研究第二部 上席主任研究員 若尾拓志
令和6年10月26日に、熊本県にある緑川ダムで開催された「美里町合併20周年記念 ランタンフェスティバル」と、併せて開催された「緑川ダム 緑川第一発電所合同見学会」へ参加してきたので報告します。
はじめに、緑川ダムのある、熊本県下益城郡美里町を紹介します。
美里町は平成16年11月1日に、熊本県下益城郡「中央町」と「砥用町」の2町合併により誕生しました。町は熊本県のほぼ中央に位置しており、熊本市から南東へ約30km、車で約40分の距離にある自然豊かな地域です。熊本空港からは車で約1時間です。
緑川ダムは昭和48年に完成した多目的ダムです。緑川ダムの特徴の一つに、堤体が、重量式コンクリートダムである主ダムと、ロックフィルダムである脇ダムの二つからなることがあげられます。主ダムの堤高は76.5m、貯水池である「肥後みどりかわ湖」の総貯水容量は4,600万m3です。脇ダムの上流側には、通称、「脇ダム広場」と呼ばれている広場があり、今回のランタンフェスティバルもここで開催されました。この広場では毎年1月に「みどりかわ湖どんど祭り」が開催されるなど、地域の様々な催しで利用されています。
WECはこれまでに、ダムフォローアップや堆砂対策検討で、緑川ダムの維持管理のお手伝いをさせてもらっています。
主ダム下流面 | 脇ダム上流面 |
肥後みどりかわ湖 | ダム管理所 |
緑川ダム
ランタンフェスティバルに合わせて、緑川ダム管理所と熊本県企業局により、緑川ダムと緑川第一発電所の見学会が開催されたので、こちらにも参加してきました。
見学会(事前予約制)は、資料館(みどりっ湖情報室)に集合、ダムに関する座学、資料館の見学、監査廊を通ってオリフィスゲート見学、緑川第一発電所見学、熊本県企業局の事業に関する座学、という流れでした。私が参加した回は子供も多く参加していました。この見学会は座学が2回もあり、ダムや水力発電の仕組みについてじっくりと勉強することができました。また、日頃は見ることの出来ない監査廊を歩けたり、更新したばかりの緑川第一発電所の発電機を見せてもらえたりと、有意義なイベントでした。
見学会では、発電所カードと、更新されたばかりのダムカードをいただきました。
集合場所 | ダム勉強会 |
堤体見学 | 監査廊内見学 |
オリフィスゲート見学 | 発電機見学 |
水力発電ほか勉強会 | 参加記念品 |
見学会
当日は開始前まで小雨が降っていましたが、開始後は雨もやみ、過ごしやすい曇り空でした。
今回のイベントは美里町合併20周年記念ということもあってか大変盛況で、事前予約販売をしていた駐車券とランタンフェスティバル参加券は完売でした。駐車場は、ダム周辺の有料駐車場のほか、町内に5箇所の無料駐車場が準備され、そこからはシャトルバスが運行されました。
イベントは正午から始まり、日没まではマルシェと音楽フェスが行われました。夕方にかけて人がどんどん集まり、事前に申し込んだ方がスカイランタンの打ち上げ準備をはじめ、日没後、スカイランタン打ち上げと、花火の打ち上げがありました。スカイランタン打ち上げでは、スカイランタンが浮かぶ向こうに、ロックフィルダム(脇ダム)が見える、ダムならでは景観がとても印象的でした。
会場全景 | 音楽フェス |
マルシェ | スカイランタン打ち上げ① |
スカイランタン打ち上げ② | 花火打ち上げ |
ランタンフェスティバル
最後に、緑川ダムの周辺にある、特徴的な施設を紹介します。興味のある方はぜひ、緑川ダムの見学と合わせて訪問してみてください。
緑川水系からは外れますが、熊本空港から約30分、阿蘇山へ向かって車で走ると、令和6年に完成したばかりの阿蘇立野ダムがあります。このダムは熊本市内に流れる白川の上流にあり、最大の特徴は、通常は水を貯めず、洪水時にのみ水をためて洪水調節を行う洪水調節専用ダム(流水型ダム)であることです。流水型ダムは、川の連続した流水環境が保たれることから自然に近い物質(水、土砂、水生動物など)循環を維持出来る面から環境に優しいと考えられること、堆砂を見込んで確保する容量が相対的に小さいこと等から建設コストの縮減が可能になること等のメリットがあり、国内で建設事例が増えてきています。
運が良ければ、漫画「ONE PIECE」に出てくるサウザンド・サニー号をモチーフにした列車「サニー号トレイン」がダム前を走る様子を見ることもできます。
堤体上流面 | 湛水域 |
堤体下流面と サニー号トレイン |
下流河川 |
阿蘇立野ダム
緑川水系は水力発電が盛んです。例えば緑川ダムで貯めた水は、直下にある船津ダム(熊本県)で調整されながら、3つの水力発電所(緑川第一、緑川第二、緑川第三 いずれも熊本県企業局が管理)により、年間で一般家庭の約27,000世帯分の発電に利用されています。また、「肥後みどりかわダム湖」の上流端付近には大井早発電所(九州電力株式会社)があり、発電に使われた水はダム湖へ注いでいます。
船津ダム | 大井早発電所 |
水力発電関連施設
緑川ダムから肥後みどりかわ湖を見ると、遠くに脇瀬橋という赤い吊橋が見えます。赤い橋といえば、上流にある深さ140mにもなる緑川渓谷には鮎の瀬大橋が架かっています。こちらは斜張橋とラーメン橋で、橋長が390m、タワーの高さが138mと壮大です。
緑川はまた、石橋が有名です。熊本県が発行している「緑川流域 石橋虎の巻 令和3年3月」によると、熊本県にはアーチ式石橋( 目鑑橋)が約320基あり、そのうち緑川流域には80を超える大小さまざまな石橋が残っているそうです。今回はダム下流にある霊台橋(重要文化財)と、ダム上流の支川、五老ヶ滝川にある通潤橋(国宝)を見てきました。霊台橋は単一アーチ橋としては日本最大級の大きさで、昭和40年代までは実際に利用され、バスやトラックも走っていたそうです。一方の通潤橋は現役の灌漑用水路の(通潤用水)一部で、定期的に行われる水路掃除のための放水時には多くの観光客で賑わいます。また通潤橋は、土木構造物としては全国で始めて国宝に指定されました(令和5年指定)。
美里町は九州インフラカード(土木遺産系施設)の一環として石橋カードを作成していて、今回はランタンフェスティバルで配布されているものをいただきました。
脇瀬橋 | 鮎の瀬大橋 |
霊台橋 | 通潤橋 |
九州インフラカード |
橋