一般財団法人 水源地環境センター 第23回 技術研究発表会 開催

一般財団法人 水源地環境センター
企画部 渡邉 和典

令和4年11月25日、千代田放送会館(東京)において、一般財団法人 水源地環境センター(WEC)の第23回 技術研究発表会を開催しました。

新型コロナウイルス感染拡大は落ち着きを見せたとは言え、対策継続が引き続き呼びかけられる中、本年も会場の定員を半数に制限しソーシャルディスタンスを十分確保するなど、発表者や来場者のリスク低減に配慮し、さらにWeb聴講を併用しての開催となりました。

聴講者数は、来場者数65名、Web聴講数231アクセスに達し、盛況となりました。特にWeb配信は全国から多数の聴講をいただくことができ、誠に感謝に耐えません。

■開会の挨拶

冒頭、当センターの平井理事長が開会挨拶として、今般のコロナ禍においてワクチンを自国供給できない、あるいは半導体を自国生産できないなど、国内の科学技術競争力の衰退について触れ、イノベーションには基礎研究部門と商品開発部門の連携による新たな知を創造・具体化する過程が不可欠であり、建設業は今でもゼネコンを含め技術研究所を保持している国際的にもユニークな産業であると指摘した後、基礎研究の重要性、さらには研究機関の必要性を強調しました。

その上で本日の技術研究発表会を、新たな「知」の発見、さらには具体化のための技術進展に資するものとして位置付け、将来へ向け技術研究開発の継続にかける意欲を表明しました。

また、WECの大先輩である参議院議員の足立敏之先生が多忙なスケジュールを割いてご来場くださり、お言葉をいただきました。

当センターに在籍中の思い出、ダム逆風の時代、令和4年9月の台風14号による大雨の中、試験湛水中の玉来ダム(大分県大野川水系)が洪水を引き受け、下流の街を守り災害を防いだという、令和元年東日本台風における八ッ場ダム(群馬県利根川水系)にも匹敵する活躍のエピソードなどをご紹介いただき、ダム分野出身の議員として今後の情報発信にかける決意を述べられました。

■特別講演

本年は、跡見学園女子大学の鍵屋 一 教授をお招きし、特別講演をお願いいたしました。

鍵屋先生は、東京都板橋区役所で防災・福祉行政の現場に携われた後、大学教授として学生を指導しつつ、内閣府の「被災者支援のあり方検討会」座長、福祉防災コミュニティ協会の代表理事など広範な活動をされている同分野の大家でいらっしゃいます。

当日は、『災害時に高齢者、障がい者等を守るために~個別避難計画、福祉避難所、地区防災計画を中心に~』と題して、福祉防災という視点で、専門のお立場から最新の知見をご紹介くださいました。

先生は、命を守る防災のコツはとにかく「早く逃げる」ことに尽きるが高齢者・障がい者・難病患者・妊産婦・乳幼児児童・外国人の中で自分だけでは逃げられない方を避難行動要支援者として捉え、当事者と福祉や医療関係者等を中心に地域住民、民生員等が話し合い、個別の避難計画を作成することが大事であると述べられました。

また、災害被害の方程式は「自然の外力」☓「人口 (曝露量)」☓「社会の脆弱性」で表わせられ、防災というものは、この中の「社会」をハード・ソフト・ハートによって強くすることである、日本は高齢の単身世帯、障がい者、難病患者が増加、即ち要支援者が増加しているのだが、地域の近所付き合いが希薄になってきていて「支える人」の力が弱まってきており、社会の脆弱性が高まってきていると述べ、避難所外避難者を含めた支援計画や体制の充実が急務であることにも言及されました。

さらに、人や地域のつながりこそが信頼の絆であり、これを「ご近所力」と呼び、これこそが本質であり安心安全の源泉である、危なくなったら近所の誰かが助けてくれる、こういったところに安心安全があると強調されました。

最後に、これからは損失を減らす防災から「魅力増進型」の防災が求められ、日常から人間関係や経営を良好にし、魅力ある施設、職員を作ることが災害や危機にも強くなることだと述べ、特別講演を締めくくられました。

■WECから4つのテーマで研究発表

最初に、『長時間降雨予測情報を活用したダム操作の可能性』と題して、研究第一部 真柄 圭 から発表がありました。

真柄は、効率的なダム操作実現のための長時間降雨予測情報の活用を目的として、11日先までの降雨の予測が可能となる、「全球アンサンブル予報」の特性を活かした利用方法を提案しました。

