年頭のご挨拶

一般財団法人 水源地環境センター
理事長  平井 秀輝

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

昨年は、元旦の能登半島地震に始まり、前線性の降雨や台風による山形県、石川県などでの浸水被害など、数多くの自然災害に見舞われた1年でした。そのような中、7月豪雨や台風第10号などの大規模出水でも、ダムは事前放流や洪水調節により確実に流域の被害軽減に努めました。これら多くのダムの働きの中でも、とりわけ皆様と共有しておきたい2つのダムがありました。

まず、石川県が管理している小屋ダムです。能登半島地方では、地震からの被災地の復旧・復興が進められている最中のわずか9カ月後に、大水害に見舞われたことは記憶に新しいところです。地震により幾多のインフラが被災する中、小屋ダムは震源域からわずか10数kmに位置し、震度6強を経験しながらも天端舗装のクラックの損傷などにとどまり、堤体の安全性を損なうような被害は発生しませんでした。一方で、9月の能登半島豪雨に際しては、既往最高貯水位を記録しながら2度にわたる洪水をいずれもピークカットし、下流の水位を低減いたしました。津波によりダム下流の鵜飼川沿岸域(珠洲市)は大きな被害が生じてしまいましたが、9月豪雨ではダムが鵜飼川沿川の洪水被害軽減に貢献いたしました。まさに、宮沢賢治の言葉を借りれば『大地震ニモマケズ 西カラ線状降水帯ガ来レバ洪水ヲ貯メテヤリ』という状況でありました。その功績はあまり語られませんでしたが、黙々とミッションを遂行したという知らせには感激もひとしおでした。

もう一つは岩手県が管理している滝ダムです。滝ダムは、かつて平成28年に台風第10号による豪雨に際し、通例ならば異常時洪水防災操作(流入量と同量を放流)に入る水位でありましたが、特別防災操作により、洪水時最高水位(サーチャージ水位)まで貯留し、河川氾濫を防いだことは今でも語り継がれる有名な話です。その滝ダムで、今般の台風第5号に際して更なる高度運用を行いました。まず、気象予測を活用しながら予備放流に加えて事前放流を行い、治水容量を確保して台風を待ち受けました。台風が襲来すると、ダムが満杯に近づき一旦は異常洪水時防災操作に入ったものの、気象予測により「まだ貯められる」との判断にて、限界まで洪水を貯留して、今回も下流の河川氾濫を回避いたしました。この働きが新聞、テレビで報道され、ダムの役割が地域の方にしっかり再認識されました。ダムに光が当たった知らせに、先の小屋ダムとはまた違った感慨に浸ったところです。岩手と言えば、大谷選手の出身地です。昨年、MLBで3度目のMVPを受賞されました。滝ダムも、さながら2度目のMVPの獲得といったところです。50(本塁打)―50(盗塁)のような大記録を達成した大谷選手のように、滝ダムもオペレーション技術や気象予測技術のさらなる進歩により3度目のMVP受賞となるような働きも期待されるところです。

以上、2つのダムを紹介させていただきましたが、これらの運用を支えているのは不断の技術開発です。また、それと同時に高度運用にはダムが健全でなければなりません。いざ鎌倉、いざ関ヶ原で、ダムが満砂ではイクサになりません。気候変動により降雨が激甚化する中で、当センターでは、この2つのダムのような喜ばしい知らせを一つでも多く聞けるように、引き続きダムの効果的・効率的な運用に向けた研究、技術開発に努めて参りたいと思います。

最後に、昨年の当センターの2つの大きな受賞についてご報告させていただきたいと思います。

まず、昨年の土木学会デザイン賞において「八ッ場ダム」が優秀賞を受賞し、その関係者として当センター職員がデザイン監理等で栄誉を受けました。周辺の観光施設とともに、ダム自体が観光資源としてみせるデザインなどの工夫が評価されたものと思います。

また、(一社)応用生態工学会は、昨年、元会長の故廣瀬利雄氏からの遺贈金を基に3部門の表彰制度を設けましたが、当センターではこのうちの社会実践賞を応用地質株式会社とともに受賞の栄に浴することができました。28年間に渡る三春ダム貯水池および周辺地域における生態系や環境等の自主的な調査研究が評価されたものと思います。当センターの理事長でもあられた廣瀬様の賞を受賞できたことに喜びが倍増するとともに、応用生態工学会の設立に尽力された廣瀬様の熱意と御意志をしっかり受け止め、応用生態工学の発展に思いを新たにしたところでもあります。また、そして何より、これらの受賞は、多くの方々のご協力の賜物であります。このような賞がこれからも受けられるよう皆様とともに技術の研鑽、研究に尽力して参ります。

結びに、本年も引き続き水源地ネットを通じ、ダムや水源地域に関するタイムリーな話題や水源地域活性化に資する情報を発信するとともに、皆様の情報交換の場となりますよう努めて参ります。どうか、旧年同様のご指導、ご支援をお願いいたしまして年頭のご挨拶とさせていただきます。