「ダム管理所長に聞く」第38回《荒川調節池工事事務所》

2023.10掲載 
(聞き手:水源地環境センター 企画部 伊藤)

荒川第二・第三調節池(整備中)

■首都圏を洪水被害から守る荒川第二・三調節池整備事業の推進とDXの取組みについて

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第38回は、関東地方整備局 荒川調節池工事事務所にお伺いしました。現在、整備事業を実施中の荒川第二・第三調節池の取り組みなどについて伺っていきたいと思います。

小平事務所長、どうぞ宜しくお願いします。

それでは初めに荒川流域と「荒川第二・第三調節池」の概要について、ご紹介願います。

■荒川流域と荒川第二・三調節池の概要

(小平事務所長)
荒川は、我が国の社会経済活動の中枢を担う埼玉県、東京都を貫流する一級河川であり、その流域内には日本の人口の約一割が集中しています。特に、埼玉県南部より下流には人口・資産が高密度に集積しており、ひとたび氾濫すると甚大な被害が発生します。

荒川流域の状況

記録的な豪雨をもたらした令和元年東日本台風の襲来時には、荒川の支川において堤防が決壊し、甚大な浸水被害が発生しました。本川においても既往最高水位を観測しましたが、上流のダムや荒川第一調節池等の既存施設が効果を発揮し、どうにか本川の堤防決壊・氾濫を回避することができました。

令和元年東日本台風による出水時の状況
荒川第一調節池は過去最大の洪水を貯留(令和元年10月13日16時頃撮影)

しかし、近年は、短時間強雨の発生の増加や台風の大型化等により、浸水被害が頻発しており、既に地球温暖化の影響とみられる現象が顕在化しています。今後さらに気候変動による水災害の頻発化・激甚化が予測されており、荒川においても更なる治水対策が不可欠となっています。

このため、荒川調節池工事事務所では、荒川流域の治水安全度向上を図るための抜本的な対策として、広い高水敷を活用した荒川第二・三調節池の整備に取り組んでいます。

荒川第二・三調節池 計画平面図

■荒川第二・三調節池の整備内容

(WEC)
荒川流域でも、全国で進められている「流域治水」の取組を実施されていますが、荒川調節池の整備は、まさに「流域治水」主要事業の要の1つですね。「荒川第二・第三調節池」の整備の特徴について教えてください。

(小平事務所長)
荒川第二・第三調節池は、荒川水系河川整備計画の目標である、戦後最大洪水と同程度の洪水が発生した場合に、災害の発生防止を図ることを目的として整備されるものです。
整備する場所は、埼玉県さいたま市・川越市・上尾市にまたがり、令和12年度の完成を目指して整備を進めています。

その面積は約760㏊、洪水調節容量は約5,100万m3(第二:約3,800万m3、第三:約1,300万m3)という大規模なものです。

調節池は、荒川左岸の広い高水敷に整備することとしており、このため河川内に、新たに「囲ぎょう堤」と呼ばれる堤防を整備します。

このほか、荒川本川の洪水の一部を調節池内に取り込むための「越流堤」や、第二調節池と第三調節池を仕切るための「仕切堤」等の堤防も整備することとしており、新たに整備する囲ぎょう堤(排水門、越流堤含む)の総延長は約11㎞、使用する土量は約450万m3(東京ドーム約4杯分)にも及びます。
また、調節池内の水を速やかに排水するための池内水路、排水門を整備します。

堤防等整備イメージ図(断面図イメージ)

これらの施設整備により、本川の水位が大きく上昇した際、洪水を調節池に取り込むことにより、更なる本川の水位上昇を抑制し、下流の洪水被害の発生防止あるいはリスクを低減することができます。

また、囲ぎょう堤や越流堤整備後は、ある程度の中小洪水までは調節池内にある田畑や公園等の冠水頻度が下がるため、河川空間利用の観点からも大きなメリットがあります。

併せて、JR川越線荒川橋りょう周辺の堤防が低いことから、橋りょうを高い位置に架け替えて、必要な高さまで堤防の嵩上げを行います。

堤防等整備イメージ図(断面図イメージ)

令和元年東日本台風では、荒川第一調節池において洪水調節容量の約90%にあたる約3,500万m3(洪水調節容量は約3,900万m3)の洪水を貯留しました。荒川第二・三調節池の整備により、荒川調節池群の洪水調節容量は約2.3倍の約9,000万m3となります。令和元年東日本台風の時に、仮に荒川第二・第三調節池が完成していたら、岩淵地点(東京都北区)で約30㎝~40㎝水位を下げていたと推測されます。

■荒川第二・三調節池のDXの取組みと工事進捗

(WEC)
「荒川第二・第三調節池」の整備にDXを活用してると伺いましたが、DXに関する最近の取り組みと工事進捗もご紹介ください。

(小平事務所長)
当事務所は、令和2年4月に新しく開所し、これまでに地質調査結果や堤防・水門等の施設設計成果のBIM/CIM三次元データ作成及び公開を行っています。以降、ICT建設機械による施工などを実施してきており、令和4年度に実施した第二調節池の地盤改良工事においては、攪拌翼の深度や速度などをリアルタイムで確認できるシステムを導入しました。そして令和5年度より、現場にいなくてもリアルタイムに可視化された現場状況や数値等をPCやスマホで遠隔で確認し、業務の効率化や現場への移動時間を削減させることを目的とした、BIM/CIMモデル活用による『サイバー建設現場®』の取り組みを推進しています。これらの取り組みを推進することで、更に効率的かつ合理的な建設現場の実現を目指します。

