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ダム・水源地 & ダムマニア

■第6号「〜 FNAWIPのP 〜」(ライター:阿久根寿紀)

■第5号「〜 ダムから歴史・人物を学ぶ 〜」(ライター:神馬シン)

■第4号「〜 冬もダムが見たい 〜」(ライター:琉)

■第3号「〜治水安全度が向上した土地活用の現場を見て〜」(ライター:夜雀)

■第2号「〜クレストゲートから放流しよう〜」(ライター:萩原雅紀)

■第1号「〜注目を集めないナンバー2たち〜」(ライター:宮島咲)


「ダムマニアからみたダム・水源地」 第6号 (ライター:阿久根寿紀)


〜FNAWIPのP〜


1. 水力発電の区分

1.1 多目的ダムの利用目的

FNAWIP(フナウィップ)という言葉をご存知でしょうか?
ダムの利用目的を示した記号の内、主な物を並べた言葉で、順に
:Flood control(洪水調節)
:Nonspecific(不特定)
:Agriculture(農業)
:Water(水道)
:Industrial(工業)
:Power generation(発電)
という意味となります。

ダムファン、且つ水力発電ファンでもある私としましては、やはりPを採り上げなければという事でダムの利用目的による区分と水力発電の方法による区分との関係をご紹介させていただきます。


ダムの貯水池容量配分図: 吉野川水系吉野川 早明浦ダム(早明浦発電所) ダムの利用目的がFNAWIPとなっている早明浦ダムの貯水池容量配分図です。 洪水調節容量が「F」、発電単独容量が「P」、利水容量が「NAWI+P」となっています。 利水容量には「NAWI」の放流量を利用した「P」(従属発電という)も含まれています。 非洪水期の発電単独容量のみでも発電所を最大出力42000kWで約6日分運転できる貯水容量を持っています。

1.2 水力発電所を区分する3つのパターンとダムの関わり

水力発電を区分する際、その方法により3パターンの区分が設けられています。
1)種別
発電に必要な水の位置エネルギーを自然の力で得るか、人工の力で得るかの違いが種別です。
種別の区分ではダムの存在そのものが区分に関係してくる事は有りません。

A:一般水力
雨や雪など自然の力で高い位置へと運ばれた水が河川となり集まったものを利用して発電します。

B:揚水式水力
水をポンプなど人工の力で高い位置まで汲み上げ(揚水)して利用します。
揚水=充電、発電=放電と巨大なバッテリーにも例えられます。

2)発電形式
発電をする際に必要な位置エネルギー(落差)をどのように生じさせるかの違いが発電形式です。
種別の一般水力、揚水式水力は、どちらも発電形式の水路式、ダム式、ダム水路式のいずれかに該当します。

A:水路式
河川から直接、又は堤高15m未満の取水堰、頭首工などから取水して河川よりも緩い勾配で導水し、河川との標高差を生じさせることにより落差を生じさせる形式です。
河川等を直に堰き止め、上昇した水位を利用して発電所を行う場合も堰の高さが15m未満であれば水路式の扱いとなります(一部例外有り)。
通常は堤高15m未満である取水堰からの取水となりますので堤高15m以上のダムは関係ない様にも見えますが、途中に水を溜めるための設備を設ける際にダムが設置される事も有ります。
また、ダムからの取水であってもダムによる水位の増加分が落差の増加に寄与しないとみなされる場合、水路式とされる事も有ります。

B:ダム式
その名の通り、河川にダムを設け、ダムで堰き止められた事により上昇した水位とダム下流側、元々の河川水位との標高差を落差として発電する形式です。
小型のダムでは堤高もさほど高くないため落差もあまり大きく確保できませんが、大型のダムですと堤高100mを超えるものもありますので大きい落差が確保できます。
ダム直下に発電所建屋が在る事が有りますが、その多くがこの形式となり、ダムとセットの水力発電所といったイメージが最も強い形式と言えます。

ダム式の発電所及びダムの例:阿賀野川水系只見川 田子倉ダム(田子倉発電所) ダム直下に発電所が設けられており、堤高145mにより上昇した水位で落差105mを発生させて最大出力40万kWの電力を生み出しています。 ちなみに岩盤までの掘り下げ分が有りますので堤高145mでも丸々145m分水位が上昇するわけではありません。

C:ダム水路式 ダム式と水路式を組み合わせ、ダムで堰き止められ水位が上昇した水を圧力水路で更に落差の得られる場所まで導水して発電を行う形式です。 ダムを利用していますが、発電所建屋はダムから離れた場所に設けられることが多いので、ダムとセットの水力発電所といったイメージは弱くなります。

ダム水路式の発電所及びダムの例:天竜川水系天竜川 泰阜ダム(泰阜発電所) 泰阜ダムから離れた場所に発電所が設けて導水することによりダム直下に設けた場合よりも大きい落差を得られます。ダム水路式の場合、一般的にダムと発電所は結構離れている為に一望できませんが、泰阜ダム及び発電所の場合はダムと発電所が近い為一望できる珍しい例となります。 それでもダム直下に発電所を設けるよりは大きい落差が得られ出力も大きく取れます。

3)発電方式
発電に必要な水をどのように利用しているかで区分されています。
ダムの利用目的FNAWIPはこの区分に関わってきます。
流込み式、調整池式、貯水池式は種別の一般水力でのみ、純揚水式、混合揚水式は種別の揚水式水力でのみ用いられる区分です。

A:流込み式
河川から取水した水を貯留せずそのまま利用する方式です。
近年、ダムから放流されている河川維持用水を利用して発電している場合があります。
この場合に、河川維持用水のためにダムの貯水量を利用している場合と、貯水容量を利用していない場合があり、
前者は貯水池式、後者は流れ込み式として扱われます。 当然ながら、河川維持用水のためトラブル等を除き発電所側の都合で使用流量を変更することは出来ません。
河川維持用水は、ダム直下から放流されるため発電所もダム直下に設けられますので、河川維持用水を利用している水力発電所は一般水力−ダム式−貯水池式又は流込み式という区分の組み合わせとなります。

流込み式の発電所及びダムの例: 木曽川水系阿多岐川 阿多岐ダム(阿多岐発電所) 阿多岐ダムの利用目的は洪水調節と利水の「FN」で発電は含まれていませんが、河川維持水を利用してダム直下の放流バルブ室から分岐し、そのすぐ下流に設けた阿多岐発電所(画像右下)で発電しています。

