2023.10掲載
(聞き手:水源地環境センター 企画部 伊藤)
(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第40回は、関東地方整備局 二瀬ダム管理所にお伺いしました。現在、実施中の堆砂対策の取り組みなどについて伺っていきたいと思います。
神達所長、どうぞ宜しくお願いします。
それでは初めに「二瀬ダム」の概要について、ご紹介願います。
(神達所長)
二瀬ダムは、荒川水系本川上流の埼玉県秩父市大滝地先に洪水調節・かんがい・発電を目的とした埼玉県内で最初の多目的ダムで、高さ95m・堤頂長288.5mの重力式アーチコンクリートダムとして、昭和36年12月に完成しました。二瀬ダムの総貯水容量は2,690万m3、そのうち有効貯水容量(=洪水調節容量)が2,180万m3、利水容量2,000万m3、堆砂容量は510万m3 となっています。
貯水池運用図
容量配分図
(WEC)
二瀬ダムの周辺地域のことについても教えてください。
(神達所長)
埼玉県西部の秩父地域に立地する二瀬ダムおよび秩父湖(秩父宮妃により命名)は、二子山(標高1,165m)、甲武信ヶ岳(標高2,475m)、雲取山(標高2,017m)等からなる秩父山地に囲まれており、この山々一帯は「秩父多摩甲斐国立公園」に指定され、緑豊かな自然が広がっています。
荒川は、その源を秩父山地の甲武信ヶ岳に発し、奥秩父の深い谷を流下して秩父盆地を北流し、長瀞を経て寄居付近から関東平野をほぼ南に流れ、東京湾に注いでいます。
荒川の流域は東京都と埼玉県にまたがり、幹川流路延長173km、流域面積2,940km2、人口約1,020万人が暮らしており、首都圏にとって利水(水供給)上欠かせないばかりでなく、大洪水を引き起こせば甚大な被害を及ぼすことから、治水(洪水防御)上からも極めて重要な河川であり、二瀬ダムはダム完成から約60年、長きにわたり荒川の治水・利水の要としてその役割を担ってきました。
また、 秩父地域の人類の足跡は原始・古代に遡り、中世、近世、近・現代まで続いています。二瀬ダムが位置する秩父市は昭和25年に県下7番目で、市制施行により誕生し、その後、昭和29年から昭和33年頃になると秩父市周辺は秩父市・吉田町・荒川村・大滝村となり、平成17年4月にこれら市町村が合併し現在の県土の約15%を占める秩父市となりました。
(WEC)
約60年という長きにわたり荒川の治水・利水の要として頑張っていますね。治水・利水の機能などについて、詳しく教えてください。
(神達所長)
二瀬ダムは、昭和36年の管理開始から約60年間で52回の洪水調節を実施しました。また、令和元年10月の台風第19号の出水では、管理開始以降最大流入量となる1,032m3/sを観測しました。
一方、二瀬ダムに貯留された水は、荒川中流に位置する六堰頭首工(大里用水)、玉淀ダム (櫛引用水)から取水し荒川中流 の熊谷市、深谷市(旧川本町、旧江南町)等、約8,603.4haの農地にかんがい用水として水を供給しています。
荒川では平成2年から平成8年までに、毎年のように取水制限を実施するような渇水が生じており、渇水時には瀬切れ(河川の流量が少なくなり河床が露出して流水が途切れてしまう状態)が発生することもありました。近年では、平成29年に渇水よる取水制限(52日間最大20%の取水制限)が行われ、二瀬ダムもダム放流(補給)を実施しています。
また、二瀬ダムの建設に伴い設置された二瀬発電所では最大出力5,200kwの発電が可能であり、二瀬発電所の年平均発電量約8,500MWhは、約2,000世帯が1年間で使う電力量(秩父市の総世帯約26,389世帯の約8%)に相当します。
(WEC)
二瀬ダムでは、いくつかの機能を後付で拡充したと聞きましたが、それらについて教えてください。
(神達所長)
二瀬ダムでは、水環境保全対策として、平成28年7月に発電所取水口に選択取水設備を設置し、洪水後における貯水池内の濁水の長期化現象、流入水・放流水の水温差を解消しました。
一方、二瀬ダムの堆砂は、昭和60年末で計画堆砂量の約60%と、計画を上回る速度で進行していました。二瀬ダムでは荒川本川の貯水池上流端に流入する土砂を貯める貯砂ダムを建設し、堆砂による貯水池の機能低下を防止するため昭和56年度から貯水池保全事業として着手し、平成元年3月に完成しました。また、大洞川筋においても容量21,000m3の貯砂ダムを計画し、現在準備工事(工事用進入路)を進めています。
また、貯砂ダム内や貯水池内に堆積した土砂はダムの下流河川の環境保全のため、平成15年よりダム下流に土砂還元を行っています。
ダム下流の土砂還元の状況
(WEC)
全国のダムでも、治水機能の確保のため堆砂状況が課題となっているダムがあります。先程、令和元年が管理開始以来最大流入量というお話でしたが、土砂の流入状況はどうだったでしょうか。
(神達所長)
二瀬ダムの堆砂傾向は、大きな出水により流入土砂量が急激に増加する傾向にあります。二瀬ダムでは先程述べたように、堆砂対策として荒川本川に貯砂ダムを設置し貯水池内の土砂掘削を継続的に実施していましたが、令和元年10月の洪水(台風第19号)における大規模な土砂流入により堆砂率が100%を超過しました。
このため、令和元年度から災害復旧事業に着手し、貯水池内に堆積した土砂の搬出を実施しています。
令和元年10月出水後の堆砂状況
令和4年度 貯水池内掘削状況(令和5年3月末)
令和元年度より実施している災害復旧事業は令和5年度完了予定ですが、これまでの実施状況は以下のとおりです。
① 堆砂率:令和元年10月の出水を受け貯水池堆砂率は107.5%でしたが、最新(令和5年4月)の堆砂測量の結果、100%を下回るまで回復しました。
② 有効容量内堆砂量:最新(令和5年4月)の堆砂測量の結果 、約170万m3(令和元年度:229万m3)で、出水前の平成30年度水準(約172万m3)まで低下しました。
(WEC)
最後になりますが、今後の取り組みなどについてお話しいただけますか。
(神達所長)
今後は、有効貯水容量内における堆砂量を適切に管理するため、大洞川筋の貯砂ダム建設や土砂搬出箇所の調整を行い、流域治水の精神に則り、貯水池内堆積土砂の搬出と有効活用に向け、ダム上流域とダム下流域が一体となって対応していきたいと思います。
(WEC)
本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。
■関東地方整備局 二瀬ダム管理所 https://www.ktr.mlit.go.jp/futase/