「ダム管理所長に聞く」第24回《田子倉ダム》

(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第24回は、福島県にある電源開発(Jパワー) 田子倉電力所長の峯さんにお伺いしました。

峯所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに只見川における電源開発の経緯についてご紹介下さい。

■只見川水系における電源開発

只見川水系のダム

(峯所長)
標高1,665mの尾瀬の湿原を源とする只見川は、伊南川を合わせて会津盆地に入り、阿賀川に合流する延長約145km、流域面積約2,792km2の一級河川です。阿賀川はその後日橋川(猪苗代湖)などと合流して、延長約210km、流域面積約7,710km2の日本海に注ぐ阿賀野川となります。

この包蔵水力は我が国の水力発電事業の発達に伴って注目され、1920年代から行われた電力の開発により、下流部に4箇所の流れ込み式発電所(鹿瀬、豊実、伊南川、新郷何れも東北電力(株))が先駆けて建設されました。

戦後、各種産業の復興と共に只見川にも大きな調整容量をもつ貯水池開発の可能性が再認識され、昭和21年より日本発送電会社の調査・計画を始めとして大貯水池建設を含む「只見川総合開発」が種々計画されました。

昭和28年7月「第10回 電源開発調整審議会」にて、225,000kWの電源として、奥只見、黒又川第1、田子倉の開発が決定され、その後、経済性、需給上の要請等から計画を変更し、昭和31年12月「第21回 電源調整審議会」においては、奥只見(360,000kW)、大鳥(92,000kW)、田子倉発電所(380,000kW)、滝発電所(92,000kW) としての開発が承認されました。

更に、只見発電所が、昭和48年秋の、いわゆるオイルショック以降エネルギー情勢の急変、純国産エネルギーである水力開発の必要性の再認識を受け、既設田子倉、滝両発電所間に残された約37mの落差を利用するものとして、昭和56年「第86回 電源開発調整審議会」により計画が承認されました。

また、黒谷川の水は当初、田子倉ダムに注水することで増電力する計画として検討されていましたが、物価の高騰、灌漑用水への影響などから黒谷川流域内で開発する計画となり、平成元年「第111回 電源開発調整審議会」において黒谷発電所の開発計画が決定しました。

その後、開発計画変更、開発後の増設・機器更新を経て、現在の出力は、奥只見(560,000kW)、大鳥(182,000kW)、田子倉発電所(400,000kW)、滝発電所(92,000kW) となっています。

只見川電源地帯縦断図

■田子倉電力所管内の設備概要

(WEC)
田子倉電力所ではどのような施設を管理しているのでしょうか?

(峯所長)
田子倉電力所では、田子倉、只見、滝、黒谷の4つの発電所ならびに田子倉ダム、只見ダム、滝ダムの3つのダムと黒谷取水堰、大幽沢取水堰、小幽沢取水堰の3つの取水堰を管理しています。

田子倉発電所管内の発電所およびダム

■延べ370万人の人員の力で建設された貯水容量約5億m3の巨大ダム

(WEC)
それでは管理されている3つのダムの内、最大のダムである田子倉ダムについてお話を伺いたいと思います。

(峯所長)
田子倉ダムおよび田子倉発電所は、昭和29年12月に着工しました。昭和31年11月、ダムコンクリートの打設を開始し、その後、一日のコンクリート打設量8,462m3の記録を樹立するなど順調に工事は進捗し、昭和34年5月に仮使用認可最大出力150,000kWとして営業運転を開始しました。

昭和35年5月に第一期(出力285,000kW)の運転を開始し、昭和36年11月に4号機の完成により第二期の運転を開始したことにより最大出力380,000kWの水力発電所として完成しました。

現在では、2004年11月から2012年5月までの8ヵ年をかけ発電機の更新工事を行い、総出力400,000kWの発電所となり日本の一般水力として二番目の出力を誇る我が国を代表する水力発電所です。

田子倉ダムは貯水容量4億9,400万m3を誇る日本有数の巨大ダムであり、そのダム湖である田子倉湖はダム湖百選にも選ばれています。

田子倉ダムの建設においては資材運搬用の専用鉄道建設を含む延べ370万人の人員、約195万m3もの莫大な量のコンクリート打設など、その数量からもスケールの大きさがうかがえます。

田子倉ダム建設工事状況

<田子倉ダム諸元>

ダム湖百選に選ばれた田子倉湖

■平成23年7月新潟・福島豪雨災害と只見川流域の安全・安心に向けた取組み

(WEC)
近年気候変動の影響もあり全国各地で想定を超える豪雨災害が頻発しています。只見川流域でも、平成23年の新潟・福島豪雨では甚大な被害があったとお聞きしていますが、近年の豪雨に対する取組みについてお話しいただけますか?