B:調整池式
河川自体及び導水途中にて発電に必要な水を短期間分貯留する方式です。
用いられるダムは小中規模の物が多いです。
調整池式で運用されるダムは電力事業者所有の物が多く、必然的にダムの利用目的は「P」が大半を占めます。
水力発電所で使用している流量を基準として数時間から数日分程度を貯留している場合に調整池式として扱われますので、例えば有効貯水量1000万立方メートルのダムが在った場合、100立方メートル毎秒(36万立方メートル毎時)使用する水力発電所ですと約27時間分の運転を賄う水を貯留しているという事で調整池式の水力発電となります。
但し、貯水池式との区切りが定量的に決められている訳では無く、発電事業者によりある程度異なります。

調整池式の発電所及びダムの例: 阿賀野川水系阿賀野川 鹿瀬ダム(鹿瀬、第二鹿瀬発電所) 鹿瀬ダムの水をダム左岸に設けられた鹿瀬発電所(現在改修工事中)、ダム右岸に設けられた第二鹿瀬発電所で利用し発電しています。 発電事業者所有かつ発電のみ目的のダムにつき利用目的は「P」となっています。 鹿瀬ダムの有効貯水容量227万立方メートルに対し、鹿瀬発電所が最大270立方メートル毎秒、第二鹿瀬発電所が最大290立方メートル毎秒の合計560立方メートル毎秒を流しますので最大出力運転時で1時間程度運転可能な貯水をしていることになります。

C:貯水池式
基本的には調整池式と同様ですが、こちらは発電に必要な水を長期間分貯留する方式です。
梅雨や秋の長雨などの多雨期、春先の融雪期には水を貯留しつつ発電、少雨期には貯留した水を河川流量に補いつつ発電を行います。
ダムの利用目的ですが、発電事業者以外が所有しているダムでは「FNAWIP」から複数が該当するものの、電力事業者所有のダムでは「P」のみとなる場合も結構有ります。
あくまでも水力発電所で使用している流量が基準となりますので、調整池式の例と同じ有効貯水量1000万立方メートルのダムが在った場合、1立方メートル毎秒(3600立方メートル毎時)使用する水力発電所の場合、約2777時間=約115日分の運転を賄う水を貯留しているという事で、この場合は貯水池式の水力発電となります。
こちらも調整池式同様、調整池式との区切りが定量的に決められている訳では無く、発電事業者によりある程度異なります。

貯水池式の発電所及びダムの例: 常願寺川水系和田川 有峰ダム(和田川第一、第二、有峰第一発電所) (画像左上、奥が有峰第一発電所、手前の鉄管が見える建屋が和田川第二発電所、和田川第一発電所はその左手前に隠れています) 有峰ダムの水をダムから離れた場所まで導水して和田川第一、第二、有峰第一発電所で発電しています。 有峰ダムの有効貯水容量2億400万立方メートルに対し、3つの発電所で最大113立方メートル毎秒を流しますので最大出力運転時で500時間程度運転可能な貯水をしていることになります。 また、有峰ダムの標高の高さを活かし、上記3発電所からの放水を利用して更に発電を行っています(他に河川維持用水を利用した発電も行っています) 発電事業者所有且つ発電のみ目的のダムにつき利用目的は「P」となっていますが、 発電を終えた水は最終的に灌漑用水等へ接続、利用されており、間接的には「NAWIP」となっています。

D:純揚水式
発電に必要な水を全て汲み上げる方式です。
水を汲み上げる方法として現在はポンプ水車と呼ばれる、水車を逆転させるとそのままポンプ車として使用できる水車に発電電動機と呼ばれる発電機としても電動機(モーター)としても使用できる回転機を接続して用いています。
発電に必要な水を全て汲み上げるため上部貯水池を設ける河川の流量は考慮する必要が全く有りませんので、地理等の条件が許す限りダムを標高の高い場所に設置できます。
その為、落差の非常に大きい発電所が多いのも特徴となります。
また、上部貯水池の水全てが下部貯水池との間で往き来するのみという事は洪水時に発電放流を避ける様な場合などを除いては天候に関係無く水を使用しても構わないという事ですので流量が大きい発電所も多く、結果として最大出力が水力発電所としてはトップクラスに大きいものがほとんどを占めます。
上部貯水池となるダムは河川である必要性すら有りませんので、非常に長い堤体を持ちプール状の貯水池を持つ珍しい形式、栃木県に在る電源開発沼原ダムなども在ります。
沼原ダムも含めて上部貯水池を成すダムは材料調達の利便性や地質条件などによりロックフィルダムが圧倒的に多いです。 下部貯水池を成すダムには様々な種類が用いられています。

那珂川水系那珂川 沼原ダム(沼原発電所) 画像手前の木々に遮られて見えない部分も含めてぐるりと一周、アスファルトフェイシングされたフィルダムで、揚水式発電の上部貯水池となっています。 山上に設けられており、満水位標高は1238mもあります。 山麓に在る深山ダムとの間で得た落差478mで揚水式発電を行っています。 上部貯水池への流れ込みは無いので純揚水式となります。

E:混合揚水式
発電に必要な水を汲み上げますが、上部貯水池へと流入する河川の水も利用する方式です。
比較的多い例としましては、単一の河川上に2つのダムを設けて上部、下部貯水池とし、発電所は上部貯水池を成すダムの直下に設けます。
上部貯水池を成すダムには意外にもオーソドックスなコンクリートの重力式ダムは無いですが、ロックフィルダム、アーチダム、中空重力式ダム、重力アーチダムなどバラエティ豊かです。
下部貯水池を成すダムですが、こちらはオーソドックスな重力式ダムも含めて様々な種類が用いられています。

高梁川水系成羽川 新成羽川ダム(新成羽川発電所) 同一河川上に新成羽川ダムによる上部貯水池、田原ダムによる下部貯水池を設けた混合揚水式発電所です。 上部貯水池を成す新成羽川ダムは日本最大の重力アーチ式ダムです。

2.水力発電所ウォッチングを楽しむために
水力発電所の区分をご紹介しましたので、実際に水力発電所ウォッチングする際に
着目するとより一層楽しめるポイントをご紹介いたします。

1)視覚で実感出来るエネルギー
水力発電所は原理がシンプルですので、電気を起こしている様子が一目で実感出来るという特長が有ります。 特にダム式の水力発電に於いて、下流側が開けているフィルダムでは天端などから他型式のダムでは岸の高い場所などから湛水したダム湖水面とダム直下に在る発電所建屋を一望出来ますので、ダム湖面側の水位を見つつ視線を発電所建屋側に移動させると、これだけの落差で発電が行なわれエネルギーを生じているというのが良く解ります。

ダム湖面と発電所建屋を一望できるダムの例:北上川水系胆沢川 胆沢ダム(胆沢第一、第三発電所) ロックフィルダムの天端からダム湖面と発電所建屋(画像左端)が一望できます。

