(聞き手:水源地環境センター 企画部 板橋 )
(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第8回は、相模川水系広域ダム管理事務所の吉川所長に、宮ヶ瀬ダムのお話をお聞きしました。
吉川所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに宮ヶ瀬ダムのご紹介をお願いします。
(吉川所長)
宮ヶ瀬ダムは、富士山を水源とした相模川の右支川中津川(神奈川県の北西部)に平成13年に完成した、高さ156m、総貯水容量19,300万m3の重力式コンクリートダムです。
本ダムは、洪水調節による下流域の被害軽減、横浜市や川崎市など神奈川県内の水道用水等の確保及びダム本体と副ダムに設置された愛川第1PS、第2PSによる水力発電を行っています。
特に、水利用に関しては、県の相模ダム・城山ダムと連携を図るため道志導水路と津久井導水路を建設して、効率的な水運用(総合運用)を実施しています。
宮ヶ瀬ダムの位置
ダム本体施工時の河床道路
(WEC)
建設時にいろいろ工夫をされているようですが、ご紹介いただけますか。
(吉川所長)
宮ヶ瀬ダムの建設にあたっては、仮排水トンネルによる切り回しと河床を工事用道路として利用することで周辺の山肌の掘削をしないことや、原石山法面の自然再生への復帰を目指して在来樹種によるポット苗を密植する緑化工法を実施するなど、周辺地域の豊かな自然環境の保全に努めました。
また、大規模なダム建設を合理的に進めるためにRCD工法による設計・施工、ダンプ直送型インクラインの開発などにより、コストと工期の縮減を実現しました。
更に、本体着工以前から地域活性化の取り組みとしてイベントを開催しました。
RCDコンクリート打設状況
原石山法面の緑化状況(現在)
(WEC)
昨年10月の台風19号は、各地で猛威をふるいましたが、宮ヶ瀬ダムも過去最大の出水だったとお聞きしました。その効果はどれほどだったのでしょうか。
(吉川所長)
宮ヶ瀬ダムは、洪水調節容量4,500万m3により、計画高水流量1,700m3/sのうち、1,600m3/sの洪水調節を行うよう計画されていますが、令和元年10月の台風19号では、ダム上流域の流域平均雨量が累計786mmを記録し、最大流入量は1,880m3/sに達し、いずれも過去最大を記録するとともに計画高水流量を超えた出水となりました。
この出水に対して、流入量が増大する約18時間前から事前放流を開始し、洪水調節容量に加え約500万m3の洪水調節のための容量を確保しました。 幸いにして、降雨の継続が長引かなかったため、約4,270万m3の洪水貯留となりましたが、下流河川の才戸橋(厚木市三田付近)では、中津川の水位を約211cm低減させる効果があったものと考えられます。
降雨状況および洪水調節図
ダムの効果(才戸橋地点)
<下流河川の状況>
平常時
出水時(令和元年10月12日)
(WEC)
宮ヶ瀬ダムでは、さまざまなイベントが開催されているとお聞きしていますが、どのようなものかご紹介をお願いします。
(吉川所長)
ダム建設当時から周辺地域の活性化に取り組んできましたが、それらを継承した取り組みや施工で利用したインクラインを活用するなど、周辺自治体等により平成4年度に設立された宮ヶ瀬ダム周辺振興財団とも協力して、地域の振興・活性化に取り組んでいます。
なお、宮ヶ瀬ダム周辺振興財団は、平成29年11月に観光庁の「日本版DMO法人」の第1弾として登録されています。
ダム周辺観光拠点
インクライン
ロードトレイン
遊覧船
グラススライダー
水の郷大つり橋
ドウダンツツジ
天然モミの木のジャンボツリー |
メイン階段 |
大つり橋にかかった |
定期観光放流
ナイト放流(愛川町主催)
監査廊内の日本酒貯蔵状況
水とエネルギー館でのレクチャー
水とエネルギー館の来訪者
(WEC)
結びに一言お願いします。
吉川所長
(吉川所長)
今年度は、コロナ禍の関係で周辺自治体のイベントも軒並み中止となっており、ダムサイト周辺も7月半ばまで閉鎖し、観光放流も実施できていません。
しかし、ダムサイト周辺の解除に伴って、訪れる方々が増えつつあり、一日でも早くコロナ禍が収束し、これまでの賑わいが戻れることを願っています。
また、当ダムは、管理開始から20年が経過し、施設の老朽化も始まりつつあります。ここ数年、大規模な出水被害が頻発しているなか、適切な洪水対応を実施する上でも施設の維持補修を計画的に実施するとともに、事前放流などの対策もしっかり実施して参ります。
洪水演習の様子(令和2年度)