「ダム管理所長に聞く」第43回《一庫ダム》

2024.01掲載 
(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第43回は、淀川水系猪名川支川の一庫大路次川(ひとくらおおろじがわ)に建設された一庫ダムを管理する水資源機構一庫ダム管理所の阪元所長にお伺いしました。
阪元所長、どうぞよろしくお願いします。
では、はじめに一庫ダムの概要についてご紹介下さい。

■都市部に近接しつつ自然豊かな都市型ダム

(阪元所長)
一庫ダムは、水資源開発公団(現独立行政法人水資源機構)が一庫大路次川に建設した堤高75m、堤頂長285m、堤体積約44万m3の重力式コンクリートダムで、その役割は、洪水調節、水道用水の供給、流水の正常な機能の維持です。

ダムの管理開始は昭和58年4月で、去年の4月にちょうど40年経過の節目を迎えました。
一庫ダムは、猪名川本川と一庫大路次川との合流点から上流約5kmの地点に位置しています。都市部に近く、周辺には新興住宅地が広がり、すぐ下流には鉄道も走っており、よく都市型ダムと言われますが、山の斜面は緑に深く覆われ、ダム湖のすぐ上流には里山の風情が色濃く残る黒川という地区もあり、自然豊かな環境です。周辺には自生のものも含めてエドヒガン桜が多くみられ、特に春にはお花見のために大勢の方がおみえになります。

位置図

一庫ダムと周辺のエドヒガン桜
右側奥に見えるのは新興住宅地

■猪名川流域の洪水被害の軽減と水不足の解消を目的に建設された多目的ダム

(WEC)
一庫ダムはどのような目的で建設されたのでしょうか?

(阪元所長)
まず、一庫ダムが建設された経緯についてお話します。
猪名川は、淀川から枝分れしている神崎川に流れ込む河川で、淀川水系に属しています。猪名川の下流地域には尼崎市、伊丹市、豊中市、中流地域には川西市、宝塚市、池田市、箕面市があり、この地域は戦後の経済成長と人口急増により、水不足が深刻な問題となっていました。また、猪名川は昭和13年、昭和28年の大出水の時など、川沿いでは氾濫による大きな水害がたびたび発生しました。

昭和28年9月の猪名川沿いでの水害の様子
(「近畿水害写真集(昭和56年,近畿地方整備局監修・社団法人近畿建設協会発行)」から転載)

このため、洪水調節機能により猪名川の河道改修と一体となって氾濫による被害を軽減すること、新たに50万~60万人分の都市用水を生み出すこと、また、併せて不特定利水を確保することを目的に、多目的ダムの建設が計画されました。

この計画をもとに、地元住民の方々や関係機関の方々の深いご理解と32世帯の移転などのご協力をいただき、一庫ダムは16年の歳月と約638億円の建設費を投じて昭和58年度に完成しました。

■水資源開発公団においてブロック柱状工法で建設された最後のダム

(WEC)
ダム建設にあたっての特徴などお話いただけますか?

(阪元所長)
ここでダム建設時のトピックを一つご紹介しますと、一庫ダムは水資源機構において、当時は水資源開発公団でしたが、ブロック柱状工法で建設された最後のダムで、ちょうど建設工事の頃が、重力式コンクリートダムにおける現在主流のコンクリート打設工法である面状工法への過渡期でしたので、建設ヤードを利用した面状工法に関する様々な試験が行われていました。当時は「レヤーべた打ち工法」と称されていたようです。現在の面状工法の一つである拡張レアー工法は、ここ一庫ダムの副減勢工において日本で初めて実構造物へ適用されました。日本のダム技術に関するエポックメーキングな事であるにもかかわらず、このことはほとんど知られていません。お恥ずかしながら、実は私もこちらに赴任して初めて知りました。一庫ダムの一口メモ的なアピールポイントとして、今後、広めていきたいと考えています。

ブロック柱状工法で建設中の一庫ダム

拡張レアー工法の試験施工

■阪神地域約45万人の水道供給源

一庫ダムと水道用水関係施設の位置関係

(WEC)
次に管理面についてご紹介いただけますか?