2)バラエティ豊かな水圧鉄管
水力発電は水を高い場所から低い場所へと導き、その落差で生じた水の勢いを利用して発電を行います。
その際に水を導くのに用いるパイプに水圧鉄管があります(水圧管路とも呼ばれます)が、
パイプの太さや長さ、新旧による見た目の違いが異なりそれぞれの発電所で同じ物はまず在りません(1ヶ所の発電所では同じ水圧鉄管を複数使用する事は有ります)。
加えて、山中に巨大な人工の構造物が登場する違和感も有り、それぞれで異なる表情を見せてくれる設備をあちこち見て回りたくなります。
巨大な水圧鉄管の例:信濃川水系梓川 竜島発電所(稲核ダム) 稲核ダムから最大54立方メートル毎秒の水がこの巨大な水圧鉄管で水車へと導かれ発電を行っています。 また、最上部のタンク(サージタンクと呼ばれ発電機の急停止で発生する急激な水圧変化等を抑制します)も巨大で目を引きます。


3)大きいダムから小さいダムまで様々なダムを楽しめる
堤高15m以上の河川法上のダム(ハイダム)から堤高15m未満の堰(ローダム)まで様々なダムが水力発電の取水や流量調整等に使用されており、水圧鉄管同様にバラエティ豊かです。

堤高15m未満である堰の例:木曽川水系飛騨川 上麻生ダム(上麻生発電所) 堤高13.18mとローダム扱いとなりますが大正15(1926)年竣工、練石積みのゲートピアにローリングゲート(円筒形の水門扉が回転しながら上下する水門)を備え重厚感あふれる堰堤です。


4)最後に
水力発電所そのものは、必ずダムを必要とするわけではありませんが、ダムが在ることによって発生する電力が大幅にアップします。
また、近年、ダムの河川維持流量を利用した発電が増えるなど、積極的にダムを発電へ利用する動きともなっています。
この様に今まで以上にダムと水力発電の関係が太くなってきていますので、ダム側から水力発電を見てみようという事で記事を書かせていただきました。


「ダムマニアからみたダム・水源地」 第5号 (ライター:神馬シン)

 

〜 ダムから歴史・人物を学ぶ 〜

 

ダムペディア / 神馬シン

 

私は愛知県西尾張地方に住んでいるが、それだけに木曽川は身近な存在だった。

ダムマニアをはじめてから何度も木曽川の上流にあるダムには足繁く通った。


▲ 大井ダム


まずは大井ダム。日本初の発電用ダムとも言われる。それだけに竣工は大正13年(1924年)ととても歴史あるダムだ。


▲ 福沢諭吉と独立自尊


右岸ダムサイトには大きな福沢諭吉の石碑が設置されており、諭吉の座右の銘である「独立自尊」が書かれている。

福沢諭吉については「学問のすすめ」であるとか、1万円札の肖像になっている歴史上の人物であることぐらいしか知らなかったが、 そもそもなぜダムに福沢諭吉なのかも全くピンときていなかった。


そこでこの人物の登場である。


▲ 大井ダムの石碑に嵌められた肖像レリーフ


その名は福沢桃介。福沢諭吉の娘婿であり「日本の電力王」とも呼ばれる人物である。
もともと桃介の義父である諭吉は明治の初期に水力発電によって工業を発展させることを提唱していた人物なのだが、 それを木曽川の豊富な流量に着目した桃介が実現することになる。


当初、木曽川の水力発電の開発は後の大同特殊鋼へとつながる電気製鋼所建設のためであり、 着実に名古屋を発展へと導いていった。しかし、よそ者には排他的な名古屋財界と桃介は不仲だったと伝えられ、 それゆえ大阪進出のきっかけを与えてしまい、大井ダムは大阪のための発電用ダムとなってしまった。


これを知った時、とても残念に思ったが名古屋を発展に導いたのは事実としてあるため、 愛知県に住む私としては彼に対して尊敬の念を懐くようになった。


木曽川流域には大井ダム以外にも福沢桃介にゆかりのあるダムや施設が点在している。

岐阜の各務原市には木曽川のほとりに「貞照寺」というお寺がある。 このお寺は桃介の愛人でありビジネス上のパートナーでもあった日本初の女優川上貞奴が、 桃介と生活していた名古屋市内の二葉御殿を売却するなどして私財を投げ打って建立したお寺である。 日本初の女優とだけあって、芸事成就にご利益があると言われ、本堂内には参拝した多くの芸能人の木札が掲げられている。


▲ 成田山貞照寺


また、本堂の回廊には貞奴の生涯を物語形式で彫刻した8枚の木製のレリーフが飾られている。 その中でも大井ダム建設についてのレリーフが展示されている。放流する大井ダムの様子が彫られているので必見の価値がある。


▲ 大井ダム彫刻レリーフ


敷地内には貞奴が葬られている霊廟があり、その前には観音像が建てられているが、 実は大井ダムの方角に向かって建っている。いかに貞奴にとって大井ダムが桃介との想い出の地であったのかを深く知ることができるのだ。


▲ 川上貞奴霊廟


大井ダムの次に建設された木曽川のダムである落合ダムも桃介ゆかりのダムとなる。 こちらも旧大同電力(関西電力)によるもののため、残念ながら名古屋のために造られたダムではない。


落合ダム

▲ 落合ダム

落合ダム

▲ 落合ダム


長野県の南木曽町には福沢桃介記念館がある。 もともと桃介の別荘ではあるが、木曽地域での電源開発における前線基地として担ってきた。 瀟洒な西洋風の建物なので当時の木曽の人々は驚いたのではないだろうか。


福沢桃介記念館

▲ 福沢桃介記念館


記念館に向かう途中、その名も「桃介橋」という木造の大きな吊橋がある。 読書発電所建設資材を運搬する目的に建設された橋のため、 当時はトロッコのレールが敷かれていたそうだ。しかも面白いのは、 普通に橋を架けるならコストを考慮して川幅の狭い場所を選んで建設すると思うが、 わざわざ川幅の広いところに、しかも川岸に垂直ではなく斜めに橋を架けているのだ。



桃介橋

▲ 桃介橋


当時の電力会社は現代でいうベンチャー企業のような性質を持っていたのではないかと思うが、 このエピソードだけでも桃介の企業家たる横顔を垣間見た気がする。 成金主義に見えなくもないが、私としてはそうではなく体外的なアピールとして、 日本の技術力や資本力を海外に知らしめるために造られたのではないかと考える。


その他にも読書発電所へ送水するための柿其水路橋は、 ひと目では新幹線の高架橋に見えるぐらい立派な水路橋で、 とても大正時代に造られたとは思えないほど立派なものだ。


