(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)

(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第46回は、吉野川水系、仁淀川水系の水力発電所の管理を行っている四国電力(株)高知支店技術部本川水力センターダム管理所の大石所長にお伺いしました。
大石所長、どうぞよろしくお願いします。
では、はじめに本川水力センターの概要についてお話し下さい。

■吉野川水系の最上流域に位置する水力発電所の重要な保守管理拠点

(大石所長)
本川水力センターは、高知市内から車で約1時間40分の「四国の水がめ」と呼ばれる早明浦ダム上流にあり、四国のほぼ中央、標高580m地点の吉野川源流の里である高知県吾川郡いの町の本川地区に位置しています。

吉野川の最上流域である本川地区は、水資源が豊富なことから、昭和初期より当時としては大規模な水力発電所の建設や仁淀川への分水による発電事業が進められるとともに、昭和50年代には当社唯一の純揚水発電所が建設されています。

このような背景から本川水力センターは、電力の安定供給を担うこれらの水力発電所の重要な保守管理拠点となっています。

本川水力センターの水力発電所設備 位置図

■吉野川水系、仁淀川水系の8つの発電所を管理

(大石所長)
本川水力センターは、吉野川水系の4つの発電所とハイダム4基、そして仁淀川水系の分水第一発電所から分水第四発電所の4つの発電所と吉野川水系から分水している設備も含めた取水ダム5基を管理し、合計8つの発電所で最大約69万kWの発電を行っています。

(ハイダム)

(取水ダム)

本川水力センターのダムおよび発電所 諸元

大橋ダム全景

長沢ダム全景

大森川ダム全景

稲村ダム全景

本川水力センターのハイダム 写真

(WEC)
次に本川水力センターの吉野川水系および仁淀川水系の電源開発の歴史についてご紹介下さい。

■明治37年の企画から始まった吉野川水系および仁淀川水系の電源開発

(大石所長)
大橋ダム地点である吉野川上流域は、急峻な地形や年間3,500mmを超える降雨にも恵まれた場所で水力発電所として適地であったことから、仁淀川水系へ分水して発電する構想が浮上し、明治37年から企画されていました。

その分水構想による減水対策として計画されたのが、大橋ダム建設計画で出水時に水を貯留し、渇水時などは必要に応じて下流域に水を流すことで分水による影響を低減させようとするもので、当時としては全国的にも先駆的な河川開発計画であったそうです。

工事は、昭和12年から四国中央電力(株)(後に住友共同電力(株)に改称)により、大橋・分水第一~分水第三発電所の建設が始まり、途中には戦争の勃発もありましたが約3年半の歳月で完成させたそうです。

なお、建設当時の大橋ダムは日本第4位の高さを誇る大きなダムでした。完成した昭和15年は、神武天皇即位紀元(日本の紀元)の皇紀2600年にあたり、全国的に祝典行事が催されたようでダム右岸側の親柱には皇紀で年代が記されています。(西暦1940年+660年)

その後、昭和20年代に分水第四発電所と吉野川本流の最上流に長沢ダムを、昭和30年代に入り四国電力として今では珍しい中空重力式の大森川ダムを吉野川支流に建設し、昭和50年代になると電源の効率的運用を目的とした大規模な揚水発電所として、本川発電所および上池として稲村ダムを建設しました。

昭和15年 大橋ダム建設時状況

大橋ダム右岸側親柱の表示状況

昭和24年 長沢ダム建設時状況

昭和34年 大森川ダム建設後試験状況

昭和56年 稲村ダム建設時状況

(WEC)
100年以上も前から地形や降雨特性に着目して分水を構想され、また今で言う維持流量にも配慮されていたのですね。
続きまして本川水力センターの業務についてご紹介下さい。

■総勢20名による土木設備の運用・保守管理

(大石所長)
本川水力センターは、センター所長をはじめダム管理所員と共に土木保守業務を委託している関係会社の社員を合わせた総勢20名で土木設備の運用・保守管理を行っています。