(峯所長)
平成23年7月新潟・福島豪雨災害において只見川流域は甚大な被害を受けました。

田子倉電力所管内の発電所等の設備については、滝発電所が発電所の浸水、放水庭などの土砂による埋没などにより約3年間の発電停止を余儀なくされました。また、管内各所で橋梁や管理道路等が被災し、現在も復旧作業を継続しています。

滝ダム下流の被災状況
(管理橋、進入路(左岸) の流出)

この豪雨災害を踏まえ、「只見川流域の安全・安心」に向け次の2点に取り組んでいます。

一つ目は「洪水低減対策」、そして二つ目が「ダム情報の発信・公開等」です。

■奥只見ダム、田子倉ダムの空き容量を活用した洪水低減対策

(峯所長)
洪水低減対策につきましては平成24年度より、当社は奥只見ダム(小出電力所管理)および田子倉ダムを活用した以下の取組みを「暫定運用」として実施しています。

運用期間は毎年6月21日~10月10日としており、洪水到達時のダム水位を目標水位以下になるよう水位維持または上昇の抑制を図り、計8,480万m3の空き容量を確保し(下表参照)、洪水初期の放流量の低減と最大放流量の低減を図ることとしております。

なお、本洪水低減対策の策定に際しては、「平成23年7月新潟・福島豪雨に関する阿賀野川水系技術検討会」(公益社団法人 土木学会東北支部)を設置し、運用の内容と効果の確認を頂いております。

また、暫定運用としているのは、発電利水ダムは本来治水目的のダムではございませんので、治水協力として検討し取組んだものであるため、あくまで暫定運用との位置づけと致しております。

ダム水位と放流量の低減効果(イメージ)

■ダム情報の発信・公開

(峯所長)
次にダム情報の発信・公開についてですが、流域自治体の皆様へ向けて、ダム放流開始連絡、ダム放流期間におけるダム水位、流入量、放流量などの毎時連絡などのダム情報の発信を行っています。

また国土交通省のホームページ「川の防災情報」において、奥只見、大鳥、田子倉、只見、滝の各ダムのリアルタイムの水位、流入量、放流量の情報を公開しています。

■阿賀野川水系治水協定の締結

(WEC)
田子倉ダムのような発電専用ダムも、治水上非常に重要な位置づけとなってきていますが、田子倉ダムでは非常に早くから対応されているのですね。

(峯所長)
J-POWERは、2020年5月、河川管理者である国土交通省 北陸地方整備局ならびにダム管理者および関係利水者と阿賀野川水系における治水協定を締結しました。

本協定の目的は、大規模な洪水が予測された場合、既存の多目的ダムに加え、発電ダムでも利水容量の一部を事前放流し、空き容量を確保することでダムに流入する洪水をこれまでより多く貯留し、ダムからの放流量の低減を図り、流域の安全・安心のために治水協力を行うもので、田子倉電力所が管理する田子倉ダム、只見ダム、滝ダムも協力しています。

なお、奥只見ダムおよび田子倉ダムにおいては、新潟・福島豪雨災害後の平成24年度より実施している「暫定運用」を治水協定締結後も引き続き適用しています。

■田子倉ダムと田子倉湖

(WEC)
事前放流の実施にあたっては、関係者間の情報共有がますます重要になってきますね。

それでは続きまして、田子倉ダム周辺の魅力についてお話しいただけますか?

『ダム湖百選 田子倉湖』のプレート
(田子倉ダム天端)

(峯所長)
田子倉ダム、田子倉湖がある只見町は、福島県の会津地方の最西端に位置し、新潟県と接しています。

只見町は冬には積雪が3mを超える日本有数の豪雪地帯です。山々は雪崩によって削られて岩が露出した「雪食地形」が独特の景観となっています。また、ブナを中心とした広大な自然林に恵まれ、特別天然記念物のカモシカなど希少な動植物が生息しています。

只見川とその流域は越後三山只見国定公園に指定されています。また、只見町は平成26年6月に「只見ユネスコエコパーク」の認定を受けました。

ユネスコエコパークでは、地域の豊かな生態系の保護・保全だけではなく、それに加えそれらの持続可能な利活用、いわゆる「自然と人間社会の共生」を目的としています。田子倉湖はその中で雄大な自然景観の一部を成し、春の新緑、秋の紅葉など季節ごとに様々な景色を楽しむことができます。

田子倉湖は、平成17年3月に (財)ダム水源地環境整備センター のダム湖百選に選定されました。

只見湖の水面に映る田子倉ダム(初夏)

田子倉ダムと田子倉湖(秋)

只見湖の水面に映る田子倉ダム(冬)

■JR只見線、今秋、全線再開通!!

