(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)
(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第15回は、本年4月に設立されたばかりの木曽川水系ダム統合管理事務所の渡邊所長にお話しをお聞きしました。
渡邊所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに事務所のご紹介をお願いします。
(渡邊所長)
木曽川水系ダム統合管理事務所は、令和3年(2021年)4月1日に中部地方整備局37番目の事務所として設立されました。当事務所では、直轄の丸山ダム、横山ダムの管理のほか、水資源機構が管理する多目的ダムである岩屋ダム、阿木川ダム、味噌川ダム、徳山ダムを合わせた6つのダムにおいて、洪水調節や利水補給等をより効果的に行う「ダムの統合管理」を実施しています。
また、木曽川水系治水協定に基づく、利水ダム等の事前放流については、関係機関への情報提供や調整等を行って運用しております。
木曽川水系と統合管理ダム
(WEC)
昨年度までのダムの統合管理はどのように行われていましたか?
(渡邊所長)
昨年度までは、木曽川上流河川事務所が行っていました。それを引き継ぐ形で当事務所がダムの統合管理を担当しています。
(WEC)
統合管理とは具体的にはどのような管理をしていますか?
(渡邊所長)
洪水調節、流水の正常な機能の維持並びに広域的な管理を必要とするかんがい用水、水道用水及び工業用水の供給を発電への利用と併せて効果的に行うため、対象ダムの操作に関し、当事務所が一元的に管理しています。例えば洪水時の操作は、通常は各ダムが操作規則などに基づいて操作を行いますが、ダム下流で氾濫のおそれ、もしくは氾濫している場合には、ダム貯水量にまだ余裕があれば特別防災操作といって規定の放流量以下に放流量を減少するなどの操作を行う場合があります。その際は、水系全体を見ている当事務所からの指示で行うこととなります。
ダムの統合管理イメージ
今年5月末の出水では、地元自治体より要請を受けた長野県からの要請により、当事務所から味噌川ダムに特別防災操作を指示し、通常50m3/sの放流量を約6m3/sまで減じ、ダム下流地点で約0.4mの水位低下効果を発現しています。また、8月の出水においても特別防災操作を実施しています。
令和3年5月出水における味噌川ダムの特別防災操作とその効果
利水面においては、渇水が深刻になると予想されるときには、関係利水者合意のもと、岩屋ダム、阿木川ダム、味噌川ダムの利水容量を最大限活用する統合運用を行い、深刻な渇水被害の軽減に努めます。
(WEC)
直轄で管理している丸山ダムの特徴を教えてください。
(渡邊所長)
丸山ダムは、洪水調節と発電を目的とした、堤高98.2m、堤頂長260.0mの重力式コンクリートダムで、昭和31年(1956年)に完成し、管理を始めてから65年が経過しています。洪水調節はダムへの計画高水流量6,600m3/sのうち、1,800m3/sを調節し、最大放流量を4,800m3/sにして、洪水時の木曽川の水位低下を図っています。
発電については、関西電力さんにより、丸山発電所で最大125,000kw、新丸山発電所で最大63,000kwの発電を行い、年間約26万世帯分の消費電力を賄っています。
丸山ダム洪水調節図
(WEC)
丸山ダムでは、現在新丸山ダム建設事業が進められていますね。事業の概要説明をお願いします。
(渡邊所長)
新丸山ダム建設事業は、丸山ダム下流47.5mにおいて20.2m嵩上げすることにより洪水調節能力などを高め、洪水氾濫の防止・軽減などを図る事業です。工事については新丸山ダム工事事務所が担当します。
洪水調節については、洪水調節容量を2,017万m3から7,200万m3に増加することで、洪水調節機能を強化します。発電については新たに22,500kwの増電を可能とし、既存とあわせて210,500kwの発電を行います。また、新たに流水の正常な機能の維持のため、1,500万m3の容量を確保します。工期は令和11年度(2029年度)を予定しており、今年度より本体着工を予定しています。
新・旧丸山ダムの比較
既設丸山ダム容量配分図 新丸山ダム容量配分図
新丸山ダム完成イメージ
丸山ダムは今年8月の洪水で防災操作を行い、下流の岐阜県加茂郡八百津町八百津地点で約0.6m、愛知県犬山市犬山地点で約0.2mの水位低下効果が発現されました。新丸山ダムが完成すれば、両地点においてさらに約0.1mの水位低下効果があったものと試算しています。
なお、今回の洪水は平成11年以降およそ22年ぶりで、管理開始以降4番目に多い水量でした。
令和3年8月洪水における水位低下効果
(WEC)
工事を進めながらの管理となりますね。技術的にはかなり難しいのではないでしょうか。
(渡邊所長)
丸山ダムは、木曽川本川の洪水調節をするうえで重要な役割を担っているとともに、大規模な発電を行っているため、工事期間中もその働きを持続しなければいけません。その機能を維持しつつ、ダムを下流側にやや移動して大規模な嵩上げ工事をすることは、国内では前例がなく、設計や施工方法など技術的に先駆的なダムと言えます。そのため国土交通省 新丸山ダム工事事務所や関西電力さんと調整しながら管理を行っていきます。
