(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)
(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第32回は、石川県を流れる一級河川手取川に建設された手取川ダムを管理する金沢河川国道事務所 手取川ダム管理支所の府録所長にお伺いしました。
府録所長、どうぞよろしくお願いします。では、はじめに手取川ダムのご紹介をお願いします。
(府録所長)
手取川が尾添川と合流した後、鶴来までの中流部には、長い時間をかけて流紋岩を侵食し自然の造形美を示す手取渓谷があり、渓谷をぬけた下流部では、鶴来を扇頂部として日本海に向かって扇状地が形成されています。流域は古くから手取川からのかんがい施設が整備され、早場米産地として知られている他、豊かな地下水を利用し、古くから酒造業が盛んで、近年では先端産業の各種製造工場が立地しています。 |
|
手取川は、豊かな清流で流域の人々に恵みをもたらす反面、その急勾配と天井川という特性から、台風や梅雨前線の豪雨によって過去に度々氾濫を起こしてきました。そのため、地域住民は古くから「村囲堤」「霞堤」等で自衛してきましたが、明治に入っても再三にわたる水害を受け、昭和9年7月には未曾有の大洪水が起こりました。この水害を契機として新たな改修計画が策定され、同年12月から直轄事業として着工しました。 昭和41年(1966年) には一級河川に指定され、水衝部の補強、堤防の嵩上げなどの治水事業が進められました。昭和43年(1968年) 完成の大日川ダムと昭和55年(1980年) 完成の手取川ダムと合わせ洪水調節が可能となり、現在は河川氾濫による被害も激減し、手取川は安全な郷土形成の確固たる土台となっています。 |
|
手取川ダム全景 |
手取川ダム位置図 |
(府録所長)
手取川ダムは、洪水調節(治水)・都市用水の確保(水道用水、工業用水)・発電を目的に手取川総合開発事業の一環として昭和49年に工事に着手。6年の歳月と約770億円の費用をかけ、昭和55年に完成した石川県内最大、国内でも最大級のロックフィルダムです。
ロックフィルダムとしては、高さ153mは高瀬ダム、徳山ダム、奈良俣ダムに次いで第4位、総貯水容量2億3100万m3も徳山ダム、御母衣ダム、九頭竜ダムについで第4位を誇ります。
●全国平均を大きく上回る年間降水量
手取川ダムのある手取川流域は、年間降水量が手取川ダム地点で近10年の平均が3,229mmと全国平均1,662mmと比べてとても多く、特に冬季の降雪、夏季の雨量が多いのが特徴です。
手取川の流域では死者・行方不明者112名を数えた昭和9年の記録的な豪雨災害をはじめ、幾度も洪水被害に見舞われてきましたが、手取川ダムは水害から守る治水と併せて、この豊富な降水を利用した利水にも能力を発揮しています。
●水を生み出す[水道用水・工業用水] ~県内人口の7割以上に供給~
手取川ダムの水は金沢市を中心として、北は七尾市能登島から南は加賀市の9市4町へ供給され、県内の給水人口の実に7割以上をまかなっています。
平成6年夏の渇水においても供給制限の措置を行わず、安定した供給を確保しました。
●電気を起こす[発電] ~注目されるクリーンエネルギー~
手取川ダムの水は、第一発電所(電源開発(株))で発電に利用されたのち、下流の第二ダム、第三ダムを経て、それぞれ、第二発電所(北陸電力(株))、第三発電所(北陸電力(株))により発電に利用されます。3発電所の認可出力は最大367,000kwで、火力等も含めた県内発電所の合計出力に占める割合は10%(平成13年度)を占めています。またこれらの水力発電によるCO2排出量は、石油火力発電に対して約1/67、石炭火力発電では約1/86、原子力発電では約1/2に抑えられ、地球温暖化抑制に貢献しています。
水力発電は、クリーンエネルギー、資源の有効利用として見直されています。
最大出力250,000kwの第一発電所
(WEC)
実は私は昨年の8月に金沢へ向かっていたとき、特急しらさぎが福井県内で立ち往生する豪雨に遭遇しました。令和4年8月1日から6日の前線による大雨では手取川も大変な状況になった様ですが、手取川ダムではどのような対応をされましたか?
