国土交通省 東北地方整備局
成瀬ダム工事事務所長 花篭 利行
特別豪雪地帯に建設中の成瀬ダム(秋田県雄勝郡東成瀬村)は、積雪に伴いメインの堤体打設が年間約5ヶ月休工になります。事業効果の早期発現には品質確保を前提に施工の効率化・合理化が欠かせないことから、成瀬ダムではさまざまな最先端技術を活用し施工を進めています。
成瀬ダムでは、日本で開発された新しい型式の「台形CSGダム」を採用しています。
CSG※1は現地で調達した砂レキに水とセメントを混合した材料を用います。このダム型式は、堤体形状を台形にすることで発生する応力を低減させる「設計の合理化」、必要な強度が低いため手近で得られる材料の有効利用を可能とする「材料の合理化」、ブルドーザや振動ローラなどの汎用機械を用いて急速施工を行う「施工の合理化」の3つの合理化が図られます。
※1:Cemented Sand and Gravel の略
成瀬ダム標準横断図(台形CSGダム)
1)CSG打設
CSG打設では、ダンプトラックによるCSG運搬、ブルドーザによる敷均し、振動ローラによる締固め、章動ローラによる仕上げ作業を繰り返し行います。
成瀬ダム堤体打設工事では、次世代建設生産システム「A4CSELⓇ※2」を導入し、熟練オペの操作分析を基にプログラミングされたブルドーザや振動ローラ、ダンプトラックなどの自律型自動建設機械(無人)による自動化施工を実施しています。今後、打設ピーク時には20数台もの建設機械が同時稼働する予定です。
※2:A4CSELⓇ(クワッドアクセル:Automated/Autonomous/Advanced/Accelerated Construction system for Safety, Efficiency, and Liability)鹿島建設によって開発された建設機械の自動化技術による次世代建設
生産システム
自律型自動建設機械による打設状況_2021.7月(鹿島建設提供)
※写真中赤丸が自律型自動建設機械
2)置き型枠自動スライドリフター
台形CSGダムでは、外気や紫外線、凍結融解など厳しい環境への抵抗性を高めるため上下流面に保護コンクリート(有スランプ)を施工しますが、CSG打設は急速施工が特徴であるため、保護コンクリートの打設にあたっては、CSG打設サイクルへ影響を与えないように型枠の設置・撤去作業を素早く効率的に行う必要があります。
成瀬ダムでは、鋼板とH型鋼を組み合わせた置き型枠の脱型・設置作業を「置き型枠自動スライドリフター」により全て自動化することで、打設面へのクレーン配置が不要となるほか、型枠作業にかかる省人化や時間短縮を図っています。
置き型枠自動スライドリフターステップ図・設置状況(鹿島建設提供)
1)原石山の3Dモデル化
成瀬ダムでは、ダムサイト周辺から採取した「段丘堆積物」と原石山から採取する「原石山材」をCSGの母材としており、原石山材については破砕しそれぞれ最大粒径80㎜以下に調整した材料をブレンドし使用しています。
このうち「段丘堆積物」はダム基礎掘削時等に採取したものを用いますが、「原石山材」についてはCSG打設の施工進捗にあわせ、発破掘削及び材料の選定作業を日々行うため、原石山の掘削管理は大変重要です。
成瀬ダム原石山採取工事では、UAV測量結果から出来形を3Dモデル化し、土量の自動計算を行う「3D SiteScan」を導入しています。
原石山3Dモデルによる進捗の見える化や、掘削土量の自動計算により、進捗管理の効率化を図っています。
原石山3Dモデル
成瀬ダム工事事務所では、工事現場が一望できる展望台を国道342号沿いに整備しているほか、個人や団体を対象とした現場見学の受入や、SNSによる情報発信、ウェブサイト上でのバーチャル見学会などの広報活動に取り組んでいます。
また、地域振興として、東成瀬村主催イベントとタイアップした特別見学会や、村内宿泊施設と連携した夜の現場見学会などにも取り組んでいます。
建設段階のダム建設現場は、様々な工事が大規模に行われ、ふだん見ることが出来ない大型建設機械が稼働するなど、現場が日々ダイナミックに変化し「今だけ」の特別感が味わえる特徴がありますので、みなさんも是非ダム見学にお越し下さい。
見学の詳細については、下記の成瀬ダム工事事務所ウェブサイトをご覧下さい。
http://www.thr.mlit.go.jp/narusedam/index.html
村内宿泊施設と連携した現場見学会(写真は2020年:夜の現場見学会)
成瀬ダム完成予想パース
堤体を下流から望む(2021.10.29撮影)