(聞き手:水源地環境センター 仙台事務所 瀧澤)
(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第27回は、東北地方整備局 摺上川ダム管理所の三浦所長にお話しをお聞きしました。
三浦所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに摺上川ダムの概要・目的の紹介をお願いします。
(三浦所長)
摺上川ダムは、阿武隈川水系に建設された多目的ダムで、2005(平成17) 年度に完成し、2006(平成18) 年度に管理移行しました。
同水系には、他に七ヶ宿ダムが1992(平成4) 年度に、三春ダムが1998(平成10) 年度にそれぞれダム管理を開始しています。
摺上川ダムは、型式が中央コア型ロックフィルダムで、堤高105m、総貯水容量1億5,300万m3を有します。詳細は表-1、位置は図-1、貯水池容量配分は図-2に示します。
ダムの目的は、洪水調節、流水の正常な機能の維持、かんがい、上水道、工業用水道、発電となっております。
中でも、上水道水を福島県北6市町(県都福島市はじめ、二本松市、伊達市、桑折町、国見町、川俣町)へ供給するための水瓶でもあります。
表-1 ダム諸元
図-1 位置図 |
図-2 貯水池容量配分図 |
(WEC)
三浦所長は、ダムの職歴が長い方だと認識しておりました。摺上川ダムの建設時代の特徴的なものはありますか?
(三浦所長)
ダム管理は摺上川ダムが2箇所目で、それ以外は建設ダムが5箇所、調査中のダムが1箇所、通算20年以上になります。
建設中の摺上川ダムには勤務しておりませんが、建設当時の記録では、技術開発や創意工夫を凝らし、さらにコスト縮減に取り組まれております。
代表的なところとしては、
写真-1 ツインヘッダ施工状況
・ダム堤体基礎掘削材より遮水材料(コア細粒材)を確保・流用した建設発生土の抑制
・ダム堤体基礎掘削岩盤面仕上げを機械化(ツインヘッダ)施工による効率化(写真-1)
・ダム堤体盛立材料を一つの材料山からロック材、フィルタ材、コア粗粒材、コンクリート骨材を分別採取、掘削範囲を最小限とし環境面に配慮
・廃棄となる岩を有効利用すべく現地試験により十分な強度があることを確認、ダムの安全上支障のない部分の材料として活用(図-3)
・ダムからの放流量制御ゲートを1門化(従来型では大放流・小放流用と2門設置)
・東北地方整備局として初のダム管理用情報処理設備(ダムコン)への汎用パソコン採用
など、最新の知見と技術の採用にあたって、安全性や機能の確保など総合的に評価し、さらに、後発ダムの建設現場に活かすことも考慮しながら取り組まれています。
当時の新技術へのチャレンジ精神は今でもそれぞれのダム現場において引き継がれています。
図-3 低品質岩の堤体材料への活用(イメージ)
(三浦所長)
それと、これは特徴というより紹介ですが、ダム建設の過程において摺上川の流れを転じる河川締切堤の一部にCSG工法を採用しています。
CSGの母材には仮排水路トンネル掘削発生材(凝灰岩破砕岩)を用いました。施工方法は、スケルトンバケットによるセメント混合、8t級ブルドーザー撒出し、10t級振動ローラー転圧を採用していて、1996(平成8) 年に行った工事です。
国内台形CSGダム第1号の金武ダムは、2011(平成23) 年7月にCSG施工を完了していますので、その約15年前から摺上川ダムではCSGの技術開発に取り組んでいたことになります。先輩方のご苦労に頭が下がる想いです。
河川締切堤の一部にCSG工法採用(施工状況) |
(WEC)
同感です。東北では、成瀬ダムがCSGで工事最盛期を迎えていますし、ICTを活用した施工技術など日々技術革新が行われていると実感しております。
(WEC)
次に、摺上川ダムが管理に入ってからの話題を紹介して頂ければと思います。
(三浦所長)
はじめに、摺上川ダムを管理して感じていることを紹介します。
一つ目は、摺上川流域の地形特性に合致した洪水調節「自然調節方式」を採用していることです。流域面積は160km2と東北地方整備局が管理するダムの中では広い方ではなく、貯水池以外は急峻な山地を形成しているため、降雨は短時間で貯水池に流入するダムです。このような地形特性からゲート等人為的操作を伴わない「自然調節方式」としております。
もう一つは、ダム管理用発電「構内自立運転」です。ダム管理上必要な電力以外(余剰分)は電力会社へ売電しています。そのため系統停電時に系統と切り離し発電し所内電力を賄う「構内自立運転」機能を備えています。管理を考慮し造られたダムであることを実感しています。
(三浦所長)