ダム管理所の役割ですが、ダム管理所では、ダムから放水口までの土木設備の運用・保守管理として、巡視・点検や計測等の実施、設備の修繕および機器取替等の工事管理、降雨や台風等の出水対応・取水復旧作業等を主に行っています。

■24時間体制で集中監視

(大石所長)
本川水力センターのダム運用や設備状況等の監視は、本川水力センターのダム集中監視室で行っています。

監視は、24時間体制で二交替勤務者3名が対応しており、ダム集中監視室にある遠方監視制御装置には、各ダムのゲート等を遠方操作できる機能を備えています。

また、降雨や台風等によるダムからの放流時には、現地ダムに出動し、下流河川のパトロールやゲート操作などを実施しています。

ダム集中監視室状況

(WEC)
毎日の管理にあたってご苦労されている点についてお話下さい。

■本川発電所揚水発電および上池の稲村ダム・下池の大橋ダムの運用について

(大石所長)
本川発電所については、昭和40年代の高度経済成長による電力需要の変化(深夜の余剰電力解消と昼間のピーク需要)に対応するため、昭和49年に建設が計画されました。

本川発電所は、運転開始から40年を迎え、近年では太陽光発電の増加によって昼間に揚水運転することが多くなっているとともに、発電所の運転時間も従来よりも増えているなど、運用方法も当初から大きく変化していますが、四国の電力需要の調整役として過去から変わらない重要な役割を果たしています。

過去の電力需要の調整イメージ                     近年の電力需要の調整イメージ

その重要な本川発電所は、当社唯一のロックフィルダム(土や岩石を主材料としてつくられるダム)である稲村ダムを純揚水の上池とし、大橋ダムを下池として利用しています。

大橋ダムの運用は、通常のダムと同様に降雨に対応した放流を行うため、放流判断は、河川流入量が最大使用水量9.74m3/s以上かつ予備放流水位(25.50m)を超えると予想されたる場合に河川流入量相当分を放流します。

この大橋ダムからの放流中においても本川発電所の運転は行うため、平常時に比べて放流中は利用水深の制限を行い、放流操作に影響をあたえない範囲で都度、揚水・発電の可否や連続運転時間等について関係個所と調整を実施します。

本川発電所 発電時イメージ図

本川発電所 揚水時イメージ図

大橋ダム貯水池での本川発電所の利用水深

大橋ダムゲート放流状況

(WEC)
カーボンニュートラルが叫ばれる中で、効率的な揚水発電の運用はとても重要ですね。
さて話題は変わりまして、周辺地域の見どころなどをお話しいただけますか?

■迫力満点の大瀧おおたびの滝

(大石所長)
長沢ダム・大森川ダムの上流には、高知県単独の山では最も高い手箱山(標高:1,806m)があります。
その手箱山の登山口(寺川)には、「大瀧おおたびの滝」があり、水が太い一筋の流れとなり断崖を流れ落ちる眺めは迫力満点です。また、冬場の氷瀑は必見で寒い年には滝の全てが凍り、幻想的な姿を見ることができます。

江戸時代には、手箱山の山頂付近で「氷室」に氷を詰めて保存し、夏に掘り出して土佐藩のお殿様に氷を献上していたという史実もあります。

手箱山(てばこやま)

大瀧(おおたび)の滝

■美しい仁淀ブルーが見られる「にこ淵」

(大石所長)
当社で最も標高の高い位置にある稲村ダムの名前となった稲叢山(標高:1,506m)には、いくつかの登山ルートがあり、5~6月にかけては周辺の山々に「アケボノツツジ」が咲くなど山歩きの好きな方には隠れた観光スポットとして人気があります。

また、発電により分水している仁淀川は、透明度の高さや青みがかった水面から「仁淀ブルー」として全国的にも有名で、分水第一発電所上流にはその美しい仁淀ブルーが見られる「にこぶち」に、毎年多くの人が訪れています。

一方、地元名産品として、「きじ」を使った鍋セットやスープ、コロッケなどいろいろな種類があります。鶏肉に比べてお肉に歯ごたえがあり、さっぱりとした味でとても美味しいので是非機会があればご賞味ください。

稲叢山(いなむらやま)

仁淀ブルーが見られる「にこ淵」

(WEC)
広報活動についてはどのような取組をされているのでしょうか?

