「ダム管理所長に聞く」第5回《鳴子ダム》

(聞き手:水源地環境センター 仙台事務所 瀧澤)

「ダム管理所長に聞く」第5回は、すだれ放流の舞台裏を中心に鳴子ダム管理所の佐藤所長にお話しをお聞きしました。

春の訪れをささやく「鳴子ダムすだれ放流」

■鳴子ダムの位置

鳴子ダムは、北上川水系江合川の上流部(宮城県大崎市鳴子温泉)に位置する日本初の純国産アーチダムで、平成28年度に土木学会から選奨土木遺産に認定されています。

■すだれ放流

雪国特有の鉛色の空が晴れ、真っ青な空に銀色の山並みが映える頃、雪解けの水を満々と湛えた鳴子ダムから玲瓏な水がサラサラと音をたてて流れ出します。

昭和32年に完成した鳴子ダムが60年以上続けている「すだれ放流」です。ゲートレス8m×5m×8門から90m流れ落ちる姿は、今や鳴子温泉の風物詩と言われております。

例年、5月2日~5日に実施されておりますが、今年は新型コロナウィルス感染症対策のため、4月28日~29日にヒッソリと行いました。

昨年冬は記録的な小雪のため、雪解け水が極端に少ない状況でしたが、なんとか実施できました。

是非、来年の5月の連休には鳴子ダムに足をお運びください。
鳴子ダムでしか見ることができない「すだれ放流」一見の価値ありです!

※ 例年、鳴子ダム「すだれ放流」を下流から見上げるツアーが開催されています。通常、下流の管理用道路は閉鎖されていますので、滅多に見ることができない場所をツアーで巡ります。詳細は(一社)みやぎ大崎観光公社のホームページまで!
参考:http://www.mo-kankoukousya.or.jp/


■すだれ放流の舞台裏

○試験湛水

初めての「すだれ放流」試験湛水時(昭和32年)
今では撮影できない右岸下流からの写真

通常、ダムはその性能を確認するため試験湛水により満杯に水を貯留し各放流設備等の試験を行います。鳴子ダムのクレストも例外では無く、昭和32年に試験が行われております。 鳴子ダムの放流の姿は地域の方々から絶賛され、以後強い地元要望もあり試験放流は続けられております。

○すだれ放流中止

管理62年となる鳴子ダムですが、過去に9回ほど「すだれ放流」が実施できなかったことがあります。

それは雪が少なくダムが満水にならなかったとき、また、すだれ放流を実施している5月2日~5日付近に出水が発生したときなどです。

東北の雪解け水は少量の雨でも出水を引き起こします。鳴子ダムは管理62年間で41回の洪水調節を実施しておりますが、3回は融雪期であり、平成24年5月3日~4日はまさにすだれの実施予定日でした。洪水を迎えるため事前放流を実施し、「すだれ放流」は中止とせざるを得ませんでした。

○24時間体制

毎年、何気なく、当たり前のように「すだれ放流」が行われておりますが、決して簡単なことでは無いのです。気象情報をこまめに収集し、流入量を的確に予測、放流設備を24時間体制で操作しているのです。

○支える技術

「すだれ放流」が綺麗に見える条件は越流水深10cm程度で、1つの窓から約1m3/sの放流を行うと、放流口と放流口を仕切っている橋脚部が縦線となってアクセントを加えてくれます。

令和に入って初の「すだれ放流」となった昨年度は前日に80m3/sの小規模出水がありました。(「すだれ放流」は毎秒100m3/sを超えると予想される場合、中止いたします。)中止しようか逡巡する中、72m3/sをトンネル余水吐で放流し、残りの8m3/sを「すだれ放流」させるのです。

参考:トンネル余水吐放流動画
http://www.thr.mlit.go.jp/bumon/j74501/homepage/oshirase/pdf/19_06kouzuibaki.mp4

○安全確認

鳴子ダム下段監査廊基礎排水孔

「すだれ放流」時は常時満水位を超えて数日間過ごすことから、漏水量観測や堤体変位量観測なども臨時で行っています。高さ94.5mの鳴子ダムですが、すだれ放流時の漏水量は200cc/min以下と非常に少なく建設技術の高さがうかがえます。

なお、堤体変位は満水時に下流側に20mm程度傾きますが、コンクリートの弾性変形でありダムの安全性には問題がありません。


■最後に

佐藤所長

令和元年度の「すだれ放流」では、前日に流入量100m3/sの出水があり、24時間体制で放流量を管理し「すだれ放流」を実施しました。

令和2年度は小雪のため例年の3分の1の流入量でしたが、利水者と調整を図りなんとか満水とし「すだれ放流」を行うことができました。

安全かつ確実に「すだれ放流」するためには、刻々と変化する天候や流入量に目を光らせ様々な努力が必要なのです。当管理所のスタッフを見つける事がございましたら、「ご苦労様!」とお声がけ頂ければ幸いです。