桃介橋

▲ 柿其水路橋


木曽川の上流は水力発電の宝庫であり、 名古屋市の日泰寺舎利殿にある桃介を称える石碑には「当時の電灯会社は主として火力に頼っていたが、 尾張信濃の渓谷を千万年間黙々として亜流茫々としていた河水を電力に変えた」と書かれている。


そのため、木曽川の上流のダムや発電所を巡っていると、 多くの桃介ゆかりの史跡があるので歴史的観点からダムを深掘りしていくのも 新たな発見につながってたいへん面白い。


ダムに興味を持ったらダムの周辺や裏側の歴史にも思いを馳せてみるのもどうだろうか。


 

                                              

 

 




 

「ダムマニアからみたダム・水源地」 第4号 (ライター:琉)

 

〜 冬もダムが見たい 〜

 

Dam Japan/琉

 

 

日本には四季がある。
私達の中ではそれが当然で、四季の存在を振り返って感動する機会は殆どない。
春は花見、夏は海や川で遊び、秋は紅葉を楽しみ、冬は家で温まる。

思い描く四季の姿はそれぞれ違っても、どの季節にもイメージがしっかりと存在するのではないだろうか。

 

それをダムに当てはめてみるとどうだろう?
春は雪解けの放流。毎年、川の防災情報の放流通知を見て春の訪れを感じる。
「雪が解けて川になって流れてゆきます」を放流通知で感じるのだ。

ダム好きにとって春の訪れを感じるのは、花でもなく花粉でもなく放流通知だろう。きっと。

 

夏と言えば「森と湖に親しむ旬間」だ。
私は暑さが絶望的なほどに苦手だが、その魅力に釣られ一年で一番暑い時期と分かりつつ足を運んでしまう。暑いのに。
日焼けもするのに。
この時期はダム湖の水位が低くなってしまうダムが多く、ダム湖の写真としては少し物足りない感じを受ける時期でもある。

 

秋になると…紅葉だろうか。
しかし9月10月はまだ台風や大雨も多く、ダム情報や河川の水位を逐一監視することに気が抜けない日もまだある。
そして今年(2015年)の秋はダムのイベントも多く、ダムのイベントは夏!と言うイメージが少しばかり崩れた年だった。
毎週あちこちのダムで見学会等のイベントが開催され、ダム好き達は右往左往した様だ。
こんな事に右往左往出来るなんて…と昔の事を考えて嬉しく思うこともしばしばだった。

 

そして、秋の次は冬が来る。冬になれば、雪が降る。
冬はイベントも殆ど開催されないので、比較的静かな季節ではある。

日本各地のダムを飛び回るダム好きでさえ、静かになる季節が冬だ。

 

(桂沢ダム) 雪の世界に抱かれたダムも美しい。(金山ダム)

 

 

しかしそんな季節も、感動する様な景色に出会う事ができる。
勿論、寒いし日も短いし、雪国に行くには用意が必要なので誰でもお気軽にとは言えない。

しかし、その用意が整うのであれば是非とも冬のダムにも行ってみて欲しい。

 

雪に覆われたダムは、厳しい環境に立ち向かう力強さが伝わってくる。
洪水と懸命に戦う姿も力強いが、ひたすら無言で氷雪に耐える姿も美しい。
冬でなくても静かなロケーションである事が多いのがダムだが、雪と氷に覆われた季節はより静寂が加速する。
あの静けさと寂しさも、私は悪くないと思う。


 

虫の音や鳥の声も聞こえぬ静寂が広がる。(高坂ダム)

 

 

気を付けなければならないのは、冬は閉鎖されて到達できないダムの数が増えると言うこと。
下調べをして狙いを定め、雪ダムとじっくり対峙し会話するのもありだ。

それと、フィルダムは一面雪に覆われるとただの雪の丘にしか見えなくなる場合もあるので、まず行くのであればコンクリートダムの方が良いかも知れない。

 

そんな閉ざされし冬のダムだが、冬にあえて見学会を行うダムが出てきたのだ。

 

 

 

ダム好き界に大きなインパクトを与えた矢木沢・奈良俣ダムの冬季見学会。(矢木沢ダム)

 

 

 

 

 

 

完成も秒読みの津軽ダムは、1年を通じ様々な

見学会を積極的に開催していた。 (津軽ダム)

 

 

 

完成の迫る青森の津軽ダムでは、冬の工事現場見学会を行った。冬に、ダムの工事現場を見学させてくれるなんて初めて聞いた時には信じられなかった。
しかも雪の多い地域なのにも関わらず。

続いて2015年には矢木沢ダムと奈良俣ダムで冬季見学会が開催され、これまで冬季は一部の職員のみしか立ち入る事のできなかった厳冬期の両ダムに入る事ができた。この情報を知った時には心が踊った。

 

まだまだ開催例は少ないものの、こうして雪ダムの見学会も開催されるようになって来た。
雪の無い季節に比べて開催するハードルは高くなると思うが、他にも開催される様になればとても嬉しい。
たまには、雪ダムに行ってみるのもどうだろうか。

飽きるほどに見たダムでも、新しい景色に出逢えるかも知れない。

 

                                              

 

 






■「ダムマニアからみたダム・水源地」 第3号 (ライター:夜雀) 

 

〜治水安全度が向上した土地活用の現場を見て〜


ダム愛好家/夜雀

 

 

 “上流にダムができたので洪水被害が減った”という声を聞くと、ダムの仕事が認められたと感じて嬉しくなります。しかし、“これでもう洪水は来ない”と認識されるととても不安になります。
ダムは非常に効果的に洪水を調節する装置ですが限界があるからです。それを正しく地域の方に説明できていなかったために誤解が起きているのではないかという事例も耳にしてきました。
もうひとつ気になっていることは今後、洪水になる頻度が減ったと判断されて今まで商業地、工業用地、住宅などには使われていなかった土地の活用についてです。

 

 先日、ダム工学会による「with Dam Night in Fukui」というイベントに参加してきました。お越しになったお客さんから出た質問で、治水安全度が向上したことを説明しているパネルの前で地域にできた郊外型の大きなショッピングモールの写真が腑に落ちなかったようで何の関係があるのかというものがありました。

これに対して今までよく出水で水に浸かる土地だから農地にしか使えなかった場所なんですよ、堤防や河川、ダム整備で洪水になる確率が低くなったから商業地として使えるようになったということなんですよ、と説明すると理解していただけました。

 

 

 

 

 

 

 

 

2015年8月27日開催 with Dam Night in Fukui パネル展示会場

 

                          

 

