(聞き手:水源地環境センター 名古屋事務所 可児)
(WEC)
「ダム管理所長に聞く」第50回は、岡山三大河川の一つである高梁川の支川成羽川において発電所を管理する中国電力(株) 東部水力センターの小畑所長にお伺いしました。
小畑所長、どうぞよろしくお願いします。
では、はじめに成羽川における東部水力センターのダム・発電所の概要についてお話し下さい。
(小畑所長)
高梁川
水系
成羽川
は、広島、鳥取県境
道後山
(標高1,268m)に源を発し、名勝帝釈峡(たいしゃくきょう)で名高い帝釈川をはじめ大小の支川をあわせて岡山県に入り
吉備
高原を深く刻んで東流し、高梁市において本川に注ぐ、高梁川の一大支川(流域面積950km2)です。
当社は、成羽川流域において、成羽川に3基のダム、支川である帝釈川に1基のダムを設置し、合計6箇所の発電所で約34万kWの発電を行っています。
高梁川水系図
帝釈川ダム全景
新成羽川ダム全景
田原ダム全景
黒鳥ダム全景
(WEC)
次に、成羽川における電源開発の歴史についてご紹介ください。
(小畑所長)
まずはじめに帝釈川ダムについてご紹介します。
成羽川上流域の帝釈川では、大正13年3月に両岸石灰岩の絶壁をなす河川の狭隘部に帝釈川ダムを設置し帝釈川発電所(3,692kW、その後4,400kW)を建設しました。この帝釈川ダムは、我が国では最も古い時代のダムに属し、当時としては国内最大級であり、堤頂長が高さの半分しかなく正面からは楔状という他に類を見ないダム形状をしていました。また、ダム完成後数年を経て、昭和5年に堤体を9m嵩上げし、さらに昭和19年に洪水吐の横越流部に111門の木製ゲートを設けて貯水位を1.3mあげています。その後、平成15年から18年には帝釈川ダムの保全対策工事を実施し、これにあわせ新帝釈川発電所(11,000kW)を建設し、既設帝釈川発電所は規模を縮小(2,400kW)しました。
(WEC)
堤高堤頂長比は日本一のダムと伺ったことがあります。すごく興味がそそられるダムですが、横越流部の111門の木製ゲートについて、もう少し詳しく教えていただけませんか?
(小畑所長)
洪水吐は、昭和41年3月に、横越流を廃止して、鋼製ゲート2門を有する構造に改造されました。
かつての設備を直接知る社員は現在いませんが、左岸の越流堤頂に沿って木製の転倒ゲートが設けられており、ゲート開閉時には苦労したと聞いています。洪水の減水時に、転倒ゲートを元に戻すために、30cm角のコンクリートブロックをゲートの上流側に取り付けたことや、流木の取除きのために、幅50cm程度の通路から身を乗り出して作業したことなどが伝えられています。
ダム洪水吐(昭和41年改造前)
ダム洪水吐(昭和41年改造後)
(WEC)
ありがとうございました。
引き続き他のダムなどにつきましてもご紹介ください。
(小畑所長)
続きまして新成羽川ダム、田原ダム、黒鳥ダムについてご紹介いたします。
帝釈川発電所の下流の成羽川では、昭和3年に流れ込み式の成羽川発電所(12,900kW)を建設していました。その後、昭和30年代の瀬戸内沿岸の目覚ましい工業発展に伴う電力需要に対する安定した供給力を確保するため、また岡山県で企画された河口水島地区の工業用水も確保するために、新成羽川ダムと田原ダムを新たに設置し、両ダムを利用した混合揚水式発電所である新成羽川発電所(303,000kW)を建設しました。また、下池である田原ダムを利用して田原発電所(22,000kW)、さらにその逆調整池である黒鳥ダムを利用して黒鳥発電所(2,200kW)を建設しました。
成羽川水系の高ダムおよび発電所
新成羽川ダム工事状況(下流側)
新成羽川ダム工事状況(上流側)
(WEC)
非常に古くから電力開発に着手されたわけですが、高梁川本川ではなく成羽川に目をつけられたのはどのような事情によるものでしょうか?
