国際大ダム会議第92回年次例会 参加報告

一般財団法人 水源地環境センター 調査部兼研究第三部 主任研究員 井関宏崇

1.第92回年次例会の概要

第92回年次例会は「Dams for People, Water Environment and Development(人々、水、環境、発展のためのダム)」をテーマに2023年9月27日から10月3日にかけてインド・ニューデリーのBhrat Mandapam(会場名)で開催された(図-1)。日本からは、コンサルタントやダムに関連する官庁、電力会社、学識経験者などから62名(同伴者を含む)が参加した。当財団法人からは、日本大ダム会議会長として平井理事長が、国際シンポジウム口頭発表者として大杉次長(技術委員会のうち環境委員会にも出席)、井関主任研究員が参加した。

年次例会では国際シンポジウム/ポスターセッションのほかワークショップや地域会議など技術的内容の報告・情報共有の場に加え、シティツアー、若手技術者交流会、エクスカーションといった文化交流行事も開催された。以下には著者が参加したプログラムについて概要を報告し、最後に年次例会開催中に赴いた観光地等について紹介する。

図-1 開催されたインド・ニューデリーの位置図
(下図はGoogle Earthより)

2.参加したプログラムの概要報告

(1)国際シンポジウム

国際シンポジウムは10日1日および10月2日の午前に開催され、全部で9つのセッションが設定された。当財団法人は、「Environment and Social Aspects(環境・社会的側面)」にて口頭発表を行った。

当日の発表では環境的問題に直面し30年以上停滞していたダムプロジェクトを現代基準で再評価したもの、ダムの網場でプラスチック漂流物をトラップすることによる河川の汚染低減、海外ダムにおける現地民の移転補償方法、環境DNAによるダムの魚類相の調査手法、土砂還元を見据えたダム下流の河川環境評価等、河川環境およびダム建設に伴うの社会的影響に関する技術報告が行われた。国際シンポジウムの様子を写真-1に示す。

なお、当日はインド人座長がなかなか会場に現れず30分程度開始が遅れた上、日本人以外の発表者は事前に通知のあった持ち時間を大幅にオーバーするなどしたが、特に問題となることもなく粛々と進められた。インドのおおらかさを感じた次第である。

写真-1 国際シンポジウムの様子
(左上:著者発表状況 右上:大杉次長発表状況 下:各社発表後の記念撮影)

(2)ワークショップ

ワークショップは開催期間にわたり随時開催され、全部で10のテーマについて報告の場が設定された。著者は「WS1:Application of Geosynthetics in Dam Engineering(ダム工学におけるジオシンセティックスの適用)」に参加した。このワークショップはChitra博士(インド水資源機省直属の研究機関である中央土壌・材料研究所所属)座長のもと進められ、最初にChitra博士からジオシンセティックスの概要について説明があった後、3名がインド国内における適用事例について説明するといった形式で進められた。本ワークショップの様子を写真-2に示す。

発表の場では著者が知らなかったインドにおけるジオシンセティックス(ジオメンブレン)の使い方が紹介されるなど、非常におもしろいものであった。各ワークショップの概要報告は日本大ダム会議の会誌「大ダム」に掲載される予定であり、興味のある方はぜひご覧いただきたい。

写真-2 ワークショップ(WS1)の様子

(3)若手技術者交流会

10月2日の夕刻から各国の若手技術者交流会(35歳以下)が開催された。当日は開催国インドを始め、欧米諸国、北米、アジア各国から数十人が参加し、また業種としても学生、行政(ダム管理者)、コンサルタント、ゼネコン、銀行等多岐にわたるものであった。日本人は著者含め4名が出席した。当日はアイスブレイクとして冒頭に簡単なゲームが行われるなど、出席者同士の交流を促すよう配慮されており国籍を超えた活発な意見交換が行われていた。

著者はインド州政府ダム管理者やネパールの水力計画に携わっている方と主に意見交換をした。インド州政府ダム管理者には、彼が「My Dam」と言っていた主に管理しているダムについて話を伺った。本ダムは流域面積約62,000km2、高さ105m、堤頂長5,000mあるダムであった。放流中の写真も見せてもらったが、その規模感に圧倒されるとともに、「My Dam」がいかにすごいのか嬉々として語る様子に少し羨ましさを覚えた。また、ネパールの水力計画に携わっている方には、ネパールは水も多く高低差もあり水力発電には最適であるが、ヒマラヤ由来の「Sedimentation(堆砂)」が問題となっていることを伺い、堆砂問題が世界の課題になっていることを肌感覚で認識することができた。

(4)シティツアー

文化交流行事の一環として実施されたシティツアーに参加した。シティツアーは観光バス社内からインド・ニューデリーの町並みおよび観光施設を見て回る方式であった。シティツアーの一部を写真-3のとおりお届けする。