また、昨年度までは関西電力さんとの共同管理ダムであり、流入量2,500m3/sまでは関西電力さんの操作、それ以上は国交省が操作を行っていましたが、今年度より特定多目的ダムとなりゲート操作はすべて国交省で行うこととなりました。国交省が行う操作頻度、操作日数は格段に増えますが、必要な操作なのでしっかり対応していきます。
新丸山ダムの工事状況:今年度より本体工事に着手する。
(WEC)
丸山ダムの見所などを教えてください。
(渡邊所長)
丸山ダムは、天端に並ぶ5門のローラーゲート支柱が特徴的で、某テレビで「イケメンダム第1位」として紹介されたこともあります。ゲートからの放流頻度が比較的多く、放流している状況に遭遇できるかもしれません。目安として流入量が300~400m3/sを超えていればゲートからの放流を行っている場合が多いです。ホームページでダムの放流量やダムの映像を公開していますのでチェックしてみて下さい。
→https://www.cbr.mlit.go.jp/kisodamu/index.php
(WEC)
次に横山ダムの特徴を教えてください。
(渡邊所長)
横山ダムは、洪水調節と発電を目的とした、堤高80.2m、堤頂長220.0mのダムで、昭和39年(1964年)に完成し、管理を始めてから57年が経過しています。
これまでに、湖内に貯まった土砂を掘削してダム機能の回復を図り、さらに洪水調節のための容量を増加させる「再開発事業」を展開し、パワーアップしました。
当初はかんがい用水の目的がありましたが、平成20年度の徳山ダム完成に伴い、かんがい容量を徳山ダムに振り替え、横山ダムの洪水調節容量を増量するとともに、横山ダムから約10km上流にある徳山ダムとの本格的な連携運用をスタートさせ、治水・利水機能をさらに強化しています。
発電については、中部電力さんにより最大70,000kwの発電を行い、年間約3万世帯分の消費電力を賄っています。
横山ダムと徳山ダムの連携操作による治水効果
横山ダムと徳山ダムの容量変更
(WEC)
横山ダムの見どころはどんなところでしょうか?
(渡邊所長)
横山ダムは、ダム内部に空洞を持つ全国でも13基しかない「中空重力式コンクリートダム」です。この工法は、内部に空洞を造ることでコンクリートなどの材料を節約することができるため、資材等が逼迫していた時期に採用されています。ダム空洞部分は見学可能となっており、また、地下秘密基地の雰囲気に合うということで、映画のロケ撮影にも使われました。
横山ダム容量配分図
ダム内空洞部
空洞部ではコンサートも開かれます。
(WEC)
冒頭でご紹介のありました、利水ダムの事前放流の取り組み状況を教えてください。
(渡邊所長)
木曽川水系では令和2年度に35の機関、45ダムで木曽川水系治水協定を締結し、運用を開始しています。気象庁から大雨に関する気象情報が出され、基準降雨量を超えそうな場合は事前放流を実施する態勢に入っていただく旨の連絡をし、ダムごとの予測雨量が基準降雨量を超えた場合に、必要に応じて事前放流を実施していただくこととなります。実際に事前放流を行っていただく場合もありますし、その時点でダムの運用等により必要な空容量が確保されている場合は、その水位を維持していただく場合などもあります。
令和2年7月の洪水において、木曽川では水資源機構の牧尾ダム、関西電力さんの三浦ダムなど8つの利水ダムで事前放流等の操作を行い、利水ダムの4,200万m3の容量を一時的に確保し、下流地点でピーク流量を2割ほど減らす効果があったと推定されています。また、令和3年8月の洪水においても事前放流の効果があったものと推定されています。 事前放流して貯水位が回復しない場合の対応や、ダムが連続する場合の事前放流のあり方など、運用に伴い課題なども出てくると思いますが、関係機関と連携・調整して進めていきたいと考えています。
木曽川水系の治水協定の概要
令和2年7月出水における事前放流の効果
(WEC)
最後に一言お願いします。
初代木曽川水系ダム統合管理事務所長の渡邊さん
(渡邊所長)
ダムの管理は重要な職務であり、特に近年全国のダムで発生している異常洪水時防災操作については、その時点において迅速な判断が求められます。事前の準備も含め、しっかり対応していきたいと考えています。
また、ダムの事前放流について、課題などあれば当事務所で調整を行っていきたいと考えています。ダム管理者の皆様におかれましては、この場を借りてあらためてご協力をお願い申し上げます。
最後になりますが、丸山ダムにおきましては今年度から新丸山ダムの本体工事が始まりますので、展望台や下流からの眺めは工事の進捗とともに変わってきます。移りゆく状況を定期的に観察してはいかがでしょうか。また、近隣には美しい景観の蘇水峡や東洋のシンドラーと呼ばれる杉原千畝の功績を紹介する杉原千畝記念館などの名所もあります。
横山ダムにおきましては10キロほど上流には浜名湖の2倍、日本一の総貯水量を誇る徳山ダムが鎮座しております。春には日本三大桜の淡墨桜、秋には揖斐峡の美しい紅葉など観光的にも魅力的な地域になっております。
両ダムとも現在はコロナ禍でダム見学は休止していますが、再開しましたら周辺観光と併せて是非見学にお越しください。
(WEC)
本日はありがとうございました。