大井ダム完成100周年記年実行委員会事務局
(恵那市商工観光部観光交流課 観光企画係 主査)小原 朱音
恵那市大井町と中津川市蛭川にまたがる「大井ダム」は、大正13年(1924年)12月に竣工し、今年で100周年を迎えました。この節目の年を記念し、令和5年度からさまざまな記念事業を実施し、令和6年12月12日(木)~15日(日)には、大井ダムと恵那峡を舞台に「大井ダム完成100周年記念イベント」を開催しました。
この記念事業は、単に過去の功績を称えるだけではなく、観光振興による地域のさらなる発展や、大井ダムの歴史的価値を次世代へと継承することを目的としています。キャッチフレーズ 「ダムに守られ百年、ダムを守る百年」のもと、未来へとつながる意義深い取り組みが展開されました。
ここでは、大井ダムの歴史とともに、記念イベントや関連事業の内容をご紹介します。
大井ダムは、岐阜県を流れる木曽川の中流域に位置し、堤高53.38m、堤頂長275.75m、総貯水容量2,940万㎥を誇る、日本初の発電専用ダムです。大正時代において、重力式コンクリートダムで堤高50m超の建設は世界的にも珍しく、まさに世界規模のビッグプロジェクトでした。
この大井ダムの建設を主導したのは、福沢諭吉の娘婿であり「電力王」と称された福沢桃介(旧姓:岩崎)。彼が推進した木曽川水力発電事業の中心的存在として建設された大井ダムは、完成当時、日本国内最大級のダムとして、関西地方の急成長する産業の電力需要を支えました。その規模や技術革新は、日本のダム建設史における重要な転換点とされています。
大井ダムの概要
大井ダムと大井発電所
恵那峡
大井ダムは、水力発電だけでなく、観光地「恵那峡」を生み出し、地域の経済発展にも大きく貢献しました。奇岩や渓谷美が広がるこの地は、大正9年に地理学者・志賀重昂によって「恵那峡」と名付けられました。ダム建設以前は急流が流れる景勝地でしたが、大井ダムが完成し、川がせき止められたことで、満々と水を湛える静かな湖へと変貌。昭和29年には「恵那峡県立自然公園」に指定され、多くの観光客が訪れる人気スポットとなりました。
現在も、ダム湖を周遊する遊覧船からは、かつての急流の名残を感じさせるダイナミックな岸壁の造形を楽しむことができます。
大井ダムは、日本の産業を支えた発電所としての役割と、地域の観光資源としての価値を兼ね備えた、日本の歴史的にも貴重なダムです。
大井ダムの建設によって誕生した「恵那峡」は、ダム湖ならではの穏やかな水面と、奇岩が織りなすダイナミックな景観が魅力の観光地です。日本初の発電専用ダム「大井ダム」と、その湖畔を彩る雄大な自然、さらにダム湖を間近で楽しめる遊覧船など、自然と人工物が織りなす絶景を堪能できます。
□恵那峡の四季の魅力
恵那峡では、四季折々の美しい風景を楽しむことができます。
春:さざなみ公園の桜をはじめ、花桃やツツジが美しく咲き誇ります
夏:深い緑に映える真っ赤な恵那峡大橋が、鮮やかなコントラストを生み出します
秋:モミジやカエデの紅葉が湖面を彩り、幻想的な景色が広がります
冬:オシドリやムクドリなどの渡り鳥が飛来し、バードウォッチングも楽しめます
□多くの人の思い出の地へ
昭和30年代以降、恵那峡は岐阜県の観光振興を象徴する存在となり、多くの人々の思い出の地 として親しまれてきました。今もなお、訪れる人々に感動と癒やしを与える美しい景観が広がっています。
大井ダム完成100周年記念事業は、100年という節目を迎えるこの歴史的なダムの価値を改めて見つめ直し、地域の皆さんとともにその意義を未来へと継承していくことを目的に企画されました。また、恵那市の魅力を広く発信し、観光交流人口の増加を促すことで、地域の活性化につなげる狙いもあります。
近年、インフラ施設が観光や教育資源として注目される中、大井ダムが持つ歴史的・社会的な役割を伝え、地元経済の活性化を図ることが重要視されました。
