伊勢湾台風から60年 ~防災・減災に向けた取組について~

1.伊勢湾台風60年の振り返り

 伊勢湾台風は、60年前の昭和34年9月26日18時頃、中心気圧930hPaの超大型勢力で潮岬付近に上陸し、日本の台風災害で最大となる死者・行方不明者5,098名もの甚大な被害をもたらしました。その最大の特色は、人的被害の大きさと、我が国の災害対策の基本となる「災害対策基本法」制定の契機となったことにあります。
被害の特異性は、伊勢湾で発生した観測史上最高となるT.P.3.89mの異常な高潮の発生と海抜ゼロメートル地帯の堤防の決壊に起因しており、堤防の決壊は約240箇所・延長約33km、浸水範囲は約31,000haにも及び、これらの土地では高潮が引いた後も、潮汐の影響を受けて堪水状態が続きました。

伊勢湾台風の進路図

伊勢湾台風の進路図
(参考資料:伊勢湾台風復旧工事誌 上巻)

伊勢湾台風気圧の推移と潮位の変化

伊勢湾台風気圧の推移と潮位の変化
(参考資料:伊勢湾台風復旧工事誌 上巻)

伊勢湾台風による決壊箇所と浸水状況図

伊勢湾台風による決壊箇所と浸水状況図
(参考資料:伊勢湾台風工事誌 上巻) 復旧工事誌 上巻)

木曽三川河口部の浸水被害

木曽三川河口部の浸水被害(長良川、揖斐川河口付近から上流側を望む) (提供:中部地方整備局木曽川下流河川事務所)

 そのため、湛水の早期排水が急務でしたが、締切工事に必要な大量の土砂の入手が困難であったことから、「粗朶枕床」と「サンドポンプ船」による工法を用い、官民一体となって昼夜兼行で工事を進め、被災から  56日目に完了しました。

揖斐川左岸の破堤状況

揖斐川左岸の破堤状況

揖斐川左岸の仮締切の工事状況

揖斐川左岸の仮締切の工事状況

仮設ポンプによる排水作業状況

仮設ポンプによる排水作業状況

いずれも長島町(現桑名市長島町)内(提供:国土交通省中部地方整備局木曽川下流河川事務所)

 本復旧では、高潮による被害を二度と繰り返さないため、関係省庁による「伊勢湾等高潮対策協議会」により復旧の基本方針が示され、河川堤防・海岸堤防の復旧を3年間で完了しました。
復旧工事の完成後も、広域地盤沈下により低くなった高潮堤防の「パラペットによる嵩上げ」、高潮に対する安全性を高めるための「波返工」「消波工」を設けた高潮堤防の整備を進めています。

 また、洪水被害軽減のため、昭和39年に横山ダムを完成させ、昭和46年からは徳山ダム建設に向けた調査を開始し、平成20年には徳山ダムを完成させるとともに横山ダムと連携運用を図り、確実な治水対策を進めています。また、ダムのある水源地域全体を貴重な財産と捉え、ダムを活用した取り組みを地域とともに展開し、毎年多くの方が水源地を訪れています。

現在の高潮堤防 左写真:揖斐川右岸河口付近(桑名市福岡町)、右写真:木曽川右岸8km付近(桑名市長島町)

揖斐川上流部に建設された横山ダム(左写真)と徳山ダム(右写真)、いずれも岐阜県揖斐川町

2.気候変動を踏まえた危機管理

 気候変動による水災害の頻発化・激甚化が懸念される中、施設の能力を大きく超える水災害が全国各地で頻発し、逃げ遅れによる多数の人的被害や広域的な社会経済被害など甚大な被害が発生しており、関係機関と連携したハード・ソフト対策を一体的・計画的に取り組んでいます。また、被害を軽減するためには、河川や下水道による対策のみならず、調整池やダム再生の推進など、流域が一体となった治水対策を推進することが重要です。

①東海ネーデルランド高潮・洪水地域協議会
 平成18年11月「東海ネーデルランド高潮・洪水地域協議会」(令和元年6月現在、53団体)を発足し、スーパー伊勢湾台風※)を想定した「危機管理行動計画」の策定、複合型災害訓練、広域避難に向けた検討など、関係機関が連携して高潮や洪水による被害軽減に向けた取組を進めています。

※伊勢湾台風を超える、これまで我が国で観測された最大規模の台風(1934年室戸台風級)が伊勢湾岸地域に対して最悪のコースをたどった場合の台風。

令和元年度第1回ワーキンググループでの意見交換の様子

討論型図上訓練の様子

②水防災意識社会再構築ビジョン
 平成27年9月関東・東北豪雨を契機として「施設の能力には限界があり、施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するもの」へと意識を変革し、社会全体で洪水に備える「水防災意識社会」の再構築に向けた取組を進めており、今年度より、ダム管理者(利水ダム含む)も大規模氾濫減災協議会へ参画し連携して取り組んでいます。また、更なるダムの活用を図るため、マネジメント技術の高度化に関する調査・研究を進めています。


③住民自らの行動に結びつく水害・土砂災害ハザード・リスク情報共有プロジェクト
 平成30年7月豪雨では、避難を促す情報を数多く発信したにもかかわらず、避難行動につながらなかったなどの課題を踏まえ「住民避難行動に結びつく災害情報の提供・共有方法の充実」を目的とした検討が進められています。その一つの取組として、令和元年6月より、離れた場所に暮らす高齢者等の家族に水害の危険が迫った際に、家族が直接電話をかけて避難を呼びかける「逃げなきゃコール」を運用しています。


3.伊勢湾台風60年特別シンポジウム

 伊勢湾台風襲来から60年を向かえることから、「自らの命は自ら守る」意識をもって避難行動を起こす契機となるよう、9月21日「伊勢湾台風60年特別シンポジウム」を予定しています。

  • 日時  令和元年9月21日(土) 13:15~16:00(予定)
  • 場所  国立大学法人 名古屋工業大学 NITech Hall
        名古屋市昭和区御器所町
  • 内容  第1部 基調講演 講演者:小説家 高嶋 哲夫 氏
                   (著書TSUNAMI、東京大水害、ハリケーン等)
        第2部 パネルディスカッション 「命を守るために(仮)」
            コーディネーター:辻本 哲郎 名古屋大学名誉教授
            コメンテーター :高嶋 哲夫 小説家
            パネラー    :立川 康人 京都大学教授,
                     菅 良一 内閣府 風水害対策調整官
                     松村 崇行 名古屋気象台長
                     味田村 太郎 NHK名古屋放送局報道部副部長
                     加藤 隆 木曽岬町長
                     勢田 昌功 中部地方整備局長