写真-3 シティツアーの様子
左上:乗車した観光バス 右上:歩道で寝ている人の横を通る原付という日本では馴染のない状況      
左下:写真中央にポーズをとってくれたお兄さん(インドは写真好きな人が多い印象)           
右下:オールドデリーの町並み。ありえない密度で人が歩いておりニューデリーとはかなり印象が異なる。

(5)その他訪問した施設

初インド出張ということもあり、スキマ時間を積極的に活用して寺院やローカル施設にて現地視察を行った。インドには有名な寺院が多いが、入場の際に手荷物の保安検査があったり、カメラ等の機材は持ち込み不可であったりとセキュリティが厳しいところが多かった。ここでは寺院ではなく訪問したローカル施設について紹介する。

(5)-1 デリー国立動物園(NATIONAL ZOOLOGICAL PARK NEW DELHI)

インドの動物の生態系を調査するため、国際大ダム会議の会場付近にある動物園を訪問した。意外なことに入園はネットチケット限定であり、チケットを入手しようとしたところインドローカルの電話番号の入力が必須であることが判明した(つまり、観光で訪れた外国人が単独で入ることができない)。親切にも当日市内を案内してくれたドライバーがチケットを入手してくれ、彼と一緒に入園することとした。

動物園はインドサイやインドゾウ、ホワイトタイガーといった大型動物をはじめ多数の動物が無柵放養式で展示されており、見応えのあるものであった。同伴してくれたドライバー(新婚)もニューデリーには出稼ぎに来ているらしく、今度奥さんを連れてまた来ると喜んでいる様子であった。また、ニューデリーはやはり道端にはゴミが多くお世辞にもキレイとは言いがたかったが、当該動物園ではポイ捨て低減策として動物園内で購入した飲料のペットボトルを帰り際に受付で渡すと一部キャッシュバックするという取り組みを案内していた(何故か我々はキャッシュバックされなかったが・・・)

以上、動物園での現地視察状況を写真-4に示す。

写真-4 現地視察(動物園)の様子
左上:展示状況 右上:野生なのか飼育されているのか曖昧なサル(このほか国鳥であるクジャクやリスもいた)
左下:インドゾウを写生するインドの幼稚園児と思われる集団                         
右下:動物園入口での記念撮影(左:大杉次長、中央:ドライバーのSatish氏、右:筆者)            

(5)-2 INAマーケット

インドの人々の生活様式について造詣を深めるため、ローカルマーケットにて現地視察を実施した。当該マーケットは生鮮食品をはじめ衣類・家電など生活に必要なものは何でも揃う場所であり、外国人は我々以外ほとんどおらずローカル感満載であった。マーケットを練り歩きながら売り物に関して色々と質問したが、いずれも嫌な顔ひとつせず、チップを要求されることもなく丁寧に教えてくれたのが印象的であった。また、生鮮食品、特に肉に関しては、ヤギの頭が売っていたり鶏が捌かれていたりと結構ショッキングなものが多かったので訪問する予定の方は注意が必要である。

以上、マーケットでの現地視察状況を写真-5に示す。

写真-5 現地視察(マーケット)の様子
左上:マーケットの様子 右上:魚について説明を受ける大杉次長             
左下:魚の産地について詳しく説明してくれた人                     
(なお、彼は”This is Tuna”と言っていたが大杉次長によるとこれはカツオとのこと)
右下:日本で使えるカレースパイスを希望したら店頭にないスパイスを出してくれた人と筆者

(6)所感

インドはスリが多いと聞いており、かなり用心していたがニューデリーではそのような心配を感じる場所は少なかった。今回の出張でインド人は意外とフレンドリーな人が多く、写真撮影やSNSでのフレンド申請など外国人と関わることに抵抗のない人が多いと感じた。また、インド人は朝昼晩カレーを食べるとはよく聞いていたが、本当にそのとおりであり宿泊先の朝食ビュッフェでも定例会会場のランチでもメインはすべてカレーであった。動物園とマーケットに連れて行ってくれたドライバーにランチを御馳走しようとしたところ高級カレー屋を希望されたのも驚きであった(著者の説得でイタリアンに変更したが、ご不満な様子だった)。インド人のカレー好きは想像以上であり、この環境でもずっとカレーを食べ続けることができる日本人が本当のカレー好きなのかもしれない。

なお、滞在中は特に水には注意していたつもりであるが、ICOLDの最後の2日間は腹痛に襲われ日本に帰るまで何も口にすることができなかった。昔よりはよくなったと聞いてはいるものの、まだまだ注意が必要と感じた。今後インドに訪問する予定の方はくれぐれも注意いただきたい。