岩手県県土整備部河川課
令和6年8月に発生した台風第5号における、滝ダムの「事前放流」及び「緊急放流(異常洪水時防災操作)」の取組について紹介します。
滝ダムは、久慈市にある二級河川長内川、久慈川の合流点から約7.2km上流にある多目的ダムです。ダムの目的として、水害の防止と既得用水の補給及び河川環境の保全等のため流量を確保しているほか、岩手県企業局において発電事業を行っており、全国でも珍しい「海の見えるダム」として地域に親しまれています。
滝ダムの操作規則では、期別で洪水調節容量が定められており、非洪水期は標高59.4mの「常時満水位」、洪水期は標高54.3mの「最低水位」から標高82.0mまでの「サーチャージ水位」の容量を利用して洪水調節を行うこととなっています。
また、洪水期のうち、8月1日から9月10日の間は、洪水調節の見込みがある場合に、予備放流を行い、常時満水位から最低水位まで貯水位を下げ、洪水調節容量を確保します。
今回台風は、岩泉町を中心に甚大な被害が発生した、平成28年台風第10号と同様、大船渡市付近に上陸しました。
滝ダム上流域では、8月10日16時から降雨を観測し、滝ダム流域平均雨量では、降り始めからの累加雨量は12日17時までに393mmであり、これは8月の平均雨量の約1.5倍になります。
また、ダム上流の下戸鎖観測所では、48時間で482mm(観測史上最大)を観測しました。
滝ダム流域平均の48時間雨量は392mmであり、滝ダム計画雨量の360mmを上回る雨量になります。
滝ダムでは、台風第5号による豪雨に備え、「予備放流」により貯水位を常時満水位から最低水位まで下げ、洪水調節容量600万m3を確保、さらに事前放流により約90万m3の容量を追加で確保し、洪水調節を実施しました。
その後、計画を上回る大雨により流入量が急激に増加し、貯水位が「緊急放流判断水位」に到達したことから、「緊急放流(異常洪水時防災操作)」に移行となり、下流河川の水位とダムの貯水位の双方を監視しながら実施することになりました。
緊急放流後、降雨が小康状態となり、流入量が減少してきたことから、下流河川の水位が高い状況を勘案し、早期に水位低減を図るため「特別防災操作」に移行しました。
今回のダム操作による治水効果としては、洪水調節により洪水のピーク時の375m3/sを295m3/sへ80m3/s(約20%)低減させ、下流河川の水位低減、洪水による浸水被害防止に効果を発揮しました。
上記洪水調節によりピーク水位の発生時刻を約5時間遅らせ、水防活動や避難行動に要する時間を確保することができました。
また、事前放流の効果として、最大放流量を54m3/s(約15%)低減させ、緊急放流の開始時刻を約1時間遅らせることができたものと推定されます。
滝ダム下流の治水基準点である長内橋地点では、ダムの予備放流、事前放流及び洪水調節により35cmの水位の低減効果があったものと推定され、河川水位を氾濫開始相当水位4.38m以下に抑えることができ、ダム下流河川の越水氾濫の防止に効果を発揮しました。
ダムがなかった場合、氾濫開始相当水位を超過し、沿川では洪水による浸水被害が発生していたと推定されます。
また、事前放流未実施の場合も同様に、氾濫開始相当水位を超過していたものと推定されます(事前放流により、19cmの水位の低減効果があったものと推定)。
滝ダム下流の長内橋では、国土強靭化予算を活用し、令和元年から河道掘削を実施していました。
河積断面が不足する新街橋上下流において、約13,000m3を掘削したことで、滝ダムの洪水調節効果及び大型土のう設置と併せて、氾濫を防止したものと推定されます。
○事前放流の判断
・平成28年台風と同様、太平洋側に台風が上陸するとの気象情報から、同等の被害が生じる豪雨が予見され、予測結果に基づき、躊躇することなく事前放流を実施し、容量を確保しました。
○降雨予測の精度
・滝ダム上流域の実績降雨と降雨予測が同規模であったことから、立案した放流計画に大きな変更が生じることなく、緊急放流、特別防災操作を実施できました。
・緊急放流では、概ね事前の通知(警報、巡視含む)どおりの開始が可能となり、久慈市からの「緊急安全確保」の発令および「防災行政無線」「エリアメール」等で周知されたことより、地域住民からの苦情は特になく、大きな混乱はありませんでした。
○緊急放流、特別防災操作の判断
・流入量予測、河川情報システムで下流河川の水位とダム貯水位の双方の状況を確認し、県庁とダム管理事務所が連絡を密に取り合い、変化する状況を常に共有しながら、緊急放流及び特別防災操作のタイミング、放流計画等を検討し、判断しました。
○関係機関との連携
・毎年4月に「滝ダム放流通報連絡会議」を開催し、関係機関(市、消防、警察、利水者)でダム放流の方法や流れを説明しています。
・放流に関する通知をする際、現在のダムの状況、今後の見込み等を補足説明しました。
・これら関係者の理解を深める取組みにより、実際の洪水対応時は各々の防災活動に集中することができました。
■滝ダム管理事務所HP: https://www.pref.iwate.jp/kenpoku/taki/index.html