(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)
(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第19回は、中部地方整備局から天竜川ダム統合管理事務所の小野所長にお話しをお聞きしました。
小野所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに事務所のご紹介をお願いします。
(小野所長)
天竜川ダム統合管理事務所は、天竜川の最大支川三峰川に位置する美和ダム、及び小渋川に位置する小渋ダムの2つのダムを管理し、伊那谷※1を洪水から守るとともにかんがい用水、発電用水の供給を行っています。
両支川は、南アルプス仙丈ヶ岳(三峰川)赤石岳(小渋川)が源で、標高差約2000mに及ぶ急流河川であり、流域は南北に走る中央構造線に代表される複雑かつ脆弱な地形構造であることから、大雨により大量の土砂が流出します。このため、両ダムでは貯水池の堆砂が課題であり、洪水調節をはじめとするダムの機能を保全するための堆砂対策を行っています。
2つのダムは天竜川上流域の安全のために欠かせないダムであり、地元の期待が高いことを実感しています。
また、美和ダムは三峰川水系県立自然公園の一部、小渋ダムは天竜小渋水系県立公園の一部として来訪者・湖面利用者が多く、地域に親しまれているダムです。
※1:伊那谷とは長野県南部の天竜川に沿って伸びる盆地のことで、伊那盆地や伊那平とも呼ばれます。
(WEC)
さて、近年は気候変動の影響を受けて全国各地で甚大な洪水被害が発生していますが、長野県南部ではどのような状況でしょうか?
(小野所長)
伊那谷では過去に三六災害と呼ばれる昭和36年の豪雨災害をはじめ、昭和57年、昭和58年などに大規模な出水がありましたが、それに匹敵するくらいの出水が近年頻発しています。令和に入りましても、令和元年の台風19号、令和2年7月の長期にわたる出水、令和3年5月の非出水期での出水と大きな出水が相次いで発生しています。
非常に強い台風19号の影響により、10月11日の降り始めからの降水量は、美和ダム流域平均で約326mmを記録しました。また、最大流入量約887m3/sは管理開始以降60年で3番目となる大きい流入量であり、10月12日21時30分~13日1時00分までの間、緊急放流(異常洪水時防災操作)を実施しました。
6月30日から7月31日までの流域平均累計雨量は美和ダムで約964mm、小渋ダムで約1154mmを記録しました。
特に小渋ダムでは、さらに8月11日まで過去最長である43日間のダムゲート連続放流となり、この間7回の防災操作(洪水調節)を実施しました。
中でも6月30日~7月12日の期間には、管理開始以降51年間で2番目となる最大流入量約640m3/s(7月1日)、同じく5番目となる約540m3/s(7月11日)を記録しました。
本出水においては、土砂バイパス施設を17日間・約380時間運用し、小渋ダム貯水池へ流入する土砂のうち、約210万m3(ダンプトラック約42万台分)抑制することができたと推定しています。
小渋ダム放流状況
(7/1 5時)
小渋ダム土砂BP放流状況
(6/30 19時)
令和3年5月出水は、梅雨前線と低気圧の影響により、九州から北海道の広範囲に非常に激しい降雨をもたらし、長野県南部では各地で大雨となり、5月20日から5月21日までの流域平均累計雨量は美和ダムで約157mm、小渋ダムで約179mmを記録し、小渋ダムでは非出水期として管理開始以降最大となる最大流入量約500m3/sを記録しました。
(WEC)
出水のご紹介で小渋ダムの土砂バイパス施設のお話がありましたが、堆砂対策についてお話しいただけますか?
