「ダム管理所長に聞く」第39回《浦山ダムと滝沢ダム》

2023.10掲載 
(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第39回は、一級河川荒川水系に建設された多目的ダムである浦山ダム、滝沢ダムを管理する水資源機構 荒川ダム総合管理所の宮川所長にお話しをお聞きしました。宮川所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに事務所のご紹介、また浦山ダム、滝沢ダムのご紹介をお願いします。

(宮川所長)
独立行政法人水資源機構 荒川ダム総合管理所の宮川です。こちらでは、浦山ダム、滝沢ダムの2ダムを管理しています。誤解のないよう申し上げると組織名にある「荒川ダム」はここにありません。富士川水系荒川に山梨県が管理する荒川ダムがあります。(笑い)

あらぶる川を制しすさぶる川に恵みを求めた多目的ダム群

(宮川所長)
近世以前の荒川は、源流から熊谷市付近までは、現在と同様の川筋を流れ、熊谷市付近から大宮台地の東を流下し、古利根川に合流し東京湾に注いでいました。荒川はその名のとおり「あらぶる川」であり、扇状地末端の熊谷市付近より下流でしばしば流路を変えていました。一方でその豊かな水量は時には渇水で「すさぶる川」となったことがありました。明治以降の直轄の治水事業として、河口部に荒川放水路事業を完成させ、1961年(昭和36年)、荒川本川に二瀬ダムが完成しました。その後、水資源機構が荒川の右支川浦山川に浦山ダムを、左支川中津川に滝沢ダムを建設し、それぞれ1999年(平成11年)から、2008年(平成20年)から管理を開始しています。

浦山ダム及び滝沢ダムいずれも洪水調節、既得取水の安定化・河川環境の保全、埼玉県・東京都の水道用水の開発及び発電(東京発電(株))を目的としています。なお、浦山ダムにおいては、地元の秩父広域市町村圏(1市4町)の水道用水の供給も担っています。

浦山ダム

滝沢ダム

■国内を代表する大ダムにおける新技術(設計・施工)

(宮川所長)
浦山ダムはダム高156m(重力式コンクリートダムでは国内2位)、堤体積175万m3(同3位)、総貯水容量5,800万m3です。滝沢ダムのそれは、132m(同9位)、167万m3(同5位)、6,300万m3を誇るいずれも国内を代表する大規模重力式コンクリートダムです。

両ダムともに大規模が故に設計・施工に合理化が求められました。

浦山ダムにおいては、原石山から採取する骨材からコンクリートまで全てを対象としたベルトコンベア輸送、RCD(1.0mリフト)+ELCM(1.5mリフト)、監査廊・エレベータシャフトのプレキャスト化など。

また、滝沢ダムにおいては、CSG改良盛土による開水路、RCD(1.0mリフト)+ELCM(1.5mリフト)、監査廊・エレベータシャフトのプレキャスト化、SP-TOM、コンクリート製造・運搬の自動運転システムなど。

■各種技術賞の受賞と環境に配慮した施工

(WEC)
なるほど、国内を代表する大規模ダムが故に苦労されたということですね。

(宮川所長)
はい。滝沢ダム建設事業は、平成21年度ダム工学会技術賞、平成24年度土木学会技術賞を始めとする複数の賞を受賞しています。また、ダムの設計・施工だけに限らず、滝沢ダム直下には2つの橋で構成されるループ橋(通称:雷電廿六木橋らいでんとどろきばし)を設計、施工し、ダムと一体となり景観を引き立てています。この橋に関しては、土木学会田中賞、経済産業省グッドデザイン賞、土木学会優秀賞を受賞しています。

また、滝沢ダムは「秩父多摩甲斐国立公園」内にあり、水資源機構で唯一、国立自然公園特別地域に位置し、浦山ダムも県立自然公園内に位置します。ダムの建設に当たっては、工事による影響を最小限にすることを基本方針とし(Low-Impact)、専門家の指導を得て保全対策に取り組みました。具体的には、希少猛禽類(クマタカなど)への保全、工事照明に昆虫類の集中が少ないとされるナトリウム灯の使用、湛水予定区域で確認された希少な植物の移植、郷土種による植生復元を図るための緑化対策など、当時としては未だ新しい保全策に取り組みました。