  三重県伊賀市にある上野遊水地は市街中心部から近い木津川と服部川の合流点近くに設けられた施設です。本年6月に運用開始になりました。木津川の長田遊水地と木興遊水地、服部川の新居遊水地と小田遊水地の4か所で合計248.5haの土地に900万

m3の水を一時的に貯留することで市街地の浸水を軽減します。
上野遊水地のある上野盆地は1854年の伊賀大地震で1.5mも地盤沈下しています。そして柘植川、服部川、木津川の3つの川が合流する地点で合流点のすぐ下流に狭窄部、岩倉峡があります。既往最大の洪水は淀川水系の河川基本計画のもとになっているT5313(昭和28年台風13号)による浸水面積540haです。 上野遊水地で浸水を防ぐことができる面積は248.5haですが、ここだけで治水のすべてを担うわけではありません。河道掘削と上流に計画されている川上ダムが完成すれば更に安全度は向上します。
T1318(平成25年台風18号)襲来時、上野遊水地は運用開始前ではありましたが水をためる部分の周囲堤の多くは完成していましたので住宅への浸水被害は食い止められました。T1318(平成25年台風18号)は近畿各地でT5313(昭和28年台風13号)を上回る降雨をもたらしましたのでこの整備における被害軽減は素晴らしいことである思います。

 

 
木興遊水地排水門と木津川(右)
 
 

http://www.kkr.mlit.go.jp/kizujyo/download.php? type=info&id=323&file=1&step=download

 

  

 

 ダムや河川整備が進むことは地域の産業、暮らしにこのように貢献するのです。流域にお住まいの方の中には工場が来てよかった、商業施設ができて便利になったと施設だけに注目してしまう方もいらっしゃいますがそれらの施設がその場所に建つために河川整備が進んだ結果であるという事も知ってほしいのです。

 しかし災害大国日本において絶対の安全はないという事はすべての人が知っていなくてはならない事で、安全だと言われたからここに家を、工場を建てたのにという、災害後の被災された方の声が耳に入ると悲しくなります。

 住宅地の開発は居住人口を増やすために、工業地の開発も周辺の人口増加のために奨励されますが、一昔前は平らだからという事でよく水に浸かる場所であるにもかかわらず川の横に住宅や工場などが作られ、洪水が起きると当然のように浸水被害が出るという事例がありました。
水に浸かりやすい場所では被害が少なくその後の影響が比較的少ないであろうという事で農地として使われ続けている土地が数多くあります。

 

 ただ、農地でも堤防や排水機場、ダムの整備で治水安全度が向上(今までより洪水で水に浸かる被害が少なくなった)したという土地利用で、現在でも浸水リスクが高いと思われる場所に稲作ではなく畑作に転じているところも多くなったと聞きます。米に比べて野菜のほうが単価が高いという事で転作される方がいらっしゃるとのことでした。
水稲は数日水が引かなくても、等級は落ちますが米としては収穫可能であることが多いです。しかし野菜では種類にもよりますが水に浸かると収穫できなくなることもあります。長くその土地にお住まいで農業に従事しておられる方は理解した上で転作されているのだと思います。

 

   
排水機場整備で浸水リスクが減ったと農家の方が判断されたのか稲作でなく畑作(豆)に転じた土地利用の例
     

 土木学会水工学委員会 環境水理部会研究集会2015にて開催された現場見学会に参加して亀岡市の霞堤を見学してきました。

 

 

 

 

 

 

 
    

                                

 

 写真右側を流れているのが桂川です。中央左で道路が走っているのがわかると思いますがこの道路は手前が低く坂になってその先は高くなっています。この部分が霞堤の堤に当たります。桂川が増水した時はこの低くなった部分から写真左側の農地に水があふれ出して遊水地機能を発揮して活躍します。桂川の水位が下がれば霞堤内に流入した水は自然に川へと戻っていく仕組みです。

 

 

 

 

 

 

 
  上の写真を撮ったのと同じ場所から見たJR亀岡駅方向です。  

                                

 

 

 T1318(平成25年台風18号)では亀岡駅のホームの高さすれすれまで水位が上がりました。

 

 

 

 

 

 
 国土交通省 近畿地方整備局 河川部「平成25年9月台風18号洪水の概要」より  

http://www.kkr.mlit.go.jp/river/saigai/20130916tyhoon18/saigaihoukoku04.pdf

 

 

 亀岡市の中央部は亀岡盆地と桂川の狭窄部である保津峡が下流に控えているという地理的特徴を踏まえて土地活用がなされてきた場所です。

 

 

 

 今は霞堤があり遊水地機能を発揮して市街を守っているこの場所にスタジアム建設の計画があるという事を聞きました。地元自治体としてはスタジアムの誘致は経済的にもとても良い話であるというのはわかります。ただ、数年前にもここは既往最大の出水で浸水した場所でもあります。その時に上流の水資源機構の日吉ダムが洪水調節を担うダムとして亀岡を守るために限界まで水をためて頑張ったことも地域の方には理解してもらえていると思います。ただ、今後、それを上回る大雨が来ないとは言い切れないし日吉ダムが限界まで頑張っても保津峡という狭窄部が存在するゆえにここは桂川が氾濫してしまったという事を踏まえて土地利用を考えていかなくてはと思います。

 

 地域を活性化する施設の建設が今まで霞堤があったために守られていた市街地を脅かすものになってはならないからこそ、スタジアムの機能とデザインは高度な治水対策をもったものになることが期待されます。

 

 今まで何度も浸水を経験してきた土地であるからこそ、それらの心配が払拭されるような計画が出来あがったら同じように浸水リスクに悩んでいる自治体にとって素晴らしい例になることは間違いないので今後の計画の推移に注目していきたいと思います。

 『ここは絶対に安全です』という土地は日本という国土に於いて無いということをここ数年、頻発している大雨や土砂災害などで実感する方も多いと思います。都心部においても都市型洪水による浸水は起きています。ダムだけで洪水は防げません。ダムは総合的な治水対策の中の一つの装置なのです。

 

                       T1511(平成27年台風11号)の洪水調節後、後期放流を行う日吉ダム

 

 そして“ダムができたからもう大丈夫”という流域の方の誤解は、ダムに過大な負担になります。
ダムはライフラインを守り人のために働く構造物です。
そして限界があることも知ってほしいと思っています。

 





■「ダムマニアからみたダム・水源地」 第2号 (ライター:萩原雅紀) 

 

〜クレストゲートから放流しよう〜


ダムライター&写真家/萩原雅紀

 

 