具体的には、「全球アンサンブル予測」を用いた降雨生起時間帯の把握方法として、複数回の累積予測雨量を重ね合わせることで、降雨生起が見込まれる時間帯の把握手法を提案するものです。

また、全球アンサンブルの予測精度についても検証し、予測雨量の相関係数は前半132時間に比べ、後半132時間が小さくなる傾向があるものの、後半132時間については、降雨生起の有無を定性的に確認するうえで十分な予測精度を有していることを確認出来た旨、報告して発表を締めくくりました。

次に、『プロペラ式湖水浄化装置の吸引及び吐出特性に関する考察』と題して、水質技術開発室長 木村 文宣 から発表がありました。

木村は、WECが主催している「プロペラ式湖水浄化装置応用技術研究会」での調査研究の一環として、令和3年度に実施した調査結果の説明を行いました。

① 3次元流速計を用いた貯水池表層での湖水吸引特性については、水面から概ね1mまでの水塊を中心に吸引していることが推察された。

② AUVを用いた貯水池底層からの湖水吐出特性については、装置停止時と稼働時の水質分布の比較から、吐出水の拡散状況が観測された。

の二点を挙げ、これらについては引き続き調査検討を行っていく予定である旨、報告して発表を終わりました。

三番目に、『環境改善放流容量を確保したダムにおけるフラッシュ放流計画の検討』と題して、研究第二部 朝倉 加連 から発表がありました。

朝倉は、大阪府の淀川水系安威川ダムにおける、下流側の流況変化がもたらす河川環境への影響低減策としてのフラッシュ放流に着目した放流計画の再検討について発表しました。

同河川では、令和2年、令和3年の鳥類調査により貴重種の河原性鳥類の繁殖・営巣が確認されており、「3月末から6月までの繁殖期に礫河原の抱卵場所が冠水しないこと」を影響低減の方針としたものです。

既往のフラッシュ放流計画をダム建設前の月別出水状況・頻度を超えないように見直し、営巣地である礫河原が大きく冠水する水量の放流を繁殖期に行わない計画を提案しました。

現在は実施判断基準や実施時の安全確保のためのパトロール体制などを盛り込んだ実施要領の作成を進めており、今後は実際の管理・運用の中で効果の検証、設定放流量の妥当性の確認等を進めていく方針であることを報告して発表を終わりました。

最後に、『環境保全の現場:既にスタンダードとなったDNA情報の活用』と題して、研究第三部次長 大杉 奉功 から発表がありました。

大杉は、ダム事業アセスメントや河川水辺の国勢調査などにおいて自然環境調査で従来取られてきた動植物の捕獲調査などに代わるDNA解析を活用した調査手法について紹介しました。

最初に、PCR手法の普及など近年のDNA解析手法の技術革新により、種の同定、環境DNAを用いた生物調査手法などの技術開発が急速に進んでおり、DNA解析は「簡便かつ安価に活用可能な調査技術」として認識されるようになってきていると指摘しました。さらにDNA情報がないと区別できない新種が次々と発見され、DNA調査が地域の生物相や保全対象の貴重種の把握に不可欠となってきている事例を示し、環境DNAを利用したダム湖生物相調査の実例を挙げ、極めて効率的かつ簡易に魚種の検出ができることを示しました。

次に、DNA解析に基づく遺伝的多様度を評価することにより、保全対象の種の生息場所ごとの遺伝的な違いを明らかにし、ダム事業の影響評価に活かすという検討手法について、ダム事業で生息域の一部が水没するアジメドジョウ個体群を対象として行ったミトコンドリアゲノム解析に基づく遺伝的特徴の生息場所ごとの評価と保全の優先度の検討事例を紹介しました。

続いて、ダム湖の外来魚(オオクチバス)の新たな駆除効果の評価方法として、DNA解析をもとに検出される親子兄弟等の近親関係を標識として個体数や個体群動態を把握するクロースキン解析手法(Close-Kin Mark-Recapture:CKMR法)を用いた調査手法の開発について、福島県阿武隈川水系の三春ダムにおける事例を紹介し、同ダムで実施されている複数の駆除法の比較評価への適用などの今後の展開を紹介し、発表を終わりました。

■最後に

今回は、来場、Web聴講の方々多数のご参加をいただき、誠に有難うございました。

研究員一同、来年に向けさらに研究の深度を深め、新たな知見をご報告できるよう研鑽に努めてまいります。

講演者・発表者の方々、来場、或いはWebでの動画配信を通じて聴講いただいた皆様方、誠にありがとうございました。