千五沢ダム再開発事業について(利水ダムから多目的ダムへ)~全国的にも珍しいラビリンス型洪水吐きの採用~

福島県 土木部 河川整備課

◯はじめに

千五沢ダムは東北農政局により昭和50年に完成したかんがい専用の利水ダムであり、福島県石川郡石川町の一級河川阿武隈川水系北須川にあります。石川町のほか、近隣市町村のおよそ2,100haにかんがい用水を供給しているかんがい専用の千五沢ダムに、新たに治水機能を付加する計画が千五沢ダム再開発事業です。

◯本事業に至る経緯

千五沢ダムは建設当初、およそ4,000haのかんがい面積が計画されましたが、その後、農政の見直しによってかんがい面積がおよそ2,100haまで減少し、ダムの容量に540万m3の空き容量が生じました。

この間、石川町では北須川の氾濫により、家屋の浸水被害が度々発生していたため、空き容量の有効活用を検討し、福島県が治水容量として活用することで東北農政局と合意し、容量の買取りを行いました。

買取り時点では、北須川の左支川である今出川上流に治水・利水を目的とした今出ダム建設と北須川の千五沢ダム改築による「今出川総合開発事業」として、スタートしました。

しかし平成19年に、今出ダムの利水事業に携わる水道用水供給企業団が参画を断念したことを受け、事業継続が困難になったことから、今出ダムの建設は中止することになりましたが、石川町の治水対策は必要であったことから、平成21年度に「千五沢ダム再開発事業」として再スタートしました。

福島県が本事業により買い取った540万m3の容量は、治水容量のほか、流水維持容量、堆砂容量にそれぞれ振り分け、これにより常時満水位が1.2m上昇することとなりました。

本事業による流量配分計画は、千五沢ダム地点では基本高水のピーク流量250m3/sのうち1303/sをカットして、120m3/sを下流に放流します。

その結果、北須川における白石橋基準点の流量を390m3/sから250m3/sに低減させる計画となっています。

◯工事の内容

再開発事業の工事内容は、洪水吐きの既設ラジアルゲート3門を撤去し、自然越流方式のラビリンス型洪水吐きに改築するものです。

型式の名称に用いられているラビリンスとは、日本語で迷路・迷宮という意味があり、千五沢ダムにおいては非常用洪水吐きの越流長を稼ぎ、設計洪水流量を安全に流下させるため、このような形状を設計にとり入れました。

また右岸袖部には緊急用の水位低下設備を設けています。これは河川管理施設等構造令において、フィルダムでは7日~10日間程度で常時満水位から最低水位まで水位低下できる放流能力が要求されていますが、千五沢ダムの既設放流設備では水位低下に約21日を要することから、放流能力を増強するためのものです。

洪水調節としては自然調節方式とし、洪水吐きの4つの先端にそれぞれ常用洪水吐きを設置しています。

貯水位に応じて、常用洪水吐きからの放流量を一定量に絞り、それ以上の流量を貯留させることで洪水調節を行います。

千五沢ダムの洪水吐き改築工事は、ダムを運用しながら洪水期とかんがい用水が必要な期間を避け工事を行うことから、施工期間は一年のうち4ヶ月しかない状況であり、平成26年度の着工後、完成まで10年の期間を要しました。

以下の写真はシーズンごとの工事の進捗状況です。

1シーズン目から3シーズン目にかけては、洪水吐きを改築するための桟橋及び仮設矢板の設置を行いました。

4シーズン目から6シーズン目にかけては、洪水吐きの基礎掘削や本体施工、さらに水位低下設備などの施工を行いました。

8シーズン目の令和3年に、工事は最盛期を迎えました。

◯試験湛水について

令和5年9月に千五沢ダムの洪水吐き改築工事が完了しました。

令和5年10月11日から改築した洪水吐きに加え、既存のダム堤体及び貯水池の安全を確認するために試験湛水を行いました。

雨が少なく、計画よりも10日間遅れましたが、令和5年12月31日に洪水時最高水位に到達し、安全性を確認した後、平常時最高貯水位まで水位を下げ、令和6年1月7日に終了しました。

◯千五沢ダムの運用開始について

これまでは、農林水産省から委託された石川町が管理していました。令和6年3月に事業が完了し、令和6年4月からは治水機能が付加された多目的ダムとして、河川管理者である福島県が管理を行っています。

◯おわりに

試験湛水中には、地元の小学生やマスコミ等を対象にダム見学会を開催し、ダムの目的や工事概要を説明するなど、広報活動を行いました。

《小学生の感想》
・ダムが川の氾濫を防いでくれることがわかった。
・防災について勉強することができた
             などの感想が寄せられました。

また、県内外から多くの見学者が訪れ、全国でも珍しい形状のダムが、観光資源の一つとして地域振興につながるものと期待しています。

3月25日に千五沢ダム再開発事業の竣工式が行われ、関係者約80名が出席し、自然災害から住民を守る設備の完成を祝いました。

これからも千五沢ダムが、地域の安全安心のため、効果を発揮するとともに地域に愛されるダムとなるよう取り組んで参ります。

千五沢ダム再開発事業
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/41320a/senngozawadamsaikaihatujigyou2.html