一般財団法人 水源地環境センター
企画部長 井山 聡
北上川水系に建設された5大ダムの1つである湯田ダム(岩手県西和賀町、和賀川)で、10月21、23、25、28、30日、11月1日に全国的にも珍しい秋のライトアップナイト放流が初めて行われました。例年であれば、この時期は夏の洪水期が終わり、多くの多目的ダムでは洪水調節のために低下させていた貯水位を、利水のために次第に上昇させる時期にあたります。湯田ダムの利水目的の1つは発電ですが、下流に位置する発電所への導水管が10年に1度のメンテナンスの年を迎え、導水が止まっていることから、満水近くになった貯水位の調整のため、ダム本体から直接下流へまとまった水量を放流できる状態になったのです。
ダム管理者の国土交通省北上川ダム統合管理事務所では、水源地域の活性化の観点から、 この好機を積極的に活用して、湯田温泉峡旅館組合と連携して点検を兼ねたオータム放流を企画しました。各日とも点検放流が13時から18時まで行われ、このうち16時半から18時までは、ダムの堤体最頂部にある非常用洪水吐き(クレストゲート)から、水が流れ落ちるダムの直下付近をLEDでライトアップして行われました。暗闇の中で放流された水の白いしぶきが、少しずつ変化する柔らかな色に包まれて、重力式アーチダムは幻想的な姿を現します。
ダムサイト付近は狭く、車での来訪者が殺到すると駐車する場所が十分ではないうえ、国道107号からの進入路も見通しが良くないため、見学者は上流約1kmにある「道の駅錦秋湖」の臨時駐車場に車を置いて、そこから無料のシャトルバスに乗り換えてダムへ向かいました。開催はいずれも平日であったことから、ピーク時にシャトルバスの乗車で待ち時間が発生した模様ですが、ダムサイト付近の混雑はそれほどでもなく、見学者は思い思いの場所に陣取り、10年に1度の幻想的な風景を堪能していました。ダムの直下右岸側には特別ステージが設けられ、昼間の14時からと夕方の16時半からに分けて、同旅館組合の9旅館が用意した宿泊者見学プランに申し込んだ各回先着20名が利用できるようにしました。見学プラン参加者はヘルメットを借りてダム堤体頂部から管理用のエレベーターに乗り、監査廊を経て特別ステージを行き来していました。この見学プラン参加者には、参加証明書として特製のダムカードが配布されました。
10月下旬の北東北の山間部は紅葉の盛りを迎えつつあり、貯水池の名前のとおり錦秋となり始めていました。満水近くの錦秋湖の上流では、地元の市民団体がカヌーに乗って紅葉を愛でるイベントを行っていました。
湯田ダムは完成から55年の月日を経て、地域の治水・利水上なくてはならないダムですが、地元とダム管理者が緊密に連携して、ダムを観光や自然体験のための資源として積極的に活かし、地域活性化につなげようとしています。