(峯所長)
只見川沿いを走り、車窓から見える渓谷や田園、そして四季折々の美しさから有名なJR只見線は、福島県の会津若松から新潟県の小出まで、約135kmを結ぶローカル線です。

また、只見川を渡る数か所の橋梁と自然の美しさが魅力となっています。特に第一只見川橋梁が有名で、橋梁が見渡せるビューポイントは、人気のスポットになっています。

只見線の歴史を振り返ると、田子倉ダムの建設と深くかかわっています。只見線は1956(昭和31)年に田子倉ダムの建設に伴い、建設資材の輸送のための専用線として会津川口から先、只見を経て田子倉まで延伸されました。田子倉発電所の構内には一部ですが電源開発専用線時代の引込線の跡が残っています。

只見線は、平成23年 新潟・福島豪雨災害により橋梁や線路が被災しました。それ以来、会津川口駅~只見駅間において運休(代行バスが運行)の状況が続いていましたが、いよいよ今年の秋、10月1日に全線再開通することとなりました。

地元の皆様、鉄道ファン待望の只見線全線再開通に向けて、只見町では只見駅前広場の整備などを進めています。

第5只見川橋梁(建設工事)

■六十里越え

六十里越開道記念碑付近より見渡す田子倉湖

(峯所長)
田子倉湖の左岸側を通り新潟県と福島県を結ぶ国道252号の峠道は、「六十里越え」と呼ばれています。その名前は、一説ではその険しい地形のため六里(24km)の距離が十倍にも感じたことに由来するそうです。

山の形に沿って曲がりくねった道ですが、それだけに雪食地形のダイナミックな景観や田子倉湖をはじめとする雄大な風景を楽しむことができます。

豪雪のため冬期間は通行止めとなりますが、毎年ゴールデンウィーク前の開通とともにドライブやツーリングを楽しむ方がたくさん訪れます。

田子倉ダムの周辺
(国土地理院 電子地図より)

■只見ふるさとの雪まつり

(峯所長)
田子倉電力所が所在する只見町の真冬の一大イベントといえば、毎年2月に只見駅前広場で開催される「只見ふるさとの雪まつり」です。

メインステージには大雪像が設けられ、郷土芸能の発表や芸能ステージなど様々なイベントが催されます。また、味自慢のお店の出店など郷土の味も楽しめます。

田子倉電力所では、入場門の制作を担当しており、大雪像に合わせたデザインで制作しています(大雪像は、2018年:鶴ヶ城、2019年:北海道赤レンガ庁舎)。

1989年、只見発電所の竣工を記念して制作したのが始まりで、2019年で31回となりました。

2021年、2022年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で残念ながら中止となりましたが、2023年こそは雪まつりの復活が期待されます。

「只見ふるさとの雪まつり」
電力所所員による入場門の制作と大雪像をバックに郷土芸能のステージ

(WEC)
ぜひ只見の自然を多くの方に体験していただきたいですね。

■ダムカードについて

(峯所長)
田子倉電力所では、田子倉ダムと只見ダムのダムカードを発行しています。

休館日を除き、それぞれ田子倉レイクビュー(休館日:原則、毎週火・水曜日)と只見展示館(休館日:原則、毎週水曜日)で配布しています。
(※休館の場合は、只見駅内の只見町インフォメーションセンター)

田子倉ダムカード

■只見展示館について

(峯所長)
只見展示館は、「水」をテーマとしており、各発電所の模型やパネル、映像シアターなどを通して水のエネルギーが電気を生み出す様子や只見における水と人とのかかわりなどを学んでいただくことができます。

只見展示館は、平成3年7月の開館以来、令和3年度末までの累計でおよそ34万人の方々にご来館いただきました。

只見展示館

■電力所員一体となって、流域の安全・安心の確保、電力の安定供給を

(WEC)
最後に一言お願いします。

峯所長

(峯所長)
1959年5月に田子倉発電所が一部運転を開始して以来、60年以上の長きにわたり、当社はこの只見川流域で発電事業を継続してまいりました。これも発電所運営について地域の皆様、地元行政、関係各機関のご理解、ご協力、ご指導があったからこそだと思います。

これからも、田子倉電力所が地域に末永く信頼されるよう電力所員一体となってダムの維持管理および運用に取組み、流域の安全・安心の確保に努めていきたいと思います。

また近年、脱炭素化の観点から、CO2フリーの純国産の再生可能エネルギーとして水力発電の存在意義が高まってきています。

田子倉電力所としては地域との共生を図りつつ、管内の各ダム、各発電所の能力を最大限に生かし、電力の安定供給に貢献できるよう、設備の保守管理を確実に行ってまいります。


(WEC)
本日はありがとうございました。


■電源開発株式会社HP:https://www.jpower.co.jp/
■田子倉ダムカード配布案内:https://www.jpower.co.jp/damcard/tagokura.html
■只見展示館:https://www.jpower.co.jp/learn/facilities/tadami.html