「ダム管理所長に聞く」第33回《阿賀野川水系11ダム群の管理》

(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第33回は、福島県から新潟県に至る一級河川阿賀野川水系において11のダム群を管理する東北電力株式会社 会津若松支社 会津ダム管理センターの松本所長にお伺いしました。

松本所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに阿賀野川水系における発電の概要についてご紹介をお願いします。

■11基のダム、16の発電所で生み出す87万kWの電力

(松本所長)
地域住民から大川として親しまれる阿賀川は、荒海山(あらかいさん)(標高1,581m)にその源を発し、会津盆地に入った後、猪苗代湖から流下する日橋川、尾瀬沼(標高1,665m)を源とする只見川と合流し、新潟県境で阿賀野川と名称を変え日本海へと注ぐ、総延長210km、流域面積7,710km2の一級河川です。

当社は阿賀野川水系最大の支川である只見川から阿賀野川までに11基のダムを階段状に設置し、現在、16の発電所で約87万kWの発電を行っています。

阿賀野川水系 流域図

■我が国の経済自立に貢献した阿賀野川水系の電源開発

(松本所長)
只見川・阿賀川・阿賀野川の電源開発は、阿賀野川で昭和3年に鹿瀬発電所、翌年の昭和4年に豊実発電所が建設されました。

戦前、阿賀川で昭和14年に新郷発電所、昭和18年に山郷発電所が建設され、昭和16年には只見川に宮下発電所の建設が着工し、太平洋戦争終結後の昭和21年に運転を開始しています。

また、戦後復興期、只見川流域が昭和26年国土総合開発法に基づく特定地域総合開発の対象地域(只見川流域は京浜工業地帯再建のための電源開発)の指定を受け、昭和28年に柳津、片門発電所、昭和29年に本名、上田発電所が建設されました。その後、昭和33年に上野尻発電所、昭和38年には揚川発電所が建設され、11発電所約64万kWの水力電源地帯となりました。昭和48年以降は更なる水資源の活用を目的に発電所の増設、リプレイス工事を行い、現在、16発電所で発電をしています。

阿賀野川水系の電源開発は、東北のみならず我が国の経済自立にとって必要不可欠なエネルギー供給源とし、総力を結集して取り組んだ歴史があります。

会津ダム管理センター管内のハイダムおよび発電所

鹿瀬ダム全景

宮下ダム全景

■11ダムの管理体制

(WEC)
戦前戦後の経済発展に大きく貢献されてきたのですね。
次にダムの管理体制についてご紹介ください。

(松本所長)
阿賀野川水系に階段状に設置した11基のダム管理は、図-1 に示す体制で行います。

会津ダム管理センター(福島県会津若松市内)は、11基のダムの水を安全に流すために一貫した統合管理を行い、只見川ダム管理所(福島県三島町)では、本名ダム~片門ダムの5ダムを、阿賀野川ダム管理所(福島県西会津町)では、新郷ダム~揚川ダムの6ダムを管理しています。

図-1 会津ダム管理センター 管理体制

<ダム管理所・会津ダム管理センターの役割>

①ダム管理所の役割

ダム管理所は、ダム、取水口、導水路、水槽、放水口等の土木設備の日常点検、外部・内部点検、修繕工事、出水時のゲート操作、また、緊急時の設備トラブルやゲート操作に備えた2名体制による宿直業務も行います。

②会津ダム管理センターの役割

会津ダム管理センターは、ダム管理所で行う点検、工事の管理・指導、関係機関対応、出水が予想される場合は警戒体制を発令し、指揮命令系統体制の確立、現地への人員の配備や各ダムの水位運用等の指示を行います。

出水時の統合管理のために洪水監視装置を設置し、ダム現在情報(ダム水位、流入量、放流量、発電所使用水量、故障情報)や支川流量、管内雨量情報、気象情報の収集の他、降雨出水予測支援機能等を活用した体制確立を行います。

また、土木部門のダム管理教育の拠点として、基礎教育(知識・実技)、応用教育(知識・実技)、実務者訓練教育(実技)を開講し、年間約60名の受講者の教育を行います。実技ではダムシミュレータ装置による訓練を行い、各事業所にあるハイダムの操作に必要な知識、技能習得の重要な役割を担っています。

会津ダム管理センター 洪水監視装置

ダムシミュレータ装置

■只見川流域における安全・安心に向けた取組み

(WEC)
技能習得のための教育にとても力を入れておられるのですね。とても大切なことだと思います。
次に、近年は想定を超える様な豪雨災害が頻繁に発生し、事前の対策が重要になっていますが、阿賀野川水系ではどのような対策をされていますか?

