九州電力の耳川水系のダムを見学してきました

一般財団法人 水源地環境センター
研究第二部 谷田部 拓

○耳川水系とは
耳川は九州の太平洋側に面する宮崎県の中央より若干北側に位置しています。宮崎県北西部の椎葉地方の九州山地に源を発し、上椎葉ダム、岩屋戸ダム、塚原ダム、諸塚ダム(支流)、山須原ダム、西郷ダム、大内原ダムを通過し、日向市南部で日向灘に注ぎます。各ダムは全て九州電力が管理しています。

耳川水系は土砂崩れが起こるなど土砂生産が多く、上流のダムでは堆砂が進み、災害時には浸水被害が出たこともあります。本来、川を流れる土砂はダムがなければ河口まで流れていくものです。下流の山須原ダム、西郷ダム、大内原ダムでは台風の際の洪水時に土砂がダムを通過するように「ダム通砂運用」を行っています。山須原ダム、西郷ダムでは「ダム通砂運用」のために堤体を改造し、工夫された運用を行っています。土砂を通過させて、下流への影響について継続的に調査を行っていますが、下流への悪影響は確認されていないようです。これが本来の自然の形なのかもしれません。

○1日目
宮崎空港に降り立ち、九州電力耳川水力整備事務所にお邪魔し、事業の概要や最近行われた工事等について説明を受けたあと、意見交換会をしました。

○2日目
ダム見学当日、車で日向市から川沿いを上流方向に登り、まず最上流の上椎葉ダムまで行き、そこから川沿いに下りながら要所で途中下車し、ダム等を見学するといったルートです。

朝、ホテルの前で九州電力の方と合流すると、トランシーバーを渡されました。車で上流に登っていく際にダムや河川の各ポイントについてトランシーバーを通じて説明していただけるとのことです。(見学慣れしてるなー)

見学で特に印象に残った3つのダムについて紹介したいと思います。

①上椎葉ダム(かみしいばだむ)
耳川水系最上流に位置する上椎葉ダム。出水期だったことや土砂生産の多い水系なのでダム湖は少し濁っていました。

上椎葉ダムは1955年に完成した日本初の大規模アーチ式ダムで、当時の最先端の技術が詰まっており、あの黒部ダムのモデルとなったことからダム愛好家の間で尊敬の念を込め「閣下」と呼ばれているみたいです。(九州電力情報)

上椎葉閣下と日向椎葉湖

ダム湖百選に選ばれた「日向椎葉湖」の銘板

ダム湖は日向椎葉湖と呼ばれ、ダム湖百選に選ばれています。銘板の右下には小さく「水源地環境センター」の昔の名前「ダム水源地環境整備センター」が刻まれています。

洪水吐は左右にあり、それぞれスキージャンプ式が採用されています。一定量の放流を行うとなんと左右の放流水が空中でぶつかり合い減勢させるというもののようです。(見てみたい!)

上椎葉ダムの放流イメージ

②山須原ダム(やますばるだむ)
続いて下流から3つ目の山須原ダム。「ダム通砂運用」のために中央の2門を切り下げて1門にして、洪水時に上流からの土砂が通過しやすい構造に改造しています。

私の一番のお気に入りのポイントは見た目です!!(はい!技術者失格!!)実は本川の下流から数えて4つ目の塚原ダムの堤体上も同様のデザインが施されています。外国のお城のような凹凸のデザインはなかなか他のダムでは見られないかと思います。

山須原ダムの堤体

私の一推しポイントのデザイン

塚原ダム堤体上のデザイン

③西郷ダム(さいごうだむ)
そして最後に下流から2つ目の西郷ダム。こちらも「ダム通砂運用」のために中央4門を切り下げて2門にして土砂が通過しやすい構造に改造しています。

西郷ダムの堤体

なんと今回の見学会に参加していたゼネコンの中に堤体改造工事を担当していた方がいらっしゃいました!!

当時の工事の施工上の工夫や技術について説明いただき、施工技術についての理解が深まりました。堤体の写真でお気づきでしょうか。ゲートの上の方に鐘のようなものが2つ!

九州電力さん、見た目にこだわるにしてもただの飾りはどうなんでしょうか…と思いきや!!

中にはホイストクレーンが格納されていて、ホイストクレーンを保護するために覆っているようです。(テキトーなこと言ってごめんなさい。)

上流側から見るとホイストクレーンには何やら文字が…「えん」「えい」…遠泳ですね! ※永遠(とわ)です。

宮崎県北部では延岡市に「出逢いの鐘」、日向市に「願いが叶うクルスの鐘」、美郷町に「絆の鐘」という鐘があり、西郷ダムは4つ目のスポットとして「永遠の鐘」としているとのことです。堤体の右岸側にはちゃんと鳴らせる鐘もあります。見た目の工夫も観光客を呼び込むことにつながっているようです。

○最後に
今回の見学会でダムの見方が変わりました。今までは仕事上で関わるコンクリート製のお客さんだと思っていましたが、観光資源になりうる工夫がされていて、ダム巡りが趣味の一つになってしまいそうです。閣下(上椎葉ダム)の放流も見てみたいです。

今回のダム見学にあたりご多忙の中ご案内いただいた九州電力耳川水力整備事務所の皆様、誠にありがとうございました。

西郷ダムの永遠とわの鐘

閣下(上椎葉ダムのダムカレー)

上椎葉ダム点検放流状況(九州電力提供)