そこで、令和5年7月には、市内の商工団体、観光団体、地域住民、大井ダムの所有者・建設者、岐阜県、恵那市などで構成する「大井ダム完成100周年記念実行委員会」を設立。地域一体となって企画・運営を進め、多くの方に大井ダムの魅力を感じていただける取り組みを展開しました。
□大井ダム完成100周年記念WEEK開催
令和6年12月12日(木)~15日(日)、大井ダムと恵那峡周辺を舞台に「大井ダム完成100周年記念WEEK」を開催しました。
この記念イベントでは、世代を超えて楽しめる多彩なプログラムを企画し、延べ8,000人の皆さまにご参加いただきました。
100年の歴史を振り返るだけでなく、未来へとつなぐ特別な4日間。ここでは、その主要イベントをご紹介します。
大井ダム完成100周年記念WEEK
□大井ダム100歳の誕生日を祝う「大井ダム完成100周年Nightショー
令和6年12月12日(木)、大井ダムの竣工からちょうど100年を迎えたこの日、恵那峡公園にて「大井ダム完成100周年Nightショー」を開催しました。
●電気をイメージした光の演出
ドローンが光をまといながら、ももすけ広場から“水の広場”へと灯りを運ぶ幻想的な演出でショーがスタート。
ブルーのイルミネーションが点灯し、会場が祝福ムードに包まれました。
●100基の「恵那峡ランタン(LEDランタン)」飛ばし
●サックス侍による幻想的な生演奏
●冬の夜空を彩る100発の花火
光・音楽・花火が織りなす特別なひとときに、訪れた方々は感動に包まれました
大井ダム完成100周年Nightショー
□FM GIFU公開生放送「恵那Week」
記念イベント直前の12月9日(月)~12日(木)の4日間、恵那峡公園ビジターセンターから、FM GIFU「TWILIGHT MAGIC」の公開生放送を実施しました。
大井ダムをはじめ、市内の観光・グルメの魅力を発信。ダム関係者や観光・グルメに関わるゲストが登場し、「恵那の魅力を大放流スペシャル」と題し、恵那の魅力を全国に届けました。
□大井ダム完成100周年記念式典・講演会
12月13日(金)、恵那峡グランドホテルにて「大井ダム完成100周年記念式典・講演会」を開催しました。ダム関係者、観光関係者、地域住民、ダム愛好者、市議会議員、行政関係者など約500人が集い、100年の歴史を振り返るとともに、未来へとつなげる特別なひとときとなりました。
【記念式典 ~100年の歩みを振り返る~】
●オープニング映像「100年後の未来へ」上映
●大井宿伝統芸能「大井恵那峡とんとん節」披露
●シクラメン栽培功労者へ感謝状贈呈
大井ダムの建設を契機に地域産業として根付いたシクラメン栽培の功労者に感謝状を贈呈。大井ダムが、地域の文化と深く結びついていることを改めて実感する場となりました。
記念式典(シクラメン栽培功労者への感謝状贈呈)
【未来を担う子どもたちの発表】
大井ダムの所在地を校区とする大井第二小学校の6年生児童約80名が、「恵那市の未来について考える ~観光の視点で~」をテーマに学習成果を発表。観光資源の活用アイデアを堂々と提案し、会場からは温かい拍手が送られ、未来への期待が膨らむ発表になりました。
地域の未来を担う子どもたちの希望に満ちた言葉は、参加者の心に深く響きました。
未来を担う子どもたちの発表
【記念講演会 ~歴史と未来をつなぐ物語~】
●オープニング
オープニングでは、大井ダム建設を推進した福沢桃介のパートナー・川上貞奴のオペラを創作・継承する「創作オペラ『貞奴』プロジェクト」と「三郷コーラス」による合唱を披露。
●作家・神津カンナ氏 講演「桃介と貞奴が木曽川に見た夢」
神津カンナ氏は、木曽川水力発電を題材にした小説「水燃えて火」の著者。自身の著書活動を通じて得た知見や、当時の情景を想像しながら心を動かされた経験を、独自の感性でしなやかに語りました。魅力的な語り口に参加者は引き込まれ、歴史の重みと未来への希望を感じる時間となりました。