(松本所長)
平成23年7月新潟・福島豪雨による未曾有の出水が発生し、只見川流域は護岸や家屋の損壊、また、JR只見線の橋梁の流出等の大きな被害が発生しました。只見川流域の5ダムは設計洪水量を超える流入量を記録し、本名ダムで6,410m3/sを記録する等、上田、宮下、柳津の4ダムで既往最大流量となりました。

また、上流域では土砂生産が活発な状況であり、出水以降から現在までに大量の土砂が流入しており、本名調整池には出水前より約480万m3の土砂が堆積しました。

当社は、地域の安全・安心に向けた取組みとして、浚渫用船着場を本名調整池に2箇所、片門調整池に1箇所新設し、3ダムの調整池内堆積土砂除去を年間10万m3を目標に行っています。

また、当社ホームページにダムの水位、流入量、放流量、雨量情報、支川流量情報を「阿賀野川水系ダム情報」として公開し、地域防災に活用いただくための取組み等、ハード・ソフトの両面からの対策を進めています。

上田ダム 放流状況(2011.7)

宮下発電所 河川状況(2011.7)

片門調整池 浚渫用船着場

片門調整池 浚渫状況

■JR只見線の運転再開について

(松本所長)
JR只見線は、平成23年7月の新潟・福島豪雨で本名発電所直下流に架かる第6橋梁を含む3箇所の橋梁が流出するなど甚大な被害が発生し、福島県の会津川口-只見間27.6kmで運休が続いていましたが、令和4年10月1日から運転が再開され、11年ぶりに会津若松 (福島県) - 小出 (新潟県) 間135.2kmの全線が結ばれました。

運転再開当日は、会津川口駅や只見駅でセレモニーが行われ、特別列車は運行を待ちわびた沿線住民や鉄道ファンに迎えられました。当社は本名発電所から復旧した第6橋梁を通過する特別列車に手を振りました。

JR只見線は大正15年に「会津線」として開業し、度々の延伸やダム建設に関わった資材運送鉄道の譲渡などを経て、昭和46年に現在の路線となりました。大自然の絶景のなかを走る秘境路線として、遠方からの多くの写真愛好家が集まり、人気の高い路線です。只見川を眺めながらの鉄旅はいかがでしょうか。

JR只見線 第1橋梁

JR只見線 第6橋梁

■ダムカードを活用した地域活性化への取組み

(WEC)
JR只見線の運転再開は、地域だけでなく全国的にも大きなニュースになりましたね。
ダムを活用した地域の活性化はとても重要なことと思いますが、会津ダム管理センターではどのような取組みをされていますか?

(松本所長)
地域活性化への取組みとしてダムカードの積極的な活用を図っています。阿賀野川水系の11基のダムカードを作成し、ダム付近の道の駅等で配布を行っています。11基のダムを写真に収め、地域の特産(ソースカツ丼、蕎麦、馬刺し等)を食しながらのダムカード収集はとても楽しく、お勧めです。

また、昨年11月には、本名、上田、宮下、柳津、片門の5種類のダムを1セットとして、NFT(代替不可能なデジタルデータ)技術を活用した当社オリジナル「NFTダムカード」の販売を行いました。

今回は、先端技術を活用した地域活性化に関する実証試験として、宮下ダムの空撮動画付きダムカードを20セット、本名・宮下ダムの見学会付きダムカードを10セット販売しています。本実証試験による成果を踏まえ、NFT技術を活用した発電設備などのインフラ価値の再開発、再生可能エネルギー価値の可視化等の検討を進める予定です。

本名ダム ダムカード

上野尻ダム ダムカード

(WEC)
御社オリジナルダムカードもあるのですね。全国的にもダムカードの販売は初めてお聞きしましたが、評判は如何でしたか?
また、NFTダムカードにつきましても詳しく教えていただけますか?

(松本所長)
宮下ダムの空撮動画付きダムカードは1セット3,000円でネット販売し、販売開始後、20セットは即完売しました。本名・宮下ダム見学会付きダムカードは1セット20,000円でネット販売し、6セット購入いただきました。見学会は4月に最大17名の参加者で実施します。

NFTダムカードはダム情報をデジタルコンテンツ化し、NFTの特徴であるブロックチェーン技術を活用して唯一無二の証明を付与したものです。偽物やコピーとの違いを証明できるなどの特徴を持っています。近年はトレーディングカードにNFT技術が活用されることも多くなっています。

本名・宮下ダム 見学会付きダムカード

■地域によりそい、親しまれるダムを目指して

片門ダムを背景にした松本所長

(WEC)
すごい人気ですね。ダム見学会の実施は、ちょうどこの記事が水源地ネット4月号に掲載される頃になりますね。楽しんでいたただけるといいですね。
それでは、最後に一言お願いします。

(松本所長)
阿賀野川水系における電源開発は、鹿瀬ダムの建設から今年で95年目を迎えます。その間、地域の皆さま、関係市町村等のご理解とご協力により発電事業を継続することができています。

引き続き、地域のお祭りやボランティア活動に参加し、地域によりそい、親しまれるダムを目指して、会津ダム管理センター、ダム管理所員が一体となり、ダム管理業務に努めていきたいと思います。

また、11基のダムは建設から60年以上を経過しておりますので、今後もきめ細かなメンテナンスによりダムの保安確保に努めながら、水力発電所の安定運転に貢献してまいります。


地域の雪祭りへの出店

河川清掃への参加


(WEC)
本日はどうもありがとうございました。


■東北電力 HP: https://www.tohoku-epco.co.jp/dam/