 インターネットが普及しはじめた2000年前後から、個人ホームページやSNSを通じて、それまでは視界に入っても「見えていなかった」、ダム、工場、団地、鉄塔、橋といった巨大建造物やインフラストラクチャーを鑑賞して楽しむ趣味が広がった。近頃ではそれらの写真集やDVDが発売されたり、見学ツアーが開催されたりもしている。

こうした活動の広がりが、最近になって新聞やテレビで取り上げられるようになって、いわゆる「巨大建造物鑑賞趣味」も徐々に一般に認知されてきたと感じる。やや大げさに言えば、我々はまったく新しいカルチャーが誕生して浸透していくさまを体験しているのである。ちなみに、こういった「見られることを意識しない、機能を優先した構造物」を総称して、趣味人たちは「ドボク」と呼んでいる。

 

 中でも特に工場は夜景が分かりやすく美しく、川崎や北九州といった大規模な臨海の工業地帯では船に乗って海上から工場を鑑賞するクルーズが開催されるなど、工業地帯のイメージアップや地域おこしに積極的な自治体もある。工場は景観の無機的な美しさに加えて、市街地から近く交通の便も悪くないこともあって女性のファンも多い。2007年には工場写真集のタイトルでもある「工場萌え」が流行語大賞にノミネートされるなど、工場鑑賞はもはや一部のマニアだけのものではなくなったと言える。

いっぽう、ダムも同じような時期に写真集やDVDが発売されてじわじわと愛好者が増え、雑誌やテレビでダムの魅力が取り上げられる機会も多くなってきた。なにより、2001年にダム業界に起こったハルマゲドンとも言える、田中康夫元長野県知事による「脱ダム宣言」と、それに乗ったマスコミによって全国的に吹き荒れた強烈なアゲインストが、表面的にはここにきてかなり弱まってきているのではないかと感じる。

 

 そのもっとも大きな原動力となっているのが「ダムカード」だと思う。2007年に国土交通省と水資源機構が配布を始めて以来、ダム好きだけでなく一般のファミリーやカードコレクターなどもダムに訪れるようになり、単純な話で言えば「ダム」という言葉が多くの人の耳に入り、目に留まるようになった。また、ダム近隣のレストランなどで提供される「ダムカレー」も、ダムに訪れた際の嬉しいアクセントになっていると思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

      ダム人気を一気にお茶の間レベルに広げたダムカード

 

                          

 

  逆に、ダムの敷居の高さとなっているのがたどり着くまでの道のりである。公共交通機関を使ってダムに出かける強者もいるにはいるものの、やはりダムを自由にめぐるには車やバイクが欠かせない。この点は、ほかのドボクと比較してダム趣味に足を踏み入れる際の小さくないハードルになっていると思う。バスツアーなどの企画もあるけれど、公共施設である以上、土日に商業ツアーが受け入れづらい、というのもファン層拡大を考えると残念な点である。

 

 

 

 

 
            土日にもツアーを開催できると良いのだけど  

                       

 

 しかし、ダムには最大の武器がある。それは放流である。工場も団地も鉄塔も橋も放流はできない。しかしダムには放流があるのだ。それはダムだけの特権である。ダムの放流は見る人をそこに留まらせる力がある。そして見る人を遠くから呼び寄せる力がある。ダムの放流はエンターテインメントであり、スペクタクルである。だからこそ言いたい。ダムに人を呼びたいなら放流をするべきだ。それも、なるべく高い位置から。

 

 

 

 

 

 

 
 ダムのいちばん上からの放流はどうしてこんなに興奮するのか  

                               

 

 同じ流量でも、水の位置エネルギーが高ければ高いほど発電力が増すように、水の位置エネルギーが高ければ高いほど、つまり、より高いところにある水門や越流堤からの放流ほど興奮度も増すのだ。

ダムと言えば放流が思い浮かぶけれど、ダムは思ったほど放流しない。これはダム好きになってダムをめぐってみて分かった最初の挫折である。ダムが放流するとすれば大雨の最中、もしくは大雨が過ぎ去ったあとが主で、あまりダムに行きやすいタイミングとは言えない。それも、一番上についている水門ではなく、下の方の放流設備から勢いよく放流していることが多い。
あとは雪解けの時期や、非洪水期から洪水期に向けて貯水位を下げている最中などで、これは一般の人が知るようなものではないし、実際に行ってみるまで放流しているかどうか、放流していてもどこからしているかは分からない。

 

 

 

 
    そこもいいけど上の水門から放流してもらえないだろうか  
   

 つまり、ダム初心者が放流と対面するのはほとんど運任せだと言える。ある程度経験を積めば、各ダムのホームページや川の防災情報内のダム情報、都道府県の防災ページ内のダム情報などを見て判断できるけれど、少しダムに興味がある程度の一般人にとっては、そのページまでたどり着くことの方が困難だ。そこで、ダムにはぜひ「現在放流しているか否か、しているならどこからどの程度か」を積極的に情報発信してほしいと思う。

 

 最近になって、各地のダムでクレストゲートの点検放流が行われるようになった。いや、ひょっとしたら以前から行われていたのかも知れないけれど、事前にプレスリリースを出して、しかも土日に開催するようになったのは最近だと思う。非常時以外は使われない放流設備からの迫力ある貴重な光景。これによって大勢の見物客が訪れ、地元に多少なりとも経済的な効果が出ていることは間違いない。それならば、もっと放流の頻度を上げてもいいと思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 
   予告すればクレストゲート放流にはこれだけの人が集まる  

                                

 

 かと言ってどのダムでも毎月点検放流をするべき、というわけではない。たとえば雪解けのとき。洪水調節のピークを越えて水位を下げるとき。発電で捌けない無効放流が発生するとき。通常は常用洪水吐のコンジットゲートや放流バルブを使うことが多いと思うけれど、もし水位がクレストゲートの下端を越えているなら、クレストゲートも使うことはできないだろうか。時折行われるフラッシュ放流もクレストゲートからできないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 
          雪解け水の放流もクレストゲートを使ってほしい  

                                

 

 点検放流はクレストゲートからの放流が見られる数少ないチャンスなので、われわれファンも楽しみにしている。現在は毎年行っているダムもあれば不定期なダムもあるけれど、やはりある程度継続して行ってこそ、はじめて定着していくイベントだと思う。そして年1回だからこそ、なんとか調整して土日に開催してほしい。また、毎年行えないとしても、たとえば同じ地域のダムが持ち回りで実施するなど、その地域で放流を意識づける取り組みができると定着し、結果的にダムに対する認知度が上がっていくのではないかと思う。

 

 

 

 

 

 

 
         クレストゲート点検放流はぜひ継続して行ってほしい  

                                

 

