2017.10掲載
一般財団法人 水源地環境センター 矢沢 賢一
「世界遺産と水源の里」として名高い青森県西目屋村に津軽ダムが完成し「津軽白神湖」が誕生したことにより、新たな地域の財産が増え、その活用が期待されています。そのような中、当地域の地域振興策の一環として、この春から(4月30日)津軽白神湖では本格的な水陸両用バスの運行が始まりました。
全国の水源地域から注目されている水陸両用バスを活用した「津軽ダムレイクツアー」の現況等について、西目屋村役場、白神公社等地元関係者や国土交通省 東北地方整備局 岩木川ダム統合管理事務所の皆様方の協力を得て、取材を行いました。
津軽ダム(津軽白神湖) |
津軽ダムは、国土交通省直轄のダムとして一級河川岩木川水系岩木川に建設されました。
同河川には昭和35年に完成した目屋ダムがありましたが、完成後の度重なる計画を上回る出水、渇水が発生していた等の理由から、目屋ダムの再開発ダムとして計画されたものです。
津軽ダムは、平成3年4月建設に着手し、平成28年10月に竣工、平成29年4月1日から管理を開始しています。洪水調節及び流水の正常な機能維持、かんがい用水、水道用水、工業用水、発電を目的とする多目的ダムです。
津軽ダム・貯水池(津軽白神湖)の諸元は以下の通りです。
河川名 一級河川岩木川水系岩木川 | 貯水池平面図 |
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流域面積 | 172.0km2 | |
湛水面積 | 5.1km2 | |
総貯水容量 | 140,900,000m3 | |
ダム形式 | 重力式コンクリートダム | |
堤頂標高 | EL226.7m | |
堤髙 | 97.2m | |
堤頂幅 | 342.0m | |
堤体積 | 759.000m3 |
津軽ダムの完成によって誕生した津軽白神湖は、湛水面積5.1km2を有し、貴重な観光資源として注目され、官民一体となって、水源地域の活性化に貢献する有効な活用策について検討されてきました。その1つとして、採用されたのが今回ご紹介する全国でも珍しい水陸両用バスを活用した新事業です。
西目屋村は、津軽地域の西部に位置し、白神山地を有する村として、自然と共生する地域づくりが進められており、すばらしい無垢の自然環境が維持されています。
四季折々に表情を変える豊かな自然に囲まれ、広大で原生的なブナ林を抱く白神山地と東北地方でも有数の大きさを誇る津軽ダム(津軽白神湖)を抱える村としてまさに名実ともに「世界遺産と水源の里」となっています。
西目屋村の産業は、基幹産業である農業(米、リンゴ)
を中心に、生産性の高い複合経営や、世界遺産白神山地を活かした環境レジャー産業についての構想を展開している人口約1,350人(西目屋村 公式ホームページより平成29年9月1日更新のデータより)の小さな自治体ですが、夢と希望に満ちあふれたまちです。
西目屋村役場庁舎 | 収穫を待つ首をたれた稲穂 |
リンゴ畑のリンゴ | 白神のクマゲラと巨大キノコ |
津軽ダムでは、ダム完成後におけるダム周辺の豊かな自然環境、歴史、文化、人材などを活用した水源地域の自立・持続的な活性化の方策及び関係行政機関が行う支援方策を定めた「津軽ダム水源地域ビジョン」を策定しています。
水源地域の将来像として「世界遺産と水源の里」の誇りを未来へ発信することを掲げています。
四つの基本方針(1自然の恵みを守る、2津軽白神湖を活かす、3にぎわいを生み出す、4文化を伝える)を掲げ、それぞれの主要なメニューを実践して行くこととしています。
水陸両用バスは、津軽ダム水源地域ビジョンの基本方針である「2白神湖を活かす」の実践メニューの一つとして、水源地域ビジョン推進協議会(ダム管理者、西目屋村等)が支援し、西目屋村が中心となって進められる「西目屋村・ダムレークツアー」の目玉として活用されるものです。
岩木山を背景に県道を疾走する水陸両用バス | |
津軽ダム水源地域ビジョンの四つの基本方針 | 津軽白神湖を運航する水陸両用バス |
実施運行体制は、おおむね次のように三つの体制からなっています。
①水陸両用バスの運行主体:西目屋村(水陸両用バス所有者) ②陸上運行・水上運航主体:観光バス会社 ③旅行企画・実施:旅行企画会社 |
水陸両用バスのタイヤとスクリュー |
(1)水陸両用バス | ||
定員40人乗りで、陸上部を運行するための車輪部のタイヤと水上運航をするためのプロペラ式スクリューを有しています。乗車席に天井屋根はありますが、側面部には、窓ガラス等の遮るものはなく、雨風をそのままリアルに体験出るような仕掛けになっています。 | ||
