一般財団法人 水源地環境センター(WEC)の各部紹介

今年度は、新型コロナで4月7日に政府の緊急事態宣言が発出されたことにより、入学式や入社式などが取り止めになったり、在宅勤務の実施などで、それぞれの職場でも例年とは少し違ったスタートとなったことと思います。

WECもテレワーク体制に移行し、水源地ネットも4月号から休刊とさせていただいたことから、年度当初に予定していたWEC各部の担当業務のご紹介がこの時期となってしまいました。

■先ずは、WECのご紹介

WECは、水源地の環境に関する調査研究及び技術開発並びに技術指導等を行うことにより、水源地の適正な管理を図り、もって水源地域の活性化と安全で豊かな国民社会に寄与することを目的としています。

森北理事長のもと水源地の環境に関する豊富な経験と高度な知識を活かし、水源地の環境、貯水池の管理・運用並びに環境影響評価等に関する調査・研究・技術開発を軸に次の主な事業を行っています。

●WECの調査研究体制

WECでは、水源地に関する環境、既存ダムの管理評価・有効活用、水源地における環境影響評価、ダム貯水池の管理等に関して十分な経験と技術力を有する専門技術者を配置して調査、研究、技術開発を進めています。また、多方面からの技術の結集を図るため、河川工学、生態学等の学識者で構成する委員会等を設け、共同研究と技術的意見の聴取を行いながら、調査研究活動を進めています。

■企画部

企画部の重鎮3名

企画部は、奥秋部長以下5名で、WECの調査研究及び技術開発に関する計画の策定や事業計画及び事業報告の策定など、各部を横につなぐ事務局機能を担っています。また、ダム管理技士試験及びダム管理技士の登録及び講習に関することのほか、他の部の所掌に属しない技術的事項全般を担当しています。

調査研究テーマとしては、水源地域の活性化や水源地の環境及び景観デザインなどに関する調査研究とそれらの業務の受託も担当しています。

気候変動の影響で集中豪雨が頻発する一方、インフラも管理の時代に入り、既設ダムの一層の活用等も課題となっています。

WECが得意とするダムの管理、環境関係の業務は、これまで以上に重要となってきていると考えられ、発注者に寄り添った行政を補完する役割は不可欠なものになっています。

行政、民間の経験者などで構成されたWECは、それぞれの得意分野を持ち寄った業務の遂行により、今後も質の高い成果を社会に還元できるよう努めてまいります。


■調査部

調査部は、WEC組織規程では総務部、企画部とともに事務局に属しています。つまり、組織上は水源地環境技術研究所の所属部ではないものの、研究各部と同様に調査研究を行っています。所掌業務は、「水力発電ダム等に関する調査研究および研究開発」などとなっており、現在は電力会社からの受託で、水力発電ダム下流へ土砂還元する際の環境面での課題抽出や対応策の検討、ダム下流河川の環境調査・評価業務などを行っています。

水力発電ダムの堆砂が進行すると、発電機能への影響が出たり、ダム上流域の家屋や道路の浸水・冠水リスクが発生するため、それらを回避するため、従前は土砂を掘削して湖外へ搬出していました。しかしながら、上流崩壊地からの流入土砂の増加や土砂運搬時の制約(地元からの苦情など)、搬出先(仮置場)の涸渇などから湖外への土砂搬出には限界があるため、別の方法でダム下流へ土砂を還元し、土砂移動を促進する計画が採用されています。もちろんダム建設により遮断されてしまった土砂の移動を元の姿に戻すという意味もあり、水力発電ダムに限らず多くの河川でダム下流への土砂還元の取り組みが行われています。

調査部が関わっている水力発電ダムでも、置土やバイパストンネルを計画していたり、すでに出水時にダムの運用水位を下げて通砂/排砂を実施しているものがあり、事業者は堆砂問題の解決とともに、下流河川環境の改善を期待しています。このため、河川の環境モニタリングをしながら、土砂管理計画に付随する環境面の課題に対する検討を進めています。

河川環境モニタリング実施の際には、夏の調査時は木陰もない河川敷で暑さに翻弄されながら、冬の調査時は寒風が吹きさらす中「胴長が防寒に役立って良かった」と思いながら業務を行っています。新型コロナウィルスの影響で、今年度の出水期前(5月)の調査は中止となりましたが、夏や冬の調査はこれから実施予定です。

また、発注者が開催する有識者委員会の対応も行っており、各分野の先生方の的確なご助言に感服しつつ、時には専門的すぎるご意見に戸惑いながら業務を進めています。

水力発電ダムを所有する事業者はじめ、関係機関の方々からのお問合せ、ご相談などお待ちしております。

■研究第1部

研究第1部は、原部長を中心に、坂本技術参与他、女性3名・男性6名(2020.6時点)で、『ダムの貯水地管理に関する調査研究』や『ダムの流水管理に関する調査研究』等を行っています。

主な業務内容①:ダム等管理フォローアップに関する検討
「ダム等管理フォローアップ制度」に基づく検討(年次報告書・定期報告書・事後評価・モニタリング 等)を北は
北海道から南は沖縄まで、日本全国のダムを対象に業務を遂行しています。

