(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)
(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第25回は、四国より高知県の仁淀川にある大渡ダム管理所の石岡所長にお伺いしました。
石岡所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに大渡ダムについて概要をご紹介下さい。
大渡ダム位置図
(石岡所長)
大渡ダムが位置する仁淀川流域は、全国でも有数の多雨地帯であると同時に台風の常襲コースで、年間の流域平均降水量は約2,900mmで全国平均(約1,600mm)の約1.8倍と多く、昔から台風シーズンには数々の大洪水に見舞われていました。
大渡ダムは、そんな仁淀川をより安全で有効に活用するため、洪水調節、不特定かんがい・水道用水の補給、及び発電設備を有した多目的ダムとして計画され、昭和43年に工事着手し、昭和61年に完成しました。
大渡ダムがある仁淀川は、西日本最高峰の石鎚山(標高1,982m)に源を発し、124kmに渡って太平洋に注ぐ、四国3大河川の一つです。国土交通省が発表する「水質が最も良好な河川」に過去何回も選ばれており、透明度が高く、エメラルドグリーンともターコイズブルーとも呼べるような景観は「仁淀ブルー」として有名です。
仁淀ブルーと呼ばれる仁淀川の景観
(WEC)
大渡ダムはどのような特徴をもったダムですか?
(石岡所長)
大渡ダムの施設の特徴としては、洪水調節用の主放流設備(コンジットゲート)が日本最大級の扉体圧着式高圧ラジアルゲートで5門(5m×5.6m)、異常洪水時にダム天端からの越流を防ぐための非常用洪水設備(クレストゲート)が4門(12m✕12m)設置されています。
また、コンジットゲートの修理や点検時に吞み口を塞ぐための副ゲートは、堤体天端に配備されたガントリークレーンにより、上げ下げや移動を行い設置する仕組みとなっています。
上部4門がクレストゲート,下部5門がコンジットゲート
ダム天端に鎮座するガントリークレーン
約5,000m3の流木の捕捉状況
(WEC)
近年各地で記録的な豪雨による災害が頻発していますが、大渡ダムではどのような洪水対応をされていますか?
(石岡所長)
近年では、平成29年、平成30年、令和元年に洪水量(2,100m3/s)を上回る洪水が発生し、下流の被害を軽減する洪水調節を行いました。
その中で特に、平成29年は9月に台風18号の影響で、大渡ダム管理開始以降、歴代6位となる3,910m3/sが大渡ダムに流入しましたが、最大で毎秒約1,010m3の洪水貯留を行い、下流地点で大きな水位低減効果を発揮しました。
この際に大渡ダムで約5,000m3(平年の発生量の約10倍)の流木を捕捉しました。河川では流木による被害が多く発生しますが、下流への流出を防ぐという効果も発揮されています。
(石岡所長)
また、この平成29年9月台風18号の洪水では通常の防災操作に加え、特別防災操作を行いました。
洪水の終了が見通せて洪水調節容量に余裕があり下流の河川管理者や自治体の要請を受け行う操作で、ダム下流域の早期水位低減に寄与しました。
今後もダム下流の洪水被害軽減のための取組を推進してまいります。
平成29年9月台風18号における特別防災操作
(WEC)
大渡ダムの管理上の課題について教えていただけますか?
(石岡所長)
大渡ダムの貯水池周辺には地すべりの恐れがある箇所が点在しているため、必要な地すべり対策工事を継続して行っています。
また、地元自治体と連携を図り貯水池周辺の防災体制を構築するとともに、貯水位低下速度にも気を配りながら洪水対応を行っています。
大渡ダムから約1km上流左岸の森山地区では、地すべり対策として排水トンネル工および排水ボーリング工を施工し、令和4年5月末に完成しました。
諸山地区の地すべり対策
(WEC)
次に、地域振興への取組についてご紹介ください。
(石岡所長)
大渡ダムのダム湖は「茶霧湖(さぎりこ)」と呼ばれています。
名前の由来は、ダム湖の名称を一般から募集し、その中からダム湖をとりまく茶畑と霧のコントラストから茶霧湖がふさわしいと決定されました。
大渡ダム「茶霧湖」
茶霧湖の石碑
茶霧湖の周辺には約1,600本の桜が植えられています。また、大渡ダムのある仁淀川町にはひょうたん桜など有名な桜があり春にはこれらの桜が一斉に咲き誇ります。
大渡ダムでは、主に桜を保全・育成し、地域と共同で「桜と花の里づくり」を進めています。
茶霧湖畔の桜
また、茶霧湖周辺には公園や広場が整備されています。いずれも水と親しみ自然とふれあえる施設となっており、訪れる人々の憩いの場となっています。
大渡ダム公園
(石岡所長)
例年お盆の時期に開催される仁淀川町主催の「茶霧湖まつり」に併せて、大渡ダムでは期間限定で「ダムライトアップ」をしています。
今年もお盆の時期に実施予定ですので、日頃見ることのできない夏の夜空に浮かび上がる大渡ダムを見に来てください。
(※コロナウイルスの感染状況、気象条件によっては中止となる場合があります。)
ダムライトアップで夜空に浮かぶ大渡ダム
(石岡所長)
「ダム見学」を、一般の方から団体まで随時受け付けています。
内容としては、大渡ダム建設の経緯や目的を説明させていただき、ダムの操作室やダム内部に実際に行き、コンジットゲート室でゲートを動かす様々な機械を見てもらったり、ゲートそのものの大きさを体感してもらったりしています。
見学に来られるのは特に地元の小学生が多いのですが、ダムについて熱心に学ぶ姿が見られ、とてもうれしく感じます。
ダムの操作の説明を聞く小学生たち(ダム見学にて)
(WEC)
最後に一言お願いします。
大渡ダムを背景にした石岡所長
(石岡所長)
大渡ダムでは流域治水の取組として、令和2年度に利水者のご協力をいただいて治水協定を締結し、事前放流により利水容量を洪水調節に活用できることとなりました。
また、ゼロカーボン推進の一環として洪水後期の放流を活用して副次的に発電量を増やす操作の試行を今年度より始めることとしています。
今後とも関係者の皆様のご協力をいただきながら、大渡ダム管理所職員が一丸となって、仁淀川流域の安全・安心に寄与できるよう取り組んでまいりますのでよろしくお願いいたします。
(WEC)
本日はありがとうございました。
■大渡ダム管理所HP: https://www.skr.mlit.go.jp/oodo/index.html