(2)「津軽ダムレークツアー」(2017)の内容 | ||
①運行期間 | ||
2017年4月30日(日)~10月31日(火) ※運休日:毎週水曜日(5月3日は運行) |
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②運行時間 | ||
※各便定員40名/最小催行人数1名 |
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③受付・乗り場 | ||
物産センター「ビーチにしめや」 | ダムレークツアー ちらし | |
※青森県中津軽郡西目屋村代神田219-1 | ||
④乗車料金 | ||
※一人料金/消費税・保険料込み | ||
⑤運行コース | ||
※所要時間約60分(陸上約30分、水上約30分) | ||
⑥関連サイト:西目屋村・水陸両用バス DAM LAKE TOUR |
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※(一財) ブナの里 白神公社 津軽白神ツアー サイト | 受付・のりば、コース等案内マップ |
(3)運行状況
今年4月30日から水陸両用バスの運行がスタートし、6月25日まで運行しました。それ以降現時点(8月末)までは、例年より少ない降雨により、河川環境の保全やかんがい用水の安定補給、水道用水の安定供給のために、ダムから補給したことにより貯水位が低下し、水陸両用バスが運航するに当たっての安全が確保できないことから、現在、貯水位の回復を待ち、運航を見あわせている状態が続いています。(9/16から運航に当っての安全が確保されたことから、水陸両用バスの運航を再開しています。)
(4)乗車者数
運航が出来た4月30日~6月25日で4,031名の方が乗車され、これまで経験したことのない感動を体験されています。
(5)乗車者の評判
乗車者は、青森県内が88%で、弘前市、青森市、五所川原市からの方々が多く、「年金友の会」等、年配客の団体利用者が比較的多いのが特徴です。
乗車体験者からは、「津軽白神湖に入水する瞬間が楽しい」、「初めての感覚だ」、「ガイドの説明話が楽しい」、「一生の想い出が得られた」等、絶賛の声が寄せられています。
受付・乗り場「ビーチにしめや」 |
「津軽白神湖」へ水陸両用バスがした入水瞬間 |
運航を見あわせる状態が継続している状況の中で、運航が出来た約二ヶ月間(4/30~6/25)だけで約4,000名の利用者数を確保しています。
運航可能な貯水環境が確保されれば、目標は十分達成されるという手応えが得られています。
現在、東北管内のダムで、水陸両用バスに取り組んでいる事例は無いと聞いています。関東に湯西川ダムで一事例あるのみです。水陸両用バスの魅力は、単に珍しいばかりでなく、特に、バスが津軽白神湖に入る瞬間(スプラッシュイン)や水陸両用バスから眺めるダム湖の景色は、圧倒的で体験した者にしかわからない絶品です。
8月末現在で約7,000名の予約された方が運休を余儀なくされております。これらの中には、宿泊等他のプランと抱き合わせで申し込まれた方もいらっしゃいますので、それらの方々には、水陸両用バスの体験として、陸上部だけの運行ですが、乗車していただく事にしています。
また、売店・レストランの売り上げは向上しており、周辺宿泊施設は、日帰り団体の利用も増加しています。一方では、スタッフが足りない状況が発生しており、対策として村民雇用も考えています。また、県外のお客様をターゲットにした着地型の観光ツアーの企画・販売も実施してきており、来年度も引き続きダム見学者を含めたツアーを実施して行くことにしています。
以上、西目屋村 政策推進室の三浦室長から、お聞きしたなかで、当水陸両用バスを利用したレイクツアーに関する取り組みについては、確かに収支などの面での課題もあるが、水陸両用バスを目玉として取り入れることで、まず、「村を活気づけたい」という言葉がとても印象的でした。
全国的に高齢化率は増加しつつあります。当西目屋村においても、約1,350人の人口で減少状態にある中、高齢化率は36%以上のハイレベルにあり、確実に増加し続けています。このような社会環境の中で、村民に対して何とか少しでも自信と誇り、さらには活気を与えたいという切実なる思いをしみじみ伺いました。
最後に、大変忙しい中、取材協力をいただいた西目屋村役場 政策推進室 三浦室長並びに岩木川ダム統合管理事務所加藤副所長に御礼と感謝を述べさせて頂くともに、「西目屋村、津軽ダム頑張れ」のエールを送り取材報告を終わります。
車庫で出番を待つ水陸両用バス |