(阪元所長)
それでは、管理開始後のダム運用のことについてご紹介します。まずは一庫ダムの役割のうち、水道用水の供給、流水の正常な機能の維持の利水補給についてです。

一庫ダムは、兵庫県川西市の北部に位置し、主に下流の阪神地域約45万人の水道用水の供給源となっています。その内訳としては、新規利水は兵庫県水道として尼崎市・西宮市・神戸市・伊丹市・宝塚市・川西市・猪名川町の6 市1 町が受水しており、その他、池田市、川西市、豊能町が、また、既得水道用水として川西市、池田市、伊丹市、豊中市が取水しています。このうち、池田市、川西市、猪名川町は、水源の一庫ダムへの依存率が8割を超えており、ダムに対して特に高い関心をお持ちです。


■きめ細やかな流量監視による渇水リスクへの対応

(阪元所長)
一庫ダムの利水補給で特徴的なのは、ダムの下流約5.5kmにある利水基準点虫生(むしゅう)の流量を職員自ら24時間365日監視し、ダム放流量の調整をきめ細やかに行っている点です。

猪名川沿川には、猪名川を水源とする水道事業者のトップで構成される「猪名川流域水道事業管理者連絡協議会」という組織があります。これは大阪府と兵庫県を跨ぐもので、平成6年の発足以降、情報交換会や研修会などを通じて、顔の見える関係性を保ちながら強く連携されています。一庫ダム管理所とも、頻繁な情報・意見交換などの継続的な交流をしていただいています。

猪名川は渇水リスクが相対的に高く、最近では令和2年から4年連続で取水制限を伴う渇水となっています。このような状況ですので、水道事業者の皆様には渇水期の前段階の自主節水期から一庫ダム貯留水の温存に積極的にご協力いただいており、その効果は非常に高いものとなっています。この自主節水に係る協議調整を速やかに行い、可能な限り早期に節水を開始することを目的として、協議会と一庫ダムとの間で「淀川水系(猪名川渇水調整会議)渇水調整タイムラインに係る自主節水期対応に関する覚書」を令和4年3月に締結しました。県を跨ぐ水道事業者団体と水源ダムでこのような覚書を締結している例は、他にはないのではないかと思います。

自主節水による貯水量温存の効果の例

■河川整備状況に合わせた洪水調節計画の変更

(WEC)
次に治水面に対してはいかがでしょうか?

平成30年の異常洪水時防災操作時の様子

(阪元所長)
一庫ダムのもう一つの役割である洪水調節についてお話します。一庫ダムは洪水期制限水位方式の貯水位運用で、洪水期においては、有効貯水容量3,080万m3の半分を超える1,750万m3を洪水調節容量が占めます。猪名川には一庫ダム以外に洪水調節機能を有する施設はありませんので、猪名川沿川では、一庫ダムの洪水調節に対して大きな役割が期待されています。当初、一庫ダムの洪水調節計画は、100年に1回発生する規模の洪水に対応できるように、最大放流量毎秒650m3まで増量させるものでした。しかし、ダム運用開始直後の昭和58年9月の出水において、洪水調節計画に則ったダム操作を実施したところ、下流で多数の浸水被害が発生しました。その後も複数回浸水被害が生じたため、その時の河川整備の状況を踏まえ、平成12年に中小洪水等に調節効果が発揮できる洪水調節方式として最大毎秒150m3の一定量放流に変更しました。

これによりダム下流の洪水被害を軽減してきましたが、その一方でダムの貯水容量が早く満杯になる危険性も併せ持っており、平成30年7月の西日本豪雨の際に初めて異常洪水時防災操作を行ったこと、ダム下流河川の整備進捗による流下能力も向上したことを踏まえ、令和元年6月に、洪水調節時の放流量を毎秒200m3に増量する変更を行いました。