■「ダムカード」および「よんでんダムナビ」

(大石所長)
四国電力では、ダムの魅力や水力発電所の理解を深めてもらうことを目的に広報の一環として、「ダムカード」の配布と四国のダム巡りをサポートするアプリ「よんでんダムナビ」の配信を行っています。

「ダムカード」「よんでんダムナビ」イメージ資料

なお、「よんでんダムナビ」は、ダムへの「道案内」や「スタンプラリー」機能も搭載しており、当社ダムであれば、スタンプに加えてオリジナルキャラクター化した「ダムロボ」も獲得できます。

ダムロボは、実際のダムの特徴をロボットのデザインに盛り込んでいて、ダムロボの種類は、ダムカードと同様に全18種類あります。

「ダムロボ」イメージ資料

(WEC)
ダムロボについて私は存じ上げませんでした。もう少し詳しく教えていただけませんか

■ダムごとの特徴をモチーフしたダムロボ

ダムロボは、お子様や学生にもダムや水力発電所に親しみを持っていただき、楽しんで現地に訪れていただくことを目的に制作されました。

なお、本川水力センターのダム4基をモチーフにしたダムロボには、以下のような特徴があります。

〇大橋ダムロボ :ロボットの肩にはダムにあるガス灯を装備し、戦前では国内最大級の堤高をほこるダムとして、王様の様なデザインです。
〇長沢ダムロボ :堂々とした歴史を感じるダムそのものをモチーフにしています。
〇大森川ダムロボ:堤高が高いことからドッシリとしたイメージが特徴です。
〇稲村ダムロボ :ダムがロックフィルであることから、ロボット表面も岩に覆われているようなデザインで、堤頂長352mという長さをモチーフに形状がドラゴンと
         なっています。

大橋ダムロボ

長沢ダムロボ

大森川ダムロボ

稲村ダムロボ

また、当社ダム18箇所の四季折々の魅力を動画で伝えるをDAMovie(ダムービー)を当社HPで配信しています。

DAMovieサイト画面

PR拠点「エネルギープラザ本川」

(大石所長)
更に水力発電所をPRする拠点として「エネルギープラザ本川」が本川水力センターに併設されており、コロナ禍以前では年間2,000人を超える見学者が訪れていました。

見学では、水力発電所の役割や仕組みなどの紹介、本川発電所やダムの見学なども行っています。

エネルギープラザ本川

エネルギープラザ本川 展示状況

大橋ダム見学風景

(WEC)
それでは最後になりますが一言お願いします。

■「地域と共に」の想いを大切に

(大石所長)
これまで紹介してきた様に本川水力センターのダムや発電所については、昭和初期からと歴史は古くその間、地元関係者や関係市町村等のご理解やご協力により円滑に発電事業が行われています。
現在も地元のお祭りや河川清掃、イベント等の活動に積極的に参加し、地域の皆さまに寄り添うとともに今後も本川水力センターのスローガンとして掲げている「地域と共に」の想いを大切に歩んでいきたいと思います。

河川清掃状況

地元イベントの運動会に参加

最後に、現在、電力業界をとりまく環境は厳しいものがありますが、水力発電所は純国産エネルギーとして重要であり、今後も安定した運転ができるよう、水力センター所員一丸となってダム管理業務に努めていきたいと思います。

本川水力センター全景「地域と共に」

大橋ダムを背景にした大石所長

(WEC)
本日はありがとうございました。

■四国電力水力発電所HP:https://www.yonden.co.jp/energy/p_station/hydro/index.html