国際大ダム会議 第26回大会及び第86回年次例会(ウィーン)への参加

2018.08掲載
一般財団法人 水源地環境センター
研究第二部・調査部

1.国際大ダム会議(ICOLD)とは

 国際大ダム会議(International Commission on Large Dams)は1928年に設立された歴史と伝統のある国際会議であり、ダム関係土木構造物(付帯する水力発電所を含む)の設計、施工、保守および運用に関する技術について各種委員会を設置し、調査研究を行っています。

 最近ではダム建設に伴う環境問題にも積極的に取り組んでいます。ICOLDの加盟国は2018年現在100ヶ国です。本部は設立以来フランスのパリに置かれており、毎年加盟国のいずれかの都市で年次例会(Annual Meeting)を開催し、3年に一度、年次例会にあわせて同じ会場で大会(Congress)を開催しています。

2.年次例会と大会について

 年次例会は、ダム技術その他のダム関連情報の交換を促進し、会員国相互のダム技術の進歩発展と友好促進を図ることを目的に、26の技術委員会やシンポジウム、ワークショップを開催するものです。また、大会は、世界の共通的な重要課題を論文テーマとして世界各国から論文を募集して討議するものです。

 今回は2018年7月1日~3日の3日間にわたり第86回年次例会が、引き続き4日~6日の3日間にわたり第26回大会が、オーストリアのウィーンで開催されました。

 約80ヶ国から約1,500名が参加し、日本からは過去最多の96名が参加しました。
 会場となったオーストリア・センター・ウィーンは首都中心部から約5km離れたドナウ川沿いにあり、ウィーンの国連事務所に隣接しています。

3.展示会について

 7月2日~6日まで会場に展示ブースが設けられ多くの企業、団体がそれぞれの技術をPRしました。 日本大ダム会議(JCOLD)では日本における土砂管理技術やCSGダム、ダムの高度化技術の紹介を中心に展示し、多くの来場者がありました。

▲ JCOLD展示ブース

4.第86回年次例会について

(1)技術委員会

1)環境委員会

 (一財)水源地環境センター(以下WECという)の北村理事が日本委員を務める技術委員会の一つである環境委員会は、7月1日にメンバー16名中9名の他、オブザーバー4名が出席して行われました。
 環境委員会では、「ダムと環境の融合」に関するケーススタディの取りまとめについて、具体的な内容と工程を決定しました。また、日本が主体となって実施した水質モデルの評価について、検討結果の概要を説明しました。

▲ 環境委員会

2)広報・教育委員会

 WEC の森北理事長が日本委員を務める広報・教育委員会は、7月1日に13名(オブザーバーを含む)が出席して行われました。本委員会では、広報・教育に関する検討課題や行動計画について議論されました。
 日本国内におけるダムの広報活動については、ダムカードやダムに関する書籍の出版などを紹介しました。

▲ 広報・教育委員会

3)アジア・パシフィック・グループ(APG)会合

 7月1日の各技術委員会の終了後に、中国、インド、インドネシア、イラン、韓国、日本、スリランカ、オーストラリア、ニュージーランドの9カ国が参加して、APG会合が行われ、各国のこの1年間の取り組みが報告されました。
 日本からは、ダムの高度化技術や八ッ場ダムの建設現場の見学ツアーについて紹介しました。

▲ APG会合

(2)国際シンポジウムについて

 7月2~3日に開催された国際シンポジウムは、下記の5テーマについて3会場で論文発表とポスターセッションが行われました。日本からは論文を3編提出し、口頭2編、ポスター1編が発表されました。

▼ 国際シンポジウムテーマ ▼ 国際シンポジウム

5.第26回大会について

(1)論文発表

 7月4~6日に開催された大会では、下記の4つの課題について、日本からは論文18編、自由報文2編を提出し、口頭13編およびポスター1編が発表されました。
 課題No.100「堆砂対策と持続可能な開発」では、京都大学の角哲也教授がゼネラルレポーターをつとめ、この課題に対して提出された論文の全体概要ととりまとめについて発表されました。
 その発表の中で、ダム貯水池土砂管理は①貯砂ダム等による流入土砂量の減少、②バイパストンネル等による土砂の迂回、③掘削等による土砂の移動、④ダム嵩上げ等の対応策の大きく4つに分類できることが紹介されました。

▼ 大会課題テーマ ▼ 大会課題No.100の発表

(2)ポスターセッション

 WEC関係では研究第二部と株式会社建設技術研究所、京都大学防災研究所との共著で提出した論文「排砂バイパストンネルの事例分析(スイス、台湾、日本)」のポスターを掲示して説明を行いました。
 大会課題No.100の「堆砂対策と持続可能な開発」についての内容でもあり、興味を持たれた海外の方からの質問がありました。


▲ WEC発表ポスター

▲ ポスターセッション会場

6.テクニカルツアー

 7月3日にテクニカルツアーが開催されました。
 バスに分乗して、大会会場から約10kmドナウ川を下った箇所にあるフロイデナウ水力発電所に向かいました。現地では、小団体ごとにガイドがつき、発電所の全体構造や内部施設について説明を受けました。
 設備は、全長275mの堰が3つのエリアに区分けされ、船を上下流に通船させるための閘門こうもん(全景写真の左)、と水力発電所(全景写真中央)、洪水調節ゲート(全景写真右側)から、構成されています。
 フロイデナウ水力発電所は、水路式流れ込み型の発電所で堰の上下流の水位差8.7mを利用して6機のカプラン式水車により、最大300m3/sの水量で172,000kWの電力を生み出します。
 洪水調節ゲートは4基で約2,000 m3/s の洪水処理能力があり、水車による流下量と合わせて堰全体では約5,000 m3/s の流下能力があるとのことです。その規模の大きさにとても驚かされました。
 また、河川水をせき止める堰の直下流に水車や発電機などの発電設備が設置してありました。堰の直下流に水車を設置することで、水路長が短くなり、水路のエネルギー損失を小さく出来るので、とても合理的な設計であると感じました。


▲ フロイデナウ発電所の概要

▲ 左岸上流から見た発電所


▲ 発電所の水車

7.来年の第87回年次例会

 第86年次例会総会において、第87回年次例会がカナダのオタワで2019年6月9日~14日の日程で開催されることが発表されました。
 「持続可能でかつ安全なダム技術」をテーマにシンポジウムやワークショップが行われる予定です。