(府録所長)
手取川では基準地点の鶴来観測所で氾濫危険水位を超えて観測史上5番目の水位を記録しました。この時は手取川ダムの最大流入量は既往最大の1,690m3/sを記録しましたが、防災操作による貯留により、鶴来観測所で約69cmの水位を低減させたと推定され、手取川の洪水被害の軽減に貢献することができました。
(WEC)
手取川ダム周辺はジオパークとして認定されているとお聞きしましたが、どのような取り組みをされていますか?
(府録所長)
白山手取川ジオパークは2011年に日本ジオパークとして認定され、白山市全域が対象となっています。国土交通省 金沢河川国道事務所は白山手取川ジオパーク推進協議会の一員として、白山手取川ジオパークの認定に寄与してきました。
●白山市一帯は、大地の成り立ちと、暖流の流れる日本海の影響を受け、世界的にも稀な低緯度の多量積雪地帯となっており、日本海から白山にかけての狭い範囲で、水循環(水の旅)が生み出されています。白山手取川ジオパークでは「山-川-海そして雪 いのちを育む水の旅」をテーマとしています。
●白山手取川ジオパークは、「海と扇状地のエリア」「川と峡谷のエリア」「山と雪のエリア」の3つのエリアに分けられています。このうち手取川ダムは「山と雪のエリア」に位置し、見どころの一つとなっています。
金沢河川国道事務所では、世界ジオパーク認定に向けて自治体等関係機関と一体となって取り組んできましたが、令和4年12月のユネスコ世界ジオパーク・カウンシル会議において、白山手取川ジオパークの世界認定がユネスコ執行委員会に勧告されることが決定しました。これにより、令和5年5月のユネスコ執行委員会にて正式に認定となる見込みです。ぜひ、白山手取川ジオパークにお越しください。
白山手取川ジオパークエリア位置図 |
(WEC)
とても壮大な取り組みですね。訪れる方も多いのではないですか?
(府録所長)
手取川ダムのある白山市には歴史、文化、レジャーを楽しめる魅力的な施設がたくさんあります。
また、ここ数年はコロナの影響で中止になっていますが、手取湖では地域住民で構成された手取湖げんき団から誕生したカヌー・カヤック倶楽部が中心となり、カヌー・カヤックの体験ができるイベントを行っています。
手取川ダム管理支所では、組織として地域との関わりを深めるため、「森と湖に親しむ旬間」の期間中に、水源地の役割を学びながら豊かな自然に親しんでいただくことを目的として、ダム見学会等を実施しています。また、そのイベント期間以外にも、手取川ダム管理支所では組織として地域との関わりを深めるため、ダムの見学会を実施し、小学生をはじめとする学生や一般社会人の総合学習の場としても利用されています。
手取川ダムは白山手取川ジオパークの見どころの一つとして位置づけられており、多くの方にお越しいただきたいと思います。
ダム見学会
流木配布
カヌー・カヤック体験
(WEC)
おわりに一言お願いします。
雪に覆われた手取川ダムと府録所長
(府録所長)
近年、気候変動の影響や社会状況の変化などを踏まえ、河川の流域のあらゆる関係者が協働して流域全体で行う治水対策である「流域治水」へ転換が図られています。
手取川ダムでは洪水調節機能の強化に向けた取組として、令和2年度に利水者のご協力をいただいて治水協定を締結し、事前放流により利水容量の一部を洪水調節に活用できることとなりました。
今後とも関係者の皆様のご協力をいただきながら、手取川ダム管理支所ならびに金沢河川国道事務所職員が一丸となって、手取川流域の安全・安心に寄与できるよう取り組んでまいりますのでよろしくお願いいたします。
(WEC)
本日はありがとうございました。
■金沢河川国道事務所HP: https://www.hrr.mlit.go.jp/kanazawa/chisui/