明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
一般財団法人 水源地環境センター
理事長 平井 秀輝
昨年もダムに関する話題は事欠かず、多くのダムが活躍しました。なかでも、大分県が建設した玉来(たまらい)ダムが台風14号の際、令和2年台風19号時の八ッ場ダムと同様、試験湛水中にもかかわらず、洪水をため上げ、見事に玉来川下流の被害を軽減しました。実はこの玉来ダムは八ッ場ダムと同じような経歴を持つダムです。玉来ダムは稲葉ダムとの2ダム1事業として事業化され、稲葉ダムは平成22年に完成したものの、玉来ダムは民主党政権下でダム事業再検証の対象となり、事業が大幅に遅れることとなったダムです。その結果、平成24年九州北部豪雨では、隣り合う河川でありながら、既に完成していた稲葉ダムが稲葉川の被害軽減を図った一方で、玉来ダムは完成が間に合わずに玉来川沿川で被害が発生し、ダム有り無しの対照的な例として取り上げられてきました。しかし、今般、試験湛水中ではありながらダム本体が完成していた玉来ダムは、史上稀に見る勢力で上陸した台風14号に対し、河川改修と相まって下流の被害軽減を図ったのです。今回、ようやく玉来ダムも稲葉ダムに肩を並べることができ、名実ともに2ダム1事業となりました。今後は、試験湛水中に一気に水をため上げ、いきなり治水貢献デビューしたダムとして、東の八ッ場ダム、西の玉来ダムとして取り上げられ、語り継がれていくことになりそうです。本年も、また新たなダム伝説の誕生に期待が膨らみます。
ダムの施策の面でも話題がありました。昨年、国土交通省が打ち出した「ハイブリッドダム」の取り組みで、「気候変動適応策としての治水機能の確保・向上」「緩和策としてのカーボンニュートラル」「地域振興」の3つ政策目標の実現を図るもので、このための方策として「気象予測技術、ダム改造などの最新の技術」「官民連携」「治水と発電が両立できるダム容量の導入」の3つを柱として推進するものです。昨年、サッカーW杯にて個人の能力をチームとして最適化して、世界を驚愕させた「サムライブルー日本」のように、ダム目的の個別最適からダム全体の最適化へと転換を図る新たな取り組みです。当施策の推進のため、これまで当センターが蓄積してきた知見を総動員して、調査、研究を進めて参ります。
ところで、当取り組みは新技術の開発、導入が施策転換を可能としたものです。当センターでも例えば、環境調査の充実や省人化のため、これまでの採捕だけに頼った環境調査からの転換に向け、環境DNA調査技術の開発を進めています。採水して分析するだけでダム湖の生息生態を明らかにできる調査技術を「ダム湖を含む河川水辺の国勢調査」の8巡目調査(令和8年度)から導入すべく、検討がこれから山場を迎えます。本年も社会の変化、社会の期待に応えるため、様々な技術開発、社会実装を進めて参ります。
さて、昨今、ロシアのウクライナ侵攻にはじまる電力の安定供給問題、脱炭素問題、さらに新規建設が困難なことを背景に、原子力発電所の運転期間を一律40年としている規制を、発電所毎に個別判断して最長60年まで運転期間を延長する方向で議論が進んでいます。当議論は、ダムについても当てはまります。電力供給の安定化、カーボンニュートラルの観点からダムの水力発電への期待が高まっていますが、その期待に応えていくためには、ダムが健全で、長寿命である必要があります。昭和30、40年代に数多く建設されたダムも半世紀が過ぎ、個別ダム毎に長寿命に向けての大小様々な課題を抱えています。我々の人間ドッグの結果が十人十色で処方が異なるように、ダムも堆砂や水質問題など個別ダム毎に課題をクリアーにして延命策を講じていかなければなりません。昨年、韓国大田(テジョン) で開催された「第11回 東アジア地域ダム会議(EADC)」でも、長寿命化の最大の課題である堆砂対策に関係するテーマが多く取り挙げられるなど、国際的にもダムの長寿命化がクローズアップされています。「持続可能な世界」という人類共通の目標達成のため、ダムが何代もの世代に亘り社会貢献できるよう本年も水源地環境センターの使命と役割を果たして参ります。
最期に、本年も水源地ネットは、ダムや水源地域に関するタイムリーな話題や水源地域活性化に資する情報を発信するとともに、皆様の情報交換の場となりますように尽力して参る所存です。どうか、旧年同様引き続きのご指導、ご支援をお願いいたしまして年頭のご挨拶とさせていただきます。