「ダム管理所長に聞く」第31回《苫田ダム》

(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第31回は、岡山県を流れる一級河川 吉井川に建設された苫田ダムを管理する苫田ダム管理所の今岡所長にお伺いしました。
今岡所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに苫田ダムのご紹介をお願いします。

■FNAWIPの機能を持つ多目的ダム

(今岡所長)
「苫田ダム」は、岡山県北部の鏡野町に、平成17年3月に完成した堤高74m、堤頂長225m、総貯水容量8,410万m3の重力式コンクリートダムです。
岡山県東部を流れる吉井川の洪水調節をはじめ、FNAWIPと多くの機能を持つ多目的ダムです。

吉井川流域図

■西日本豪雨では津山地点の水位を1.1m低減!

(今岡所長)
吉井川では、昭和20年、昭和38年、昭和47年、昭和54年、平成2年、平成10年等の洪水によって大きな被害が発生しており、苫田ダムの洪水調節による吉井川流域の洪水被害の軽減が期待され、総貯水容量8,410万m3の内5,000万m3が洪水調節容量となっています。

苫田ダム建設後、最大の出水となった平成30年7月の西日本豪雨では、特別防災操作も行い、吉井川の水位低下に大きく貢献しました。

平成10年10月台風10号 津山市大手町18日午前3時30分
[写真提供:津山朝日新聞社]

苫田ダム容量配分図

苫田ダムの洪水調節効果(平成30年7月豪雨)

■苫田ダムの魅力について

(WEC)
それでは次に苫田ダムの魅力についてお話しください。

(今岡所長)
沢山ありすぎて迷ってしまいますが、個人的に特に魅力を感じた2点について紹介します。

<ラビリンス型自由越流頂を採用した特徴的な景観>

まずは、駆使されているダム技術、ダム構造についてですが、苫田ダムの非常用洪水吐には、重力式コンクリートダムでは初めて「ラビリンス型自由越流頂」を採用して、自由越流頂の放流能力を高め、特徴的な景観も形成しています。

ラビリンス型自由越流頂

ダムカードにプリントされた

ラビリンス型自由越流頂からの放流風景

◆我が国で初めての1枚扉の引張ラジアルゲート
また、中位標高に設置している水位維持用放流設備には、我が国で初めて1枚扉の「引張ラジアルゲート」も採用しています。
引張ラジアルゲートの直上部に展望室を備え、一般開放しているので、放流時にはその特徴的な構造とともに迫力ある放流の状況を間近で見学いただくことも出来ます。

引張ラジアルゲートからの放流状況

展望室と展望室から見た放流状況

◆表面遮水型ロックフィルダムの苫田鞍部ダム
また、苫田ダムの左岸上流に建設した「苫田鞍部ダム」は、日本では数少ない「表面遮水型ロックフィルダム(CFRD)」です。
ダム上流面のフェーシングコンクリート打設時に使用したスリップフォームを現地に展示してあります。苫田ダムの上流には「バットレスダム」(恩原ダム) もあり、ダム技術が好きなマニアの方にはたまらないエリアなんじゃないかなと思います。

苫田鞍部ダム

スリップフォームによる
表面遮水コンクリート打設状況

恩原ダム下流面

<土木学会デザイン賞やグッドデザイン賞を受賞した苫田ダム空間のトータルデザイン>

次に空間デザインです。
ラビリンス型自由越流頂はとてもリズミカルなイメージを創出し、堤体全体も安定感・構造美を感じることが出来るようにデザインされています。

管理庁舎は、限られた敷地内で、監視機能・ダム本体等とのデザインの調和・広場空間の確保などを最大限に高めることが出来るように、直線を基本としたシンプルなデザインのピロティー構造が採用されています。その他、橋梁、道路景観も含め、苫田ダム空間のトータルデザインは高く評価され、土木学会デザイン賞やグッドデザイン賞なども受賞しています。

苫田ダム全景

苫田ダム管理庁舎

■苫田ダム空間の更なる活用をめざして

(WEC)
今後の苫田ダムの管理についてお話しください。

(今岡所長)
近年の水災害の頻発・激甚化なども踏まえて、洪水調節などの機能を確実かつ最大限発揮できるように、DXなど含め管理の高度化はもとより、苫田ダム空間の更なる活用について取り組んでいきたいと考えています。

現在、苫田ダムのもつ魅力を活かして、地元の「健康の町かがみのプロモーション本部」による「探訪ツアー」なども開催され、県内外から多くの方々に来訪いただいています。

監査廊を探訪する見学者(探訪ツアー)

その他にも、苫田ダムのダム湖「奥津湖」では、鏡野町大納涼祭の打ち上げ花火、かがみの健康マラソン&ウォーキング、ファンライド(自転車)、カヤック・SUP、E-BIKE、キャンプなど、様々なかたちで楽しんでいただいています。

苫田ダム湖「奥津湖」での打ち上げ花火(鏡野町大納涼祭)

また、広大なオープンペースを活かして、水域の救助訓練や消火訓練などにも多く利用いただいており、洪水調節以外の面でも地域の安全・安心向上にお役に立つことが出来ています。

新型コロナウイルス感染症により、様々な活動を安全にできるオープンスペースへの関心・重要性が更に高まったのではないかと感じています。

より楽しんでいただけるように、より地域のお役に立てるように、維持管理はもとより、ガイド育成なども含め関係機関と連携して更なる魅力づくり・活用を模索しているところです。

消火訓練の様子

■技術の伝承について

(WEC)
それでは最後に一言お願いします。

(今岡所長)
最後に、技術の伝承について感じていることを述べたいと思います。

先ほどお話しした、苫田ダムの魅力や機能については、計画から建設時に発揮された技術力や歴史が、地域の財産・人文資源となっているものだと思います。
管理に移行してからも、つり下げ式産卵床などの工夫もしながら外来魚の低密度管理を実現するなど、技術力を発揮して、今日に至っています。

ブラックバス対策(つり下げ式産卵床)

苫田ダムの魅力を語る今岡所長
(管理所長室にて)

これらの技術とそれに関わってきた諸先輩の努力・姿勢は、水質保全など今後直面するであろう課題に取り組む際に必ずや参考になるものと思います。

ダム管理者や技術者だけでなく、インフラツーリズムなどを通じて多くの方々に触れてもらえばシビックプライドの醸成、担い手確保などにも資することが出来るのではと感じています。

欲張りすぎてやりたいことだらけになってしまっていますが、そういった面にも力を入れていきたいと考えています。

(WEC)
お忙しいところありがとうございました。



取材後、今岡所長から雪の便りが届きました。

(今岡所長)
1月24日~25日の最強寒波では津山市で観測史上最高の積雪となる46cmを記録しました。
苫田ダムでもダム天端で約40cmの積雪となり、久しぶりに雪景色に変わりました。

雪に覆われた苫田ダム

晴れ渡った空の下、奥津湖と美しい山並み



■苫田ダム管理所 HP: https://www.cgr.mlit.go.jp/tomata/
■Twitter: https://mobile.twitter.com/MlitTomata