すさぶる川の恵みの効果

(宮川所長)
現在のダム管理の状況の話をしましょう。

荒川では、1983年(昭和58年)から1997年(平成9年)までほぼ毎年取水制限が発生していましたが、1997年(平成9年)4月以降、2016年(平成28年)まで取水制限は発生していません。浦山ダム、滝沢ダムの管理開始以降、初となる10%取水制限が2017年(平成29年)7月5日から行われ、その後、同月21日に荒川としては1994年(平成6年)以来23年ぶりの20%取水制限となりました。

2017年(平成29年)の取水制限以外は渇水に伴う取水制限が発生しておらず、各ダムによる利水補給効果が如実に表れています。

荒川本川の既往渇水

注)表中の日数は、降雨等による取水制限の緩和を含む、全期間の日数である。
出典:関東地方整備局・水資源機構平成29年10月12日報道発表資料「平成29年夏関東管内直轄河川における渇水状況のとりまとめ」

あらぶる川を制する洪水調節の効果

(WEC)
続きまして、近年各地で豪雨災害が頻発していますが、浦山ダム、滝沢ダムではどのような状況でしょうか?

(宮川所長)
浦山ダム、滝沢ダム、いずれも100年に1回の確率で発生する規模の洪水に対応した洪水調節操作を行う計画です。浦山ダムは管理開始から24年経過し27回の洪水調節、滝沢ダムは管理開始から15年で17回の洪水調節を実施していますので、いずれも1年に1回程度以上の頻度で洪水調節を行っています。洪水発生の要因の殆どが台風接近によるものです。

なかでも関東一円で被害が生じた2019年(令和元年)10月の台風19号では、両ダムとも管理開始以降最大の流入量を記録しました。非洪水期である10月だったので、浦山ダムは洪水貯留準備水位より高い水位でしたが、事前に洪水貯留準備水位まで低下させ、洪水調節容量を確保し、常用洪水吐きゲート(本来10月1日以降の非洪水期は全閉するところ)を全開にして洪水期と同様の洪水調節をしました。滝沢ダムも洪水貯留準備水位まで低下させ、洪水調節容量を確保し洪水調節をしました。二瀬ダムの洪水調節と相まって下流の河川水位を低下させ、氾濫を軽減することができました。

浦山ダム、滝沢ダムにおいては、2020年(令和2年)5月に締結された「荒川水系治水協定」に基づく「事前放流」の適切な運用により、異常洪水時防災操作(緊急放流)の回避、あるいは、異常洪水時防災操作の開始を遅らせることによる地域住民の避難時間確保及びダムからの最大放流量の低減に努めてまいります。

ダムの下流には、国指定名勝・天然記念物の長瀞岩畳ながとろいわだたみがあり、シーズンには、川下り、カヌー、ラフティングが盛んに行われ、ここに限らず、釣り、キャンプなど荒川は多くの方に利用されています。事前放流を実施するとなれば、まだ僅かな雨しか降っていない段階、または全く降ってもいない時点で実施する可能性があるため、関係自治体を中心とした関係者との連携、何よりも今後は、二瀬ダムとの連携をさらに密にしていく必要があります。

長瀞岩畳を巡るライン下り

近年、人気のラフティング

日本一早いアユの解禁

河川沿いに設営されたキャンプ場

■地域における情報提供の充実

(WEC)
二瀬ダムとの連携が重要であることがよくわかりました。さらなる連携として取り組んでいることはありますか。

(宮川所長)
前任所長が、2019年(令和元年)9月に二瀬ダムと共同で地元のコミュニティ放送局「ちちぶエフエム」開局に合わせ同局との間で「災害情報の放送に関する協定」を締結しています。ダムからの放流に関する情報などタイムリーに発信し、地域の方々の耳に直接届けようとするものです。同年10月の台風19号の接近による大雨の際にも正確な情報が提供できています。その後は、年に1度、二瀬ダム管理所長と一緒に同局の1時間番組に生出演し、ダムの役割や操作、緊急放流や事前放流の仕組みやいざという時の対処方法を地域の方に聴いて頂いています。

ちちぶエフエムへの生出演
左から二瀬ダム神達管理所長、荒川ダム総管宮川所長、同局パーソナリティ

■地域に開かれたダムと地域振興等

(WEC)
ダムや周辺施設を活用した地域活性化の状況についてご紹介ください。

(宮川所長)
地域活性化の話しの前に地域自治体の人口動態について説明します。2005年(平成17年)4月に秩父市、秩父郡吉田町、荒川村、大滝村と新設合併を行い、新たに秩父市になりました。合併前は、浦山ダムは荒川村と秩父市、滝沢ダムは大滝村に所在していました。