 最近はゲートを持たないいわゆる坊主ダムや、水を貯めない穴あきダムも増えてきている。その中で、ゲートが設置され、水を貯めているダムだからこそできるクレストゲート放流の可能性を、地元地域ともっと追求してほしいと思うのだ。これは国交省や水資源機構だけでなく、自治体や農政、電力会社のダムでも同じである。 なぜなら、一般人にとっては事業者が違ってもダムであることに違いはないからだ。

 以上、ダムの建設も操作も管理もしたことのない素人が、内部の事情をまったく考慮せず好き勝手に書いてきたけれど、人々にもっとダムに興味を持って訪れてほしいし、個人的にもっと放流を見たいし、ダムの地元地域がもっと盛り上がったらいいなと思って書いてみた。何より僕の記憶でいちばん古いダムは、トンネルを抜けた瞬間に目の前に現れた、豪快に水が流れる小河内ダムの洪水吐なのだ。あのときのドキドキした気持ちを、多くの人に感じてもらいたいと思っている。






■「ダムマニアからみたダム・水源地」 第1号 (ライター:宮島咲) 

 

〜注目を集めないナンバー2たち〜


ダムマニア&ダムライター/宮島咲

 

 

 昔、「2位じゃダメなんでしょうか」という語句が話題になった。1位じゃないと何がいけないのか。「日本一の山は富士山、世界一の山はエベレスト」と、多くの人が答えられるように、多分、ダムに多少の興味を持っている人は、日本一の高さを誇るダムは黒部ダムと答えられることだろう。

 2位じゃダメな理由、それは知名度の差だと私は考える。 さて、下記のダムをご存知のかたはどれほどいらっしゃるだろうか。

 

■堤高第2位! 高瀬ダム

 

 国内堤高第一位を誇る黒部ダムのすぐ隣にあるダム。黒部ダムは富山県にあるダムだが、東日本からのアクセスは、県境を越え、お隣の長野県大町市より発着しているトロリーバスを使い、関電トンネルを抜けてダムへ行くのが一般的だ。ということで、大町市は黒部ダムの玄関口として何年もの間そのポジションを守り続けてきた。

 さて、この長野県大町市。じつは、他に3つのダムを抱えている。国土交通省が管理する大町ダム、東京電力の発電専用ダムである、七倉ダムと高瀬ダムだ。これらのダムはそれほど目立ったものではないと思われがちだが、じつは、とんでもなく目立つ存在であった。

 

 高瀬ダムは堤高176mのロックフィルダム。国内第2位の高さを誇り、第1位の黒部ダムに10m差でこの順位に甘んじている。発電専用の巨大ダムで、直下にある七倉ダムと揚水発電をしている。揚水発電とは、標高の異なる2つのダムを管でつなげて、その間に発電所を挟んだ構造をしている。発電するときは、標高の高いダムから低いダムへ水を流し、間の発電所にて発電をおこなう。電気が余った夜間などは、逆に、発電所に外部から電気を与え、発電機を逆回転させる。そうすることによって、低いダムの水が高いダムへと汲み上がるのだ。これにより、余った電気を高い位置の水として置き換えることができ、また明日、発電をおこなうことができる。いわゆる巨大な蓄電池と考えればよいだろう。その発電をおこなう発電所は、新高瀬川発電所という名前だ。 この発電所は最大128万kWの電気を生み出すことができ、この量は原子力発電所1基分に相当する。

 

 こんなにすごい高瀬ダムなのに、すぐ隣に日本一の黒部ダムがあるため、全く目立たない。所在地である大町市も、黒部ダムの玄関口という触れ込みで観光事業をおこなっているため、高瀬ダムのことなど眼中に無い。ただし、このダムもPR的に劣っている点がある。ダムまで自家用車で行くことができないのだ。山道を延々30分以上歩くか、専用のタクシーに乗るしか方法は無い。 素晴らしいスペックを持ったダムが隣り合っているのに、どうしてこんなに差があるのだろか。非常に不思議なダムである。

 

 

 

 

 

 

 

 
堤高第2位の高瀬ダム。堤高は176m。第1位の黒部ダムに10m差で惜しくも2位。長野県大町市にあるダムだが、大町市は黒部ダムを中心にPRする方針の様で、ほとんど知られていないダム。  

                                (写真提供:だい様)

 

 

■堤頂長第2位! 東富士ダム

 

 静岡県にある東富士ダムは、国内第2位の堤頂長を誇る。堤頂長とはダムの長さのことで、これが長いほど横長で平べったいダムになる。通常のダムは、両隣が山で挟まれ、下流部のみダムとなっている。しかし、ダムの構造は複雑で、ダム湖全体がダムで囲まれている造りのダムもある。この東富士ダムは珍しい造りで、下流上流、左右ともダムとなっている丸い構造のダムなのだ。

 

 ちなみに、国内第1位の堤頂長を誇るダムは、新潟県にある大谷内ダム。大谷内ダムの堤頂長は1780m、東富士ダムの堤頂長は1597.5mで、約180mの差で第2位となってしまった。大谷内ダムも東富士ダムと同じ構造で、ダム湖全体がダムというかたちだ。この手のダムが最長の堤頂長を誇ってしまうのは必然的であろう。また、純粋に、下流部だけを堰き止めるダムで最長の堤頂長を誇るダムは、北海道にある美利河(ぴりか)ダムだ。堤頂1480mと、東富士ダムに100mほど劣る長さとなっている。

 

 また、この手のダムはダム愛好家泣かせのダムでもある。ダムの端から端まで行こうと思うと、単純に19分以上かかる。付帯設備などを見ながら歩くと簡単に30分は要してしまうのだ。東富士ダムなどの丸いダムならまだましだが、美利河ダムの様に往復しないと同じ場所に戻ってこられないダムの場合、この倍の1時間を要してしまう計算になる。この手のダムは、ダム巡りの行程を大きく狂わしてしまうのだ。堤頂長が長いダムは、自動車での見学が可能なのか、十分下調べして訪問した方がよい。

 

 

 

 

 
富士山の麓にある東富士ダム。この様な草の堤体が湖(貯水池)を取り囲んでいる。ダム湖の周りで乗馬を楽しんでいる人々を多く見かけるが、まさかこのダムが堤頂長第2位のダムだとは思いもしないだろう。  

                                (写真提供:だい様)

 

■堤体積第2位! 胆沢ダム

 

 胆沢ダムは、2014年に完成したまだ新しいダム。岩手県にある国土交通省が管理する多目的ダムだ。堤高132m、堤頂長723mの巨大ダムで、堤体積は1350万m3にもおよぶ。ロックフィルという型式で、天然石を積み上げた構造になっている。コンクリート製のダムとは違い、ダムの底面積が非常に大きいのが特徴だ。それゆえ、おのずと堤体積も大きくなってくる。その結果、国内のダムを堤体積順に並べると、46位までが全てロックフィルという事態になっている。