今後もまだしばらくは下流河道の整備が続くため、一庫ダムでは事前放流や特別防災操作なども含めた適切で、より柔軟な防災操作により、下流地域の治水に対する役割を確実に果たしていくとともに、河川整備の進捗に合わせて治水安全度を上げるための洪水調節計画変更に取り組んでいくことが重要な命題と考えています。


洪水調節計画の変遷

■地元の漁業協同組合と協働した河川環境への取り組み

(WEC)
一庫ダムでは環境保全に積極的に取り組んで来られているとお聞きしましたが、どのような取り組みをされているのでしょうか?

(阪元所長)
一庫ダムでは従前からダム湖や下流河川の環境保全と創出に積極的、継続的に取り組んできました。特に、地元の猪名川漁業協同組合さんとは、ダム湖の外来魚駆除、湖産アユの保全活動のほか、イベントの共催などにより、釣り人や周辺住民の方々への様々な啓発活動を行ってきています。中でも珍しい取り組みとして、川の耕し隊活動があります。これは、湖産アユの産卵場を整備するもので、具体的には、アユの産卵場となりそうなダム貯水池流入部の浅瀬の河床砂礫をクワやツルハシで掘り返し、ふかふかな状態にして隙間を多くすることで、アユが産卵しやすい環境を整えるものです。耕し隊は一庫ダム水源地域ビジョン推進協議会における活動の一つでして、協議会の構成組織の方々や一般募集の方々と一緒に、漁業協同組合さんによるアユに関する勉強会に合わせて行っており、環境保全活動を広く啓発する場にもなっています。

もう一つとして、猪名川漁業協同組合さんが加盟する猪名川水系漁業協同組合連合会さんとの「フィッシングショーOSAKA」への共同出展があります。このショーは大阪市内で毎年開催される釣り具の見本市で、3日間で延べ約5万人が訪れる大規模イベントです。この会場での出展は、ダム湖や周辺河川に生息する生物の水槽展示や、説明パネルなどでの活動紹介を通じて、一庫ダムと漁業協同組合の協働での河川環境の復元や創出の取り組みをより多くの方に知っていただく絶好の機会となっています。来訪者のほとんどを占める釣りの愛好家の方々は、ダムと漁業協同組合が協働して河川環境について取り組んでいるという点に何より驚かれます。

貯水池での定置網による外来魚駆除

川の耕し隊活動

フィッシングショーOSAKAでの
活動紹介

■大阪都市圏から近く見どころ満載の一庫ダムにぜひお越しください

一庫ダム管理所 阪元所長

(WEC)
最後に一言お願いします。

(阪元所長)
一庫ダムは、その名に「一」を冠するだけあって、これまで諸先輩方が「まず一庫で」との意気込みで、新しいことに率先して取り組んできたダムです。それはダム建設時の拡張レアー工法への先駆的取り組みから受け継がれてきたスピリットなのかも知れないと、個人的には想像しています。我々職員は、全員が一丸となってそのような熱い想いを受け継ぎ、また、将来に引き継いでいくという心構えを持ち続けるようにしたいと思っています。

今後も、一庫ダムの取り組みにぜひご注目ください。
一庫ダムは大阪都市圏から近く、交通網もよく整備されているため、車ならば新大阪駅から約1時間、大阪空港から約40分の「訪れやすいダム」です。周辺には源氏発祥の地とされる多田神社をはじめ、多くの見所もあります。一庫ダムの総貯水容量は3,330万3で、3のゾロ目の「願いが叶うエンジェルナンバー」だそうですので、訪ねていただけると、きっと御利益もあると思います。関西方面にお越しの際には、ぜひ一庫ダムにお立ち寄りください。


多田神社本殿

清和源氏まつりの様子

(WEC)
本日はありがとうございました。

■関連リンク

○ 独立行政法人水資源機構 一庫ダム管理所
https://www.water.go.jp/kansai/hitokura/