(小畑所長)
成羽川は、高梁川流域の約3分の1を占める一大支川で、河川流況が年間を通じて安定しています。このため、倉敷・福山地区の発展に有益な電源として、早くから水力発電所が開発されてきました。特に、大正13年竣工の帝釈川発電所や昭和3年竣工の成羽川発電所が先行して開発されたことから、成羽川流域での河水の一層の有効利用をはかるべく、戦後の電力需要の増加に応じてさらなる開発が進んだものと考えられます。
(小畑所長)
さきほど、帝釈川ダムが保全対策工事を実施したとお話しましたが、もう少し詳しくお話します。
帝釈川ダムは、完成以来電力安定供給の一翼を担うとともに地元観光資源としての役割を果たしてきましたが、経年により老朽化が進んでいたこと、トンネル式の洪水吐の放流能力が小さく貯水池運用に制約を与えていたこと、最大で約35mの未利用落差があり貴重な水資源の有効活用が十分になされていなかったことなどから、平成15年から18年にかけて抜本的な保全対策工事を行い、近代的なダムに転換しました。具体的には、既設堤体の上部を切り欠き、そこへ堤体越流式の洪水吐を増設し、洪水処理能力の向上を図るとともに、既設堤体の下流面にコンクリートを打増し、ダムの安定性の向上を図りました。
帝釈川ダム保全対策工事の概要
帝釈川ダム(保全対策工事前)
帝釈川ダム(保全対策工事後)
保全対策工事状況(ダム下流から)
保全対策工事状況(ダム上流から)
(WEC)
続きましてダムの管理状況などについてご紹介ください。
(小畑所長)
当社は、中国地方を東西にわけてダム・水力発電所を管理しています。成羽川流域のダムについては、岡山県のほか鳥取県、島根県東部、広島県の一部を管轄している東部水力センター(統括拠点:鳥取県米子市)のうち岡山県高梁市成羽町の事務所に勤務している高梁土木課総勢14名で対応しています。主に、ダムをはじめとした水力土木設備の巡視・点検や修繕工事、出水時等のゲート放流などを行っています。
東部水力センターの概要
(小畑所長)
近年の新たな取り組みとしては事前放流があります。
平成30年7月豪雨では、岡山県倉敷市真備地区をはじめ成羽川を含む高梁川流域で甚大な洪水被害が発生したため、高梁川沿川自治体等から新成羽川ダムの治水協力要請がありました。これを受け、当社では技術検討会を立ち上げ、事前放流実施の可能性等について技術的評価を行い、一定の効果があることを確認したことから、翌年の出水期から事前放流を開始しました。
新成羽川ダムの事前放流の大きな特徴として、事前放流は晴天放流になる可能性があるため、当社が事前放流前に巡回警告を行った後に、沿川の自治体(高梁市、総社市、倉敷市)が事前放流中に河川パトロールを行っており、当社だけでなく、地域の方々の協力も得ながら実施しております。
令和2年に全国的に利水ダムの事前放流が実施されるようになりましたが、ダム管理者としては、事前放流は万能ではなく、あくまで避難の時間稼ぎであるということを流域の方々に理解頂きたいと思っています。
新成羽川ダム放流状況(平成30年7月豪雨)
(WEC)
次に、地域の魅力や見どころについてご紹介願います。
(小畑所長)
帝釈川ダムのある帝釈峡は、国の名勝や国定公園に指定された景勝地で国内有数の渓谷です。
そのなかでも、帝釈川ダムのダム湖である神龍湖は、春の新緑、秋の紅葉など四季折々の景色を楽しむことができ、湖畔の散策コースだけでなく、遊覧船やカヤックで、両岸にそびえる断崖や奇岩などの変化に富んだ渓谷美を湖面から見ることができます。
また神龍湖上流には、隆起と侵食作用によりできた長さ90m、幅19m、高さ40mもある日本一の天然橋である「雄橋」があります。この帝釈峡は、昨年、名勝指定100年、国定公園指定60年を迎え、多くの方が訪れています。毎年ゴールデンウィークのはじめには、湖水開きが盛大に開催され、当社も参加しています。
帝釈峡湖水開き |
雄橋〔出典:庄原観光ナビHP〕 |
紅葉の帝釈峡〔出典:庄原観光ナビHP〕 |
(小畑所長)
東部水力センターでは、水力発電事業に関する理解促進活動(大型工事、ダム事前放流など)の一環として、プロのカメラマンが撮影した写真を用いたダムや水力発電所の写真展を開催し、ダム・水力発電所の重要性や魅力のPRを行っています。写真展は、当社のPR施設だけでなく、流域の方々により身近に感じて頂けるよう関係自治体の施設や地域のお祭りでも開催しています。
また、高梁市庁舎および帝釈川ダムの神龍湖湖水開きの写真展では、それぞれ新成羽川ダムと帝釈川ダムのダムカードを限定で配布しました。
特に今年は帝釈川ダムが完成して100年であり、限定中の限定で100周年記念ダムカードの配布を行い、遠方の方を含め多くの方にご来場頂きました。
写真展(帝釈峡湖水開き)
ダムカード(帝釈川ダム)
ダムカード(新成羽川ダム)
(WEC)
最後に一言お願いします。
新成羽川ダムを背景にした小畑所長
(小畑所長)
私自身、帝釈川ダムの保全対策工事と新成羽川ダムの事前放流検討に携わり苦労もしたことから、この成羽川流域は思い入れが強く、特に出水期においては、いつも気になっています。
言うまでもなく、水力発電事業は、地域の方々のご理解とご協力なくして行うことはできません。引き続き、地域のみなさまからの信頼を得ながら、発電事業を続けられるよう所員一丸となって取り組んでいきたいと思います。
■中国電力水力発電HP:https://www.energia.co.jp/energy/general/water/water.html