この台風は福島県内はじめ阿武隈川流域各地に甚大な被害をもたらした災害です。
摺上川ダム流域では累加雨量約215mmを記録、ダムへの最大流入量は約523m3/sに達しましたが、この時の洪水調節では、ほぼ全量の洪水をダムに貯留することが出来、ダム下流の洪水被害軽減に貢献しております。
最大流入量(約523m3/s)は、管理移行後「最大」を記録
(三浦所長)
自然豊かな山々が育む清流「摺上川」を水源とする水道水の水質の良さを紹介します。
福島市の水道用水は阿武隈川から取水していましたが、摺上川ダムの完成によりダムから直接取水することで水質が改善されました。市は水道水をペットボトルに詰め「ふくしまの水」として販売、国際的品質評価コンテストでは各種賞を受賞しており、品質の高さやおいしさが世界にも認められています。
摺上川上流は、福島市水道水源保護条例の水源保護地域に指定されているため、生活排水などによる水質汚染がなく、大変良好な水を安定して供給することが可能となっています。また、「水源」をまもる人々の取り組みも行われており、良い水質が保たれています。
さらに「ふくしまの水」を炭酸水に仕上げた「ももりんウォーターSparkling」は、超軟水の炭酸水で後味すっきり、「モンドセレクション2022」初出品で金賞を受賞しました。
摺上川ダムから取水した水道水の水質の良さ、おいしさを是非お試し下さい。
福島市水道局HPのPOPより
超軟水の炭酸水です
QRコードをクリックすると |
-----【「ふくしまの水」受賞歴 】----- ・「モンドセレクション」2015年~2022年 8年連続金賞以上
・「国際味覚審査機構」2017年 優秀味覚賞(一つ星)、2020年 優秀味覚賞(二つ星)
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(三浦所長)
「森づくり大作戦」とは、摺上川ダムの工事の際に利用した土地に自然の森をよみがえらせるというプロジェクトです。地域住民の皆さんと一緒に苗づくり、植樹等を実施しています。これまでに植樹した樹木も少しずつですが、確実に成長を続けています。
この大作戦は、工事中の2001(平成13) 年から行われており2018(平成30) 年迄に17回開催しております。近年はコロナ禍で開催を見送ってきましたが、今年は「第18回 森づくり大作戦」として10月23日(日) に開催します。詳細が決まりましたら、摺上川ダム管理所ホームページにてお知らせいたします。
第17回 森づくり大作戦(チラシ)
(三浦所長)
摺上川ダム管理移行10周年の行事として2016(平成28) 年「宮島 咲 氏」に記念講演いただきました。
当日は飯坂温泉観光協会、地域の皆様が多数参加され、国内ダムの取り組み事例として紹介された「ライトアップ」「ダムカ-ド」「ダムカレ-」等は、地域活性化のヒントとなったようです。
その中でも「ダムカレ-」は当ダムのみならず県内の他ダムにも波及し、地元新聞にも「ダムカレ-人気じわり」との見出しで大きく取り上げられました。
宮島氏のご講演は今でも摺上川ダムツーリズムにおける広報展開等で大変参考になっております。
(WEC)
ありがとうございます。すばらしいお話を聞くことができました。
あと、ダムの魅力などありましたらご紹介をお願いします。
(三浦所長)
摺上川ダムの「四季折々の色鮮やかな “自然美” とロックフィルダムの “構造美” が相まった景観」が気に入ってます。
ダム周辺は奥羽山脈の太平洋側、福島県と宮城県と山形県との県境が交わる山々に囲まれ自然豊かな環境となっており、四季を通じて来訪者を魅了する空間となっています。春夏秋冬の景観を写真で紹介いたします。
写真-春
写真-夏
写真-秋
写真-冬
また、摺上川ダム管理所のホームページでは、「トピックス」として、四季折々の景観やその時々の出来事など掲載しています。是非ご覧ください。
(WEC)
四季の美しさは心が安らぎます。最後に一言お願いします。
是非ご来訪いただき、
「四季折々の景観」をご覧ください。
(三浦所長)
(三浦所長)
この美しい景観を求めて、またダム湖を利活用するため多くの皆様が訪れてくださいます。「また来たい」そして「紹介したい」ダムで有り続けたいと思います。
摺上川ダムは、この地に建設するにあたって、多くの地権者の方々から大きなご協力をいただき、諸先輩方、工事関係者、関係機関等々のご苦労・ご尽力・ご支援により完成しました。
多くの方々の「思い」や「望み」が込められた摺上川ダムの目的を果たすべく、ダムの効果が十分に発揮できるよう適切なダム操作・管理を行い、当地区や下流域の皆様の安全・安心、快適な生活のために引き続き努力して参ります。
(WEC)
本日はありがとうございました。