 

 この胆沢ダム、それまで第2位の座を守り抜いてきた、群馬県にある奈良俣ダムの座を完成と同時に奪ってしまった。しかし、この第2位の座も、安泰ではないようである。現在、滋賀県に丹生ダムを建設するという計画が進んでいる。もしこのダムが計画通りに完成してしまうと、丹生ダムは国内第1位の堤体積を持つダムになってしまうのである。ちなみに、現在の第1位は岐阜県にある徳山ダムで、1370万m3。丹生ダムが計画通りに完成した場合、第1位は丹生ダム、第2位は徳山ダム、第3位は胆沢ダムということになる。
ちなみに、あえて「計画通り」という言葉をつけたのは、民主党政権時代に計画が大きく揺らいだからだ。自民党政権の現在でもその計画は揺らぐ可能性はある。ダム建設中止とならずとも、ダムの規模を縮小する可能性も捨てきれない。なので、あえて「計画通り」という言葉を付け加えさせていただいた。

 

 

 

 

 

 

 

 
2014年に完成した胆沢ダム。取材時は、ダムは完成していたが、下流部の整備をまだおこなっているようで重機が所々に点在していた。一時期、政治家の名前を文字られたダムだが、まさかこのダムが堤体積第2位だとは誰も思うまい。          

                               (写真提供:だい様)

 

 

■湛水面積第2位! 夕張シューパロダム

 

 湛水面積とは、ダムが形成する湖(貯水池)の面積のことを指す。いくらダムが高くても、いくらダムの堤頂長が長くても、決して湛水面積が広いとは限らない。湛水面積とダムの大きさは、これといった因果関係は無い。ただし、大きなダムを造るということはそれなりにお金がかかるので、湛水面積が狭く、あまり水が貯まらないダムを造るわけにはいかないだろう。

 北海道にある夕張シューパロダムは、今年完成したばかりの赤ちゃんダム。赤ちゃんでありながら、このダムは国内第2位の湛水面積を誇る。つい先日までは、堤体積の項目で名前があがった徳山ダムが第2位だった。徳山ダムの湛水面積は1300ha、夕張シューパロダムは1500haで、その差、200ha。東京ドーム約42個分の差が、第2位と第3位の境界線となってしまった。

 

 夕張シューパロダムの生い立ちはちょっと変わっている。ダムを沈めたダムなのだ。この表現、何を言っているのか分からないかもしれないので解説をさせていただく。
昔、夕張シューパロダムのすぐ上流に、大夕張ダムという、堤高67.5mのダムがあった。このダムは1961年に完成したが、その後の洪水量や水需要などを考慮すると役不足の感があった。ダムを改良して対処しようとしたが、色々検討した結果、すぐ下流に大きなダムを造り、大夕張ダムを沈めて、さらに沢山の水を貯められる大きなダムを造ってしまおうということになった。 その結果誕生したのが、夕張シューパロダムである。  

 ということで、夕張シューパロダムが渇水の時、湖に沈んだ大夕張ダムが姿を現すと思うので、その機会があったらぜひ見に行ってみよう。

 

 ちなみに、国内第1位の湛水面積を誇るダムも北海道にある。その名は、雨竜土堰堤と雨竜第一ダムだ。この2つのダムで1つの湖(貯水池)を形成している。雨竜土堰堤は土を盛っただけのアースダム。夕張シューパロダムと見比べると、月とスッポンほどの差を感じてしまう。堤高も22mで、夕張シューパロダムの110.6mには到底及ばない。しかし、湛水面積は、夕張シューパロダムを大きく引き離し、約1.5倍の2373haを誇る。ダムの大きさと湛水面積は全く別次元という良い例である。

 

 

 

 
写真は、まだ建設中の夕張シューパロダム。すぐ上流にある大夕張ダムの天端から撮影した。このダムは、ダムを沈めるダムとしてかなり注目され、人気を得ていたが、まさか国内第2位の湛水面積を誇るダムになる計画だったとは思いもしなかった。         

                                  (写真:宮島咲)

 

 

■総貯水量第2位! 奥只見ダム

 

 新潟県と福島県の県境にある奥只見ダムは、長い間国内第1位の総貯水容量を誇っていた。総貯水容量とは、ダムによって造られた湖(貯水池)の容量のこと。その容量には、貯められる水の他に、今後貯まるであろう土砂の量も含まれる。奥只見ダムは、完成した1960年から48年もの間、第1位の地位を守り抜いてきたのである。2008年、前項目でも度々登場した徳山ダムによってその座を奪われる。徳山ダムの総貯水容量は66000万m3、その差5900万m3。東京ドーム約476個分の差をつけられてしまった。

 しかし、さすが奥只見ダム。その座を簡単には譲らなかった。貯水容量を示す基準は2つある。ひとつは総貯水容量、もうひとつは有効貯水容量だ。総貯水容量は先に解説した通りだが、有効貯水容量は、単純に水を貯められる容量をあらわす。土砂が貯まる容量は考慮されないのだ。ということで、今度は有効貯水容量で比較してみると、奥只見ダムは45800万m3、徳山ダムは38040万m3となる。その差7760万m3で奥只見ダムが逆転勝利をおさめるのである。

 この結果は、どちらにとっても好ましい結果をもたらすのではないだろうか。徳山ダム湖畔には「総貯水容量日本一」という看板が立ち、奥只見ダム湖畔に立っていただろうと思われる「貯水容量日本一」の看板には、「有効」という文字が付け加えられ再利用される。どちらも日本一という座になるので、名目的にも観光的にも有利だ。

 

 

 

 

 

 

 
古くから日本最大の総貯水容量として有名だった奥只見ダム。観光客もかなりの数にのぼっていた。現在は、有効貯水容量日本一なので、「日本一」という看板はかろうじて捨てずに済んだが、有効貯水容量と言っても、普通の人には通じないであろう。    

                                  (写真:宮島咲)

 

 

 

 以上、あまり目立たない第2位のダム達を紹介してきたが、皆様はどの様な感想を持っただろうか。堤高第2位の高瀬ダムや、堤頂長第2位の東富士ダムなどは知らなかった方々が大多数であろう。日本一の山は富士山と答えられるのに、二番目の高さの山を答えられる人は少数派だ。そのことを考えると、ダムにおいては知らない方が当然と言えるだろう。  

 ダムは一基一基に個性と役割がある。この様に、二番目の存在をご紹介できたのは幸いである。