「ダム管理所長に聞く」第41回《大滝ダム》

2023.12掲載 
(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第41回は、紀伊半島を流れる紀の川(吉野川)に建設された大滝ダムと新宮川水系熊野川(十津川)に建設された猿谷ダムを一元的に管理している近畿地方整備局紀の川ダム統合管理事務所の中川所長にお伺いしました。

今回は2つのダムのうち、大滝ダムについてご紹介いただきます。

中川所長、どうぞよろしくお願いします。

では、はじめに大滝ダムの概要についてご紹介下さい。

■大台ケ原を源流とする紀の川に建設された多目的ダム

(中川所長)
大滝ダムのある紀の川は、日本の中でも最多雨地帯として知られる大台ヶ原から始まり、支川を集めながら中央構造線に沿って流れ紀伊水道に注ぐ流域面積1,750km2の一級河川です。

大滝ダムは、河口から約100km上流の奈良県川上村に建設された多目的ダムであり、標高約330mに位置しています。

大滝ダム位置図

■伊勢湾台風を契機に計画された重力式コンクリートダム

台風により増水した紀の川(吉野川)
(昭和34年伊勢湾台風 吉野町上市付近)

(中川所長)
大滝ダムは昭和34年9月の伊勢湾台風による紀の川流域の甚大な被害を契機として事業着手されました。管理開始までの道のりは非常に長く、昭和40年に建設事業着手後23年の歳月を経て昭和63年に本体工事に着手し、平成15年に工事が概成しました。その後試験湛水を開始しましたが地すべり対策が必要となり、竣工は平成25年と運用開始までに約半世紀の年月を要しました。

大滝ダムは、洪水調節の他、水道用水・工業用水、発電、流水の正常な機能の維持を目的として建設された堤高100m、堤頂長315m、総貯水容量8,400万m3の重力式コンクリートダムです。


■「人とダムの身近な関係づくり」をコンセプトにした景観への配慮

委員会で提示された6つのデザイン案

(WEC)
次に大滝ダムの特徴をお話いただけますか?

(中川所長)
大滝ダムの特徴は何と言っても景観への配慮です。

大滝ダムのコンセプトは「人とダムの身近な関係づくり」であり、その実現のため「大滝ダム景観検討委員会」を設け、ダム本体のデザインの検討を進めてきました。委員会では6つのデザイン案を提示し、地元住民と専門家を含む約1,100人を対象にアンケート調査を行い、これにより最高の評価を得た「ダムの上端に連続的なアーチを施したデザイン」が基本となっています。
このようにダムの建設にあたって、地域の幅広い意見を取り入れたのは、全国でも初めての試みです。


◆人工岩盤による修景
また連絡道路の工事では、構造上川側に大きな垂直壁を作らざるを得ませんでしたが、一部分を天然素材に代わり得る人工岩盤による修景を行っています。護岸構造物として充分な耐久性を持つ新素材の開発により、これまでになかった渓谷美を作りだすことができました。

人工岩盤によって作り出された渓谷美

◆カスケード方式の減勢工
小洪水時にダム湖の水位を計画した所定の水位に保つことを目的とした、計画水位維持放流設備からの放流水は、右岸導流壁内の減勢槽から横越流方式で減勢池に放流されるように設計しています。「カスケード」とは小さな滝という意味ですが、まさしく滝が流れているような景観が創出されます。

カスケード方式の減勢(放流)施設

◆日本で初めての油圧式クレストゲート
また大滝ダムは、景観設計の観点から、ダム天端からの構造物の突起をできる限り抑えるように設計しています。 そのためクレストゲートは堤体内のスペースに収めるために、コンパクト化を図る必要があることから、従来の電動モータワイヤロープ式ではなく、日本で初めての油圧式クレストゲートを採用しました。

油圧式クレストゲートによる天端からの突起を抑えた設計

■自然豊かな景勝地

(WEC)
次に地域の見どころなどございましたらお話ください。

(中川所長)
大滝ダム近傍は、吉野熊野国立公園、室生赤目青山国定公園、県立吉野川自然公園に指定されていおり自然豊かな景勝地となっています。ダム近傍には御船みふねの滝蜻蛉せいれいの滝、不動窟鍾乳洞ふどうくつしょうにゅうどうといった自然や神秘を体験できるスポットがあり、多くの観光客が訪れています。

御船の滝
高さは約50mであり、冬の氷瀑が
見どころとなっています。

蜻蛉の滝
とうとうと水しぶきをあげる
名瀑は、高さ50mもあります。

不動窟鍾乳洞
透き通って清冽な水は、不動窟内をこんこんと流れ落ちていきます。

また、たくみむらでは家族でアートを楽しむことができます。吉野杉工房では吉野杉のオーダーメイド家具や雑貨小物を販売しています。他にもオートキャンプ場や温泉もありますので、ぜひお越しください。

■27年間続く「ダム見学新聞コンクール」

(WEC)
ダム見学新聞コンクールという取り組みがあるそうですが、どのような取り組みでしょうか?

