合流しています。その合流点から上流約24kmに下久保ダムは位置しています。

また、下久保ダムは昭和44年1月から管理開始し、半世紀以上働き続けているダムです。

(WEC)
下久保ダムの特徴や目的についても教えてください。

■重力式コンクリートダムで堤頂長の長さが日本一のダム

(石橋所長)
下久保ダムの特徴は、「主ダム」と「補助ダム」と呼ぶ2つのダムがくっついてカドがあるダムというところです。

【普通の形のダムの場合】
(高さ56mしかできない)

【L字型の下久保ダム】

これは、普通の形のダムを造るとしたら、現在の補助ダムが位置する地形が低いことから、水を1,200万m3くらいしか貯めることができない高さ56mのダムしか造れません。そこで、低い地形のところに補助ダムを造ることにより、13,000万m3の水を貯めることのできる高さ129mのダムを造ることができました。

その結果、堤頂長が605mとなり、日本の重力式コンクリートダムの中で一番長いダムとなっています。

■下久保ダムの働き

この総貯水容量13,000万m3を活用し、水道用水としては、東京都12.6m3/s、埼玉県2.3 m3/sの水を供給しています。

工業用水としては、埼玉県1.1 m3/sの水を供給しています。

不特定かんがい用水としては、神流川に必要な流量を確保しています。

下久保ダムの新規利水開発水量

神流川頭首工(かんがい堰)

これらの水を補給する際、ダムの落差を利用して水力発電を群馬県企業局が実施しています。

ダム直下の下久保発電所では最大出力15,000kw(最大使用水量:12m3/s)、下久保第二発電所においては最大出力270kw(最大使用水量:0.323m3/s)の発電を行い、下流にある神水ダム(発電ダム)において調整放流を行っています。

洪水調節としては、洪水期である7月1日から9月30日までの間、3,500万m3の容量を空にして、洪水に備えます。

計画高水流量2,000m3/sの流入量に対し、1,500m3/sの水をダムに貯め、500m3/sの水をダムの下流に放流する洪水調節を行います。

下久保ダムの洪水調節の特徴として、流入量が800m3/sまでは流入量に等しい量を放流し、その後2時間30分かけて一定率で放流量を500m3/sまで低下させ、流入量が最大に達した時から2時間30分を経過した後、流入量が800m3/sに減少した時に放流量が800m3/sとなるよう等差的に放流量を増加させる不定率貯留方式(通称:なべ底カット)を行っています。

(WEC)
令和元年10月東日本台風(台風19号)の際の下久保ダムのご活躍についても教えてください。

■令和元年東日本台風(台風第19号)における下久保ダムの防災操作

(石橋所長)
令和元年の台風第19号のときは、管理開始(昭和44年)以来最大となる累計降水量513mm最大流入量1,840m3/sを記録しました。

この出水では、降雨予測より通常の洪水調節を継続すると、洪水調節容量がいっぱいとなり、ダムに入ってきた水をダムに貯めることができなくなる可能性があったことから、国土交通省の指示により事前放流やダムからの放流を継続して約800m3/sにすることにより貯水容量(洪水調節容量)の確保を図りました。それでも、洪水調節容量がいっぱいとなる予測となったことから、ダムに入ってきた水量をそのまま下流に放流する緊急放流(異常洪水時防災操作)の可能性について関係機関に通知しました。その結果、緊急放流に関する報道も行われました。

その後、幸いにも降雨予測より降雨が減少したことから緊急放流には至らず洪水調節を終えることができました。

近年、日本において豪雨が頻発しているように感じます。

ダムを管理している者として皆様にお伝えしたいことは、

1.ダムが有り、これまで大丈夫だったから、今後も大丈夫とは限りません。
2.ダム管理者としては可能な限りの最善策を講じます。
3.しかしながら、計画規模を超える洪水が発生した場合には、緊急放流(異常洪水時防災操作)に移行せざるを得ない場合があります。
4.その際は、緊急放流(異常洪水時防災操作)に関する通知を関係機関に出させていただきます。
5.その情報を踏まえ、市町村の判断により、住民の皆様に避難指示が出されます。
6.避難指示が出されたときは、直ちに命を守る行動を開始して下さい。
7.また、異常豪雨ではないかと感じた場合には、避難指示を待つことなく避難することも重要です。

と考えておりますので、ご協力のほどよろしくお願いします。

(WEC)
下久保ダム下流にある三波石峡に対する取り組みについても教えてください。

■河川環境の維持・向上

(石橋所長)
ダム下流河川環境の維持・向上を目指し、弾力的管理試験や土砂掃流試験を実施しています。
ダム下流には風光明媚な三波石峡があり、その景観の維持向上にも繋がっています。

下久保ダムの新規利水開発水量

神流川頭首工(かんがい堰)

(WEC)
下久保ダムの水源地での取り組みについて教えてください。

■地域活性化に向けた取り組み

(石橋所長)
「神流川ビジョン」が策定されており、水源地域活性化のため周辺自治体や住民、ダム事業者・管理者が共同で様々な活動を行っています。

また、地域活性化を目的として平成27年度より点検放流イベントを実施しており、近年は新型コロナウイルス等の影響により実施出来ておりませんが、平成30年度には点検放流をコアとした下久保ダム50周年記念行事を行いました。

(WEC)
最後になりますが、今後の取り組みなどについてお話しいただけますか。

(石橋所長)
下久保ダムの建設に伴い、364世帯の方々に移転して頂きました。また、多く地域の方々のご協力により下久保ダムは完成することができました。ご協力頂いた皆様に感謝しながら、今後も皆様の暮らしや豊かな自然を守り、地域の活性化の役割を果たして参りたいと思います。

【下久保ダムの建設状況】

また、下久保ダム周辺には、冬桜の名勝である城峯公園や桜山公園などがあるとともに、ダム下流には国の名勝・天然記念物にも指定されている美しい渓谷である三波石峡があります。下久保ダムカレーを提供して頂いている食堂もあり、ダム湖ではボートに乗ることもでき、観光場所が多くあります。是非、神流川上流に足をお運び頂き、下久保ダムをご覧頂くと共に周辺の豊かな自然などをご堪能いただけると幸いです。

【城峯公園 冬桜】

【三波石峡】

【下久保ダムカレーの例】






(WEC)
本日はお忙しい中、ほんとうにありがとうございました。

■下久保ダム管理所:https://www.water.go.jp/kanto/simokubo/