また、これらで得られた知見をもとに、全国規模の各種データベースの充実・強化を継続的に行っています。

主な業務内容②:ダム等の高水管理・低水管理に関する検討
近年の社会情勢(気候変動・降雨特性変化 等)や最新技術(気象予測・AI 等)を取り入れ、ダムによる洪水調節や
利水補給について、より効率的な流水管理手法やダム操作の高度化を研究開発しています。

また、国土交通省とも連携し、これらに関する各種検討会の開催やガイドラインの作成にも携わっています。

その他、水槽で魚を育てたり、スポーツ用品メーカーと協働する等、多様化する社会ニーズに対応するのが研究第一部です。


■研究第2部

研究第2部は、ダムの貯水池管理に関する研究のうち、ダム貯水池等の堆砂対策と水質保全対策などを担当しています。

●ダム貯水池等の堆砂対策
ダム貯水池等の堆砂対策は小野リーダー(写真向かって右から二番目、深夜から明け方のメールから推測すると夜は寝ていないのでは?)のもと、令和元年度の受託業務では、国交省の北上川ダム堆砂対策検討業務、品木ダム事業計画検討業務、などを実施しています。

また、調査研究事業として、「ダム土砂マネジメント研究会」において、排砂バイパストンネルの設計参考手引(案)の作成を目指しているとともに、「一般社団法人ダム水源地土砂対策技術研究会」と協働でダム・湖沼及びその水源地における土砂問題の解決に資する技術開発に取り組んでいます。

●ダム貯水池等の水質保全対策
ダム貯水池等の水質保全対策は木村リーダー(写真向かって左から二番目、普段は少年サッカーのコーチでまっ黒に日焼けしているが、年度末は色が薄れる?)のもと、令和元年度の受託業務では、国交省の釜房ダム、三春ダム、田瀬ダム、石手川ダム、渡良瀬貯水池、荒川貯水池などの水質保全対策業務、国総研のダム貯水池の水質改善対策に関する技術資料整理等業務などを実施しています。

また、調査研究事業として、「ダム貯水池水質保全対策検討会」において、多くのダム貯水池で課題となっているアオコ・カビ臭現象に対応する手段の一つとして、ろ紙とスマートフォンを用いたアオコ発生状態の自動判定システムの開発、アオコ発生予測手法の開発を進めているとともに、「プロペラ式湖水浄化装置応用技術研究会」において設置・運用マニュアル(案)の作成・更新を行っています。

ダム貯水池等の堆砂、水質でお困りのことがあれば、何なりとご相談ください。WEC研究第2部一同、懇切丁寧に対応いたします。

■研究第3部

研究第3部は、金澤部長以下14名(兼任含む)の組織で、部の創設は平成3年、研究部署の中では最も新しい部ですが、最盛期には研究員21名を擁する大所帯でした。

歴代部長は、WEC退職後に国会議員や局長級の職位につかれる等、偉大な方々が歴任されており、厳しくも的確なご指導の下、環境影響評価、河川水辺の国勢調査総括検討等の他、水源地生態研究会、応用生態研究助成といった公益事業に取り組んでいます。

●環境影響評価業務
主力業務である環境影響評価については、法アセス制定当時から本省、国総研、土研と協力して手引きとなる「ダム事業における環境影響評価の考え方(平成12年3月)」のとりまとめに携わり、ほとんどのダム事業に係る法アセス対応を行っています。環境影響評価法の対象事業以外の事業についても、多くの事業に対して、法アセスで培った技術や知見を活用し、公表資料となる環境レポートを取りまとめてきました。

また、ダム建設事業により生息に影響が生じることが懸念されたクマタカに関する調査、影響予測の手法についても、「ダム事業におけるイヌワシ・クマカタの調査方法」としてとりまとめ、生態系の現状把握、予測精度を向上させ、保全に寄与してきました。

最近では、流水型ダムやダム再開発事業における環境影響評価について、調査、予測の手法の開発に取り組んでいます。

●河川水辺の国勢調査
全国の直轄管理ダム等で実施している河川水辺の国勢調査(ダム湖版)の調査マニュアルの作成に携わるとともに、マニュアルに基づき全国で実施された調査結果について、毎年度、データの精査・分析・とりまとめを行い、公表のためのデータ整理や、調査を用いたダムによる環境変化の分析を行っています。

また、膨大な調査結果について、学識者からなるスクリーニング委員会を運営し、最新の分類学的知見等に基づいた精査を実施し、河川事業のための調査対象生物リストの体系化に取り組んでいます。

最近では、環境DNAの技術を用いた調査技術の確立など、最先端の技術を取り入れた河川環境の把握手法の開発に取り組んでいます。

●公益事業
ダムが生み出す生態系を科学的に把握し、水源地域の保全のあり方を探求することを目的として設立された「水源地生態研究会」やダム貯水池に係わる生態環境について調査・研究の促進を図り、その研究成果を発表し、社会へ還元するための「応用生態研究助成」の運営等を行っています。

公益事業の成果は、学術雑誌に論文として発表するとともに、『ダムと環境の科学(京都大学学術出版会)』シリーズとして出版されています。また、不定期にセミナーやシンポジウムを開催しています