(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)
(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第12回は、九州地方整備局より鶴田ダム管理所の三浦所長にお話しをお聞きしました。
三浦所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに鶴田ダムのご紹介をお願いします。
(三浦所長)
鶴田ダムは、九州南西部を流れる一級河川 川内川水系 川内川に建設された、堤高117.5m、総貯水容量1億2千3百万m3の西日本で最大級の重力式コンリートダムです。
川内川の「防災(洪水の貯留)」、「発電」を目的とした多目的ダムで、昭和25年に予備調査を開始し、昭和34年から実施計画調査、昭和35年4月に建設事業に着手し、昭和41年4月から運用を行っています。
運用開始後から今日までに、昭和47年7月、平成18年7月と計画規模を超える洪水を経験し、平成19年4月から鶴田ダム再開発事業に着手し、平成30年10月に再開発事業が完了しています。
再開発工事を完了した鶴田ダム
鶴田ダム位置図
(WEC)
昨今の豪雨による出水を受けてダムのきめ細やかな操作や住民等への丁寧な情報提供が益々重要視されるようになってまいりました。鶴田ダムでは従前より、地域住民への情報提供のあり方について取り組んでこられている様ですが、どのような取組をされているのですか?
(三浦所長)
鶴田ダムは、平成18年7月洪水において異常洪水時防災操作へ移行し、ダム下流では大規模な外水氾濫が発生しました。洪水直後から、「浸水被害はダム操作が原因である」という鶴田ダムへの批判がダム下流域の被災者の方々から多く寄せられました。
鶴田ダムの洪水調節に関する検討会(第1回検討会)
このため、国土交通省九州地方整備局として、地域住民の方々へダム操作やダムの洪水調節容量には限界があるなどをわかりやすく説明できていなかったことを反省し、「鶴田ダムの洪水調節に関する検討会」(以下「検討会」という。)を平成19年1月に設置しました。
検討会は、鶴田ダムの操作についてご理解をいただくとともに鶴田ダムの洪水調節に関する操作方法及び情報提供のあり方について、様々な視点から意見を聴取し、検討することを目的として、ダム下流住民代表、学識者、報道関係者、ダム下流自治体、河川管理者をメンバーとして、平成24年2月まで計12回開催しました。
現在は、地域の防災力の向上や河川の協働管理等を推進するため、様々な視点から意見交換する事を目的に「鶴田ダムとともに水害に強い地域づくりを考える意見交換会」を継続的に開催しています。
また、毎年、洪水期前には、ダム操作方法等を理解して頂くため、報道機関との意見交換会を行っています。
一般住民の方には、出前講座やダム見学時にダムの役割や操作等の説明を行っていますが、昨年はコロナ禍で、出前講座やダム見学を休止せざるを得なかったことは、非常に残念です。
今後は、出前講座やダム見学により、理解を得る取り組みを進めていきます。
ダム見学会(ダムの役割を説明)
ダム見学会(堤体内を案内)
(WEC)
地域活性化の取組としてはどのようなことをされているのでしょうか?
(三浦所長)
鶴田ダムは令和元年7月、国土交通省の「インフラツーリズム魅力倍増プロジェクト」のモデル地区の5地区(のち7地区に拡大)のうちの1つに選定され、全国に先駆けて次世代型インフラツーリズムのあり方を研究しています。まず、ツアーの種類を「団体向け」、「個人向け」の2つの形態に分類し、同じダム見学を目的別に分類することにより、様々な切り口でお客さまを案内する取り組みを行っています。
令和元年度には、モニターツアーやダムマニアとの意見交換、高齢者・障害者に向けたダム見学の意見交換を行い、令和2年11月には、コロナ禍の中、「新しい生活様式」に沿ったダム見学ルートを新たに設定した上で「鶴田ダムインフラツーリズム」を開催し、大盛況に終わることができました。更に鶴田ダム監査廊に薩摩焼酎を最長20年にわたって貯蔵するプロジェクトも令和2年度から開始しており、多数の方から応募がきています。
鶴田ダム周辺には、東洋のナイアガラと称される「曽木の滝」や多数の温泉旅館が存在しており、鶴田ダムと観光資源がタイアップした地域活性化に向けて、今後もインフラツーリズムが持続発展していけるよう、関係者と連携した取り組みを進めていきます。
監査廊での薩摩焼酎貯蔵プロジェクトを連携する
左より、鶴田ダム管理所 竹下前所長、さつま町観光特産品協会 山本会長、
さつま町 上野副町長(令和2年3月撮影)
東洋のナイアガラと称される「曽木の滝」
インフラツーリズム実施の様子
(WEC)
昨年より事前放流が義務付けられていますが、鶴田ダムでの対応をお話しいただけますか?
(三浦所長)
鶴田ダムでは、令和2年5月に事前放流を可能とする治水協定を締結し、令和2年9月、台風10号で事前放流を初めて実施しましたが、幸いにも台風の直接の影響を免れた洪水に終わりました。
「事前放流」は、利水容量の回復を心配される利水者のご理解を得なくてはなりません。台風10号では、洪水調節での貯留はほとんどありませんでしたが、約3日で貯水位を回復することができました。この実績から、利水者の方には「事前放流」への不安や抵抗感が少しは薄らいだのではないかと思います。
(WEC)
ダムの説明にあたって特に気を遣っていることがあればお話しください。
(三浦所長)
近年は、西日本豪雨や九州北部豪雨、令和2年7月豪雨など、各地で大規模な水害が発生しており、一般の方のダムへの関心が非常に高くなっています。但し、あまり難しい説明では、興味を持って頂けないので、一般住民の方にダムの用語を分かり易く理解して頂くことが、重要だと思います。
鶴田ダムでは、非常勤職員を「ダムコンシェルジュ」に任命し、ダム見学時にはダムコンシェルジュが一般の方の視点から分かり易い文言で説明を行っています。見学者から好評な意見を頂いていますので、引き続き、防災やダムに関する知識を持って頂けるよう取り組みを進めて参ります。
ダムコンシェルジュが優しく説明
抱負を語る三浦所長
(WEC)
最後に所長の抱負を一言お願いします。
(三浦所長)
私自身、ダム管理は初めての経験ですが、管理所職員に支えてもらいながら日々、業務を遂行しています。
ダムは、調査・計画から施工、完成まで数十年の年月を重ねて、出来上がる施設です。
ダム建設により移転を余儀なくされた方々に感謝し、洪水時の下流住民の安全・安心を確保するため、微力ながら、適切な維持管理や防災操作を行って参ります。