水源地環境センター業務執行理事
安田 吾郎
ICOLDとは、国際大ダム会議(International Commission on Large Dams)の略称です。世界のダム関係者が集った会議で、3年に1度開催される大会と、大会開催年以外の年に開催される年次例会が、千人以上の関係者が集う主要な技術交流の場になります。その年次例会や大会の中での中心的行事が、国際シンポジウムと呼ばれる論文発表を主体とした場です。
2020年のICOLD年次例会は、当初はインドのニューデリーで4月に開催される予定でした。しかし、新型コロナウィルスの影響を受けて2度にわたって会期が順延。それでも開催の目途は立たず、結局、ニューデリーの会場とオンラインを併用したハイブリッド形式で2021年2月24~27日に開催されることとなりました。
シンポジウムは2月24~27日の会期で行われました。そのウェブサイトに入ってみると、実際に大規模なコンベンションセンターに来たような雰囲気です。
バーチャル・コンベンションセンター入口
バーチャル・コンベンション・ホール内の模様
HALL-1、HALL-2といった個別の会議室のほか、展示室(Exhibition)、談話室(Networking Lounge)への入口もあります。いずれかの入口をクリックすると、そこに入場するウォークスルー動画が始まります。談話室に入ると、自分も含めて多くのアバターがいます。アバターには氏名も表示され、気になる相手がいれば声をかけるとチャットが行えるようになっています。世界を結んだオンライン商談もできるわけです。
談話室内のチャットボード画面
インドはIT大国として有名ですが、その面目躍如といった感じがしました。もっとも、この仕掛けは今回のシンポジウム専用のものではなく、WEBコンファレンス用のツールを開発した会社が提供するプログラムがあって、それを今回のシンポジウム用にカスタマイズしたもののようです。
国際シンポジウムの動画はシンポジウム参加者にはリアルタイムで配信されたほか、YouTube上で(少なくとも2021年3月24日現在は)公開されています。以下は、YouTubeサイトへのリンクを付けたセッション等の一覧です。
世界で現在最もホットなテーマはダム安全(Dam Safety)。近年、ブラジル、ラオス等で人命損失を伴うダムの決壊が発生しています。今回のシンポジウムでもダム安全に関わる発表が多かった印象です。
そのほか、気候変動対応、ダム再生、リスク管理、ダムの長寿命化に関わる発表が目に付きました。
水源地環境センターも、ダム等管理フォローアップシステムに関する発表を行いました。発表者は、昨年6月までセンターに所属していた最上 友香子さん(現所属:西日本技術開発株式会社)。本当なら昨年4月にニューデリーの現地で発表する予定だったのですが、この日は水源地環境センターの会議室からの発表となりました。
水源地環境センターでのオンライン発表風景
今回のハイブリッド形式でのシンポジウムは、十分な事前の用意が無いまま開かれたため、画像や音声がつながらなかったり、画面上での資料共有ができなかったり、プレゼンターが現れなかったりと様々なハプニングがありました。緻密に積み上げる日本人のスタンダードとは違って、何でもありの国際スタンダードとしては、これが普通なのかと思いました。
一方、今回のシンポジウムは、世界中の人が会議に参加できる可能性を広げました。会議終了後のYouTube映像の公開も良いアウトリーチ拡大の取り組みだと思います。
もちろん、異国の見知らぬ人同士の情報交流にはフェース・ツー・フェースでのコミュニケーションが一番なのですが、遠距離のフライトを経て会場に集まれる人は限られています。今回ホスト役を務めたインド大ダム会議のように、凝った仕掛けのバーチャル会議場をどの国でも用意できるかどうかはわかりませんが、ポスト・コロナの時代においても、ハイブリッド形式の会議は着実に定着していくことでしょう。