(小野所長)
美和ダムでは昭和34年の完成直後の昭和36年に大規模な出水が発生し大量の土砂が流入するなど、南アルプスを源流とする両ダムでは、堆砂が最大の課題として取り組んできています。
堆砂対策として、わが国では近年4つの土砂バイパストンネルが整備されていますが、そのうちの2つが美和ダムと小渋ダムにあります。美和ダムでは、再開発事業の一環として土砂バイパストンネルの整備を進め、平成17年より試験運用を行い、令和元年より管理を開始しています。また小渋ダムでは平成28年より試験運用を開始し、現在モニタリングを実施中です。
土砂バイパストンネルの効果は非常に大きいですが、両ダムとも近年の出水によってさらなる堆砂が進んでおりますし、流木対策や維持管理などの課題について、引き続き積極的な対応が必要と考えています。
美和ダムにおける堆砂量と堀削土砂量の推移
小渋ダムにおける堆砂量と堀削土砂量の推移
・ダム湖に堆積した土砂を長野県や市町村の事業で活用していただいております。
(WEC)
大量に発生する土砂や流木はどのように処理されているのでしょうか?
(小野所長)
土砂・流木の処理は大きな課題となっていますが、極力ダム周辺で有効活用していただけるように地域の皆様に周知をしています。
具体的には堆積した土砂は長野県や市町村で進める工業団地の造成工事などに活用してもらっています。また流木は、玉切り・チップなど、一般の方が利用しやすい形状に加工した上で、無料配付を実施しております。チップは自治体の管理施設などで、防草用の敷材として利用していただいているほか、一般の方々も農業やガーデニングなど幅広く活用していただいています。
(WEC)
地域との連携についてのお考えをお聞かせください。
(小野所長)
まず地域の建設業者の皆様との連携が非常に重要と考えております。災害対応は、地域の建設業なしでは対応できません。そのため災害対応訓練や、作業員の負荷軽減のためパワーアシストスーツ体験会の実施など、お互いに協力しあえる取り組みをどんどん行っていきたいと考えています。
(小野所長)
また、ダムによる地域貢献は常に意識しています。ダムに人を呼ぶことでダム周辺地域にも目を向けてもらうきっかけになればと考えています。
そのためには、地元自治体広報への掲載依頼といった広報の充実や、イベントの工夫が重要と考えています。
イベントには大変力を入れておりまして通常のダム見学会だけではなく、ダムツーリズムという取り組みの中で、企業と連携したイベントも実施しました。令和元年にはJRツアーズと協力し、ツアーの中にダム見学を取り入れていただき、非常に好評でした。
JRツアー『わくわく夏休み小渋ダム50周年特別見学!』
(小野所長)
令和元年は美和ダム完成から60年、小渋ダム完成から50年の節目の年であり、ダムの重要性を再認識してもらうと共に、地域への感謝の気持ちを込めて記念式典を実施しました。
(小野所長)
今年度も新型コロナ対応で見学会などには制限があり、開催が難しい時期もありましたが、感染対策を実施した上で令和3年10月以降にダム見学会(美和・小渋)、減勢工開放イベント(小渋)、夜間も含む放流見学会(小渋)などにも取り組みました。
減勢工開放イベントは、開催前からダム愛好家の間で話題沸騰となるほど注目され、ご参加の方々からは大変好評をいただき、特にダム愛好家の方からは喜びの声と共に多くの御礼の言葉もいただきました。
さらに、減勢工開放イベントは、ダムアワード2021のイベント賞を受賞しました。イベント賞はダムアワード2020でも小渋ダムが受賞しており、2年連続3回目という大変嬉しい年末を迎えることができました。
(WEC)
最後に一言お願いします。
(小野所長)
伊那谷の安全・安心・くらしを支えるために、2つのダムが最大限かつ末永く効果を発揮できるよう、今後とも流水管理・貯水池管理・施設管理・水環境管理を適切に行ってまいります。少数の職員でダム管理にあたっており、コロナ禍の中では不安がありますが、対策をしっかりしながら業務を遂行いたします。
また、ホームページやツィッターなどを活用したダムインフラの魅力発信を通じて、地域の魅力発信、水源地域の活性化につながるよう関係機関とも連携して取り組みを進めてまいります。
引き続き、ご支援、ご協力をお願いします。
小野事務所長
公式ツィッターアカウント@mlit_tendamu
(WEC)
大変お忙しい中本当にありがとうございました。
■天竜川ダム統合管理事務所HP:https://www.cbr.mlit.go.jp/tendamu/
■Twitter:https://twitter.com/mlit_tendamu