“あらいけDX体験館”2Fにて
事業概要を説明する小平事務所長

当日取材させていただいた“あらいけDX体験館”の全景


飛島建設㈱ 松浦様より
「当該現場でのDXの取り組み」を説明いただいた。


『サイバー建設現場®』の実施項目(一例)

実施項目 期待される効果
① 4Dモデルの作成・更新 ・3Dモデルに時間の経過を加えた4Dモデルにより、 工事ステップの実現性や安全性を確認・検証
① UAV測量による盛土管理 ・人力による測量作業の省力化、計測時間の短縮
① 盛土量・沈下量のGNSS自動変位計測 ・人力による測量作業の省力化、計測時間の短縮
・関係者間で情報を共有することで迅速・的確な判断

UAV測量による盛土管理(エブリデイドローン)

盛土量・沈下量のGNSS自動変位計測

一方、これらの取り組みについては当事務所だけではなく国土交通省内・自治体等の公共工事及び民間企業の工事でも活用されることが建設現場の効率化・合理化のために非常に重要です。当事務所では受注者との協働により、DX関連の取り組みを共有するための「あらいけDX体験館」を運営しています。当体験館では一般の方、学生、行政職員に対して、基礎情報としての荒川第二・三調節池整備事業の概要と現状のご紹介とマルチディスプレイを使用したBIM/CIMやICT技術の取り組みのご紹介を通じて、その必要性と効果の認知度の向上を目指しています。併せて、実際のICT建設機械を使って地元企業の方々や行政職員にご紹介する「ICT技術体験会」及び学識者による「ICT技術講演会」を開催し、民間企業の工事も含めた建設現場へのICT技術の普及を目指しています。

また、当事務所ではBIM/CIMに関する基礎知識等を習得するためのe-ラーニング教材を作成し、事務所職員に共有、自主学習を推進しています。この教材は初心者にも理解しやすい内容となっているため、当事務所HPに掲載しています。

なお、あらいけDX体験館見学会・ICT技術体験会などの開催については、適宜、当事務所HP(https://www.ktr.mlit.go.jp/araike/index.htm)やX(旧Twitter)等でお知らせしています。

これらの取り組みを通じて、今後もBIM/CIMやICT活用の取組をリードする「i-Construction モデル事務所」として測量・調査から、設計、施工、維持管理に至るまでBIM/CIM、ICTを最大限活用します。

あらいけDX体験館(外観)
※当体験館は工事安全協議会の協力により設置

大学生の見学状況
(あらいけDX体験館1階)

3次元設計(CIM)データを可視化した排水門

ICT技術体験会の状況

こうした最新技術の活用により、一日も早く調節池を完成させ、流域の安全・安心を実現できるよう事業を推進します。そして、河川工事の先進事例となる各種取組を強力に推進し、地方公共団体や地域の建設業界への更なる普及拡大にも貢献していきます。

囲ぎょう堤の整備(土工)における
3Dデータを利用したICT施行

盛土部分の沈下量等を自動計測するGNSS基準局

現場見学では、こんな記念も。馴染みのあるデザインが癒やされる!

工事の進捗については、令和4年度より第二調節池において排水門及び囲ぎょう堤整備工事に着手したほか、第三調節池においても排水樋管及び周囲堤整備工事に着手しました。令和5年度については令和4年度に引き続き、排水門・囲ぎょう堤、排水樋管・周囲堤の整備を進めるほか、工事用道路等の整備も進めます。これらの工事現場の見学会や各種事業広報の機会を通じて、最新のBIM/CIMやICT技術を活用した現場の魅力、働き方改革と生産性向上を関係者の皆様をはじめ、多くの方々に発信していきます。

【荒川第二調節池】 排水門及び囲ぎょう堤工事箇所の状況(さいたま市桜区)

【荒川第三調節池】 排水樋管及び周囲堤工事箇所の状況(上尾市平方)

荒川調節池工事事務所長 小平さん

(WEC)
最後になりますが、今後の取り組みなどについてお話しいただけますか。

(小平事務所長)
昨今の豪雨災害を踏まえ、本調節池の早期完成を望む声は日に日に高まっています。これらの声を勘案して、荒川第二・三調 節池事業は令和12年度完成予定ですが、段階的に効果が発現できるよう整備する予定です。 荒川の治水事業はまだ道半ばであり、気候変動の影響等により激甚化・頻発化する水災害から首都圏を守り、人々が安心して暮らせるよう、荒川調節池工事事務所職員一同がワンチームとなって本事業を推進します。

■荒川調節池工事事務所 https://www.ktr.mlit.go.jp/araike/

荒川調節池工事事務所HP
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