現秩父市の人口は、1999年(平成11年)の約7.4万人から2021年(令和3年)には約6.1万人になり、22年間で約1.4万人減少、各年齢層で右肩下がり、特に生産年齢人口(15歳以上64歳以下)の減少が著しく、多分に漏れず他の水源地域と同様で顕著な人口減少が生じています。また、第一次・二次産業人口が減り、第三次産業人口が増えるという産業構造変化も生じています。

浦山ダムは1995年(平成7年)4月、滝沢ダムは2005年(平成17年)3月に「地域に開かれたダム」に指定され、ダム及び貯水池周辺には様々な施設が整備されています。水資源機構における「地域に開かれたダム」は、指定順に日吉ダム(京都府)、浦山ダム、滝沢ダムです。

浦山ダム及び滝沢ダムは天端幅が広く(順に15.3m、10.0m)、一般者に開放するエレベータにより堤体内の見学を可能にしており、家族連れなど多くの方に来訪頂いています。また、事前申込頂ければ職員による施設案内もしており、特に県内外の学校教育の場としても活用され、毎年多くの児童・生徒が施設を見て学んでいます。(浦山ダムの令和4年度実績:91団体約4,000名、うち学校関係は46団体約3,000名)

特に浦山ダムでは、市街地から眺望のきく都市型ダムとして、旧秩父橋をイメージしてダム頂部にアーチ部を景観設計し、広い天端幅(従来の幅9.3mに上下流それぞれ3.0m張り出し総幅15.3m)を確保しています。2023年(令和5年)8月ある日曜日に「ちちぶ未来プロジェクト」が“映えスポットの創出”を企画した「未来のドア」が1日だけダム天端に出現し約200名の方がプライベート撮影を楽しんでいました。 

浦山ダム天端の意匠設計 (旧秩父橋を模しバルコニーピアを張出構造)

旧秩父橋(コンクリートアーチ橋)は秩父市道として現存

職員による見学者対応状況

突如現れた「未来のドア」が見事に“映えスポット”に!

また、ダム右岸部にある防災資料館「うららぴあ」2階には、ダムをパネルでわかりやすく紹介したコーナー、ジオパーク展示コーナー、ダム博物館「写真館」があり、ダムへの理解を深めることができます。1階にある「さくら湖食堂」では、ダムカレーに留まらず、ダムラーメンもご賞味頂けます。

防災資料館「うららぴあ」

ダム博物館「写真館」

さくら湖食堂の看板メニュー
「浦山ダムカレー」

隠れた看板メニュー
「浦山ダムカラーメン」

ダムカードは、年々配布枚数が増えていましたが、2020年度(令和2年度)にコロナ禍の影響で大きく落ち込み、その後は少しずつ回復しつつあります。

(WEC)
いろいろな取り組みをされているのがわかりました。秩父地域は都内からも電車やマイカーで気軽に日帰りできることが魅力ですね。

(宮川所長)
そうです。また、ダム操作の面で国土交通省の二瀬ダム管理所との連携は言うまでもありませんが、埼玉県が管理する合角ダムも秩父地域にあり、4つのダムが連携・協働し、関係地域と一体となった水源地域の活性化に寄与する取り組みをしています。

その取り組みのひとつとして、2014年度(平成26年度)より小学生とその保護者を対象に、4つのダムをバスで巡りながら、秩父の自然、文化に触れ、水について考える「4ダム探検隊が往く」という、秩父4ダム合同見学会を行っています。今年も7月22日に開催し、37名の参加を頂いたところです。

浦山ダムの監査廊にて

浦山ダムのゲート操作室にて


執務室、浦山ダムで説明中の宮川所長

(WEC)
それでは最後にひと言お願いします。

(宮川所長)
ダム建設に伴い、浦山ダムでは50世帯、滝沢ダムでは112世帯の方々に移転して頂きました。移転者に限らずダム建設事業に御理解、御協力頂いた地域の方々に感謝しながら、地域の安全、安心のため2つのダムを管理して参りたいと思います。

(WEC)
本日はありがとうございました。


■関連リンク

○ 独立行政法人水資源機構 荒川ダム総合管理所
https://www.water.go.jp/kanto/arakawa/index.html