(中川所長)
はい。「ダム見学新聞」は大滝ダム・学べる防災ステーションに掲げた体験型展示により、ダムの役割を学ぶとともに、水源地の「川上村」について幅広く学んだことを「ダム見学新聞」としてとりまとめ、「人間と水との深いかかわり」を考えてもらうきっかけとなることを目指して開催しております。ダム見学新聞コンクールは、平成8年度から始まり、令和4年度で27回目の開催となりました。令和4年度は参加学校数28校、1,793作品の応募がありました。

「ダム見学新聞」コンクール表彰式(令和5年3月12日)

■大滝ダム10周年記念アニバーサリー

(WEC)
大滝ダムは今年で10周年とお聞きしましたが、イベント等についてお話いただけますか?

(中川所長)
大滝ダム10周年記念行事は「水源地川上村が生み出すダム・水・未来」をコンセプトとして大滝ダム10周年アニバーサリープロジェクト実行委員会(紀の川ダム統合管理事務所 川上村)の主催により11月19日(日)に開催されました。改めてダムと水源地のこれからを考える契機として、川上村の皆さんと一緒に大滝ダムや川上村の魅力を伝えることとしました。大滝ダム10周年記念行事では、祝辞、パネルディスカッション、水源地の活動紹介、未来を担う地域の児童から手紙が披露され、会場も満席で大盛況の開催となりました。

パネルディスカッション(右端が筆者)

■大滝ダムと黒部ダムのつながり

(中川所長)
当日のメイン会場来場者には、「大滝ダム10周年・黒部ダム60周年 合同周年記念ダムカード」等のプレゼントを配布し、好評となりました。

大滝ダム建設時に黒部ダム建設に使用されたケーブルクレーンを転用し活用したという「つながり」のもと作成することができ、黒部ダムでも、大滝ダムの広報をしていただきました。サテライト会場では、ダムの見学会及びライトアップを開催させていただきました。

大滝ダム10周年・黒部ダム60周年 合同記念ダムカード

ライトアップされた大滝ダム

■湖面巡視体験

また、10月22日(日)、26日(木)の2回、応募の中から抽選で選ばれた8組18名の参加者が、巡視船に乗船して普段は見られない湖面からの川上村の自然の美しさ、間近で見る迫力のあるダム、下から見上げる湖面橋などを見ながら巡視を体験していただきました。またテレビ局から取材があり、夕方のニュースでその様子が放映されました。参加者からは、「貴重な体験をした」「初めて見るところがいっぱい。すごく楽しかった。また行きたい」との御意見をいただき大変好評でした。

 巡視船による湖面巡視状況

■奈良県、和歌山県の皆様の暮らしの安全を願って

パネルディスカッションでの中川所長

(WEC)
最後に一言お願いできますか?

(中川所長)
紀の川ダム統合管理事務所では、最近の降雨状況の変化に伴う水害の激甚化を踏まえ、ダムによる洪水調節機能の早期の強化を図っております。

これにより、大滝ダム、猿谷ダムは、上流域予測降雨量が実施条件に該当する場合は、事前放流を実施します。そのため、降雨のない状況下でも放流を行うことがありますので、関係機関、各沿川自治体には事前連絡を行いますが、十分、ご注意いただきますようお願いいたします。

大滝ダムは今年、運用管理開始から10周年を迎えました。

これを契機に、ダムとダム水源地のこれからを考え、「大滝ダムが果たしてきた役割」や「ダム水源地の魅力」を、未来を担う方々に伝えていく必要があります。このため、関係機関と情報を共有し、地域の方々と一緒に継続的な湖面活用等を図り、持続的な地域振興に繋げていきます。

紀の川ダム統合管理事務所は、今後も引き続き、奈良県、和歌山県の住民の皆様の暮らしと、安全・安心、安定した生活の維持のため、ダムの適切な運用に努めて参ります。

(WEC)
本日はありがとうございました。

■紀の川ダム統合管理事務所HP:https://www.kkr.mlit.go.jp/kinokawa/index.php