100年の節目にふさわしい式典と講演会は、大井ダムの歴史と地域の未来をつなぐ、大切な機会となりました。
記念講演会(神津カンナ氏の講演)
□大井ダム完成100周年フェスティバル 開催
12月14日(土)・15日(日)の2日間、大井ダムと恵那峡の魅力をより多くの方に体感していただくため、恵那峡公園をメイン会場に「大井ダム完成100周年フェスティバル」を開催しました。
地域の特産品販売や体験型コンテンツ、ステージパフォーマンスなど、子どもから大人まで楽しめるイベントが盛りだくさん。大井ダムの100年の歴史を祝いながら、地域の魅力を存分に楽しめる2日間となりました。
【観光&特産品を満喫!関係自治体ブース&シクラメン販売】
●関係自治体ブース
14日(土)には、木曽川の発電所関係自治体(長野県上松町・大桑村・南木曾町、岐阜県中津川市・八百津町)、福沢桃介と川上貞奴ゆかりの自治体(愛知県名古屋市)にご協力いただき、各地の観光・文化情報の発信や、特産品販売を実施しました。
●恵那農業高校によるシクラメン販売
前日の記念式典で感謝状を受けた高校生たちが丹精込めて育てたシクラメンは、多くの来場者が手に取る人気商品となりました。
シクラメンを販売する高校生
【バーチャルでダムの内部へ!「大井ダム&発電所VR体験」】
関西電力(株)が制作したVRコンテンツを活用し、VRゴーグルとコントローラーを装着して、大井ダムと大井発電所内部を見学する、大井ダム&発電所VR体験を実施しました。
急勾配のため現地での見学が難しい方へも、最新技術を活用した新しいダム見学体験を提供することができました。
多くの来場者が、リアルではなかなか見ることのできないダムの内部に興味津々で、新たな観光コンテンツとしての可能性を感じるプログラムとなりました。
大井ダム・発電所VR体験コーナー
【幻想的な夜を演出「キャンドルフロート」】
14日(土)の夜、恵那峡遊覧船のりば周辺の湖面に、近隣小学校2校の児童が願いを書いた短冊を貼ったキャンドル1,000個を浮かべました。
湖面にゆらめく温かな灯りが、恵那峡のイルミネーションとホテルの明かりとともに幻想的な風景を演出しました。静寂の中、揺れる灯りが映し出す美しい景色に、多くの来場者が見入るひとときとなりました。
キャンドルフロートの幻想的な風景
【マルシェ&イベントステージで賑わい】
両日開催されたマルシェでは、各日10店舗以上の地元事業者のテントやキッチンカーが並びました。「大井ダムえなハヤシ」はダム好きの方々の人気を集め、多くの来場者が味わいました。また、イベントステージでは、子どもから大人まで様々な出演者がダンスパフォーマンスや音楽ライブを披露したり、来場者に参加を呼びかけて一緒に盛り上がる体操をしたりと、それぞれに工夫を凝らしたパフォーマンスで幅広い年代の来場者を楽しませました。
□大井ダム初の観光放流&特別宿泊プラン開催
【観光放流】
12月14日(土)には、関西電力(株)の全面協力のもと、大井ダムでは記録上初となる観光放流を実施しました。当日の放流時にはダム下流の東雲橋を車両通行止めにし、橋上やダム堰堤上などから約500名の方が見学しました。大井ダムのゲート21門のうち5門を開放し、10分間で9000tの水が放流され、多くの観覧者が動画や静止画の撮影をしました。
大井ダムでは初めての観光放流
【特別宿泊プラン】
また、12月13日(金)から14日(土)の1泊2日で、大井ダム・発電所の見学ツアー、交流会、恵那峡での宿泊をセットにした「大井ダム完成100周年記念 特別宿泊プラン」を催行しました。普段は入ることのできないダム内部を関西電力スタッフによる丁寧なガイド付きツアーで見学し、ダム愛好者同士の交流も深まる、宿泊を含めた特別プランならではの貴重な体験が詰まった2日間となりました。
大井ダム完成100周年記念イベントに加えて、令和5年度から実施した周遊観光事業や広報啓発活動の取り組みもご紹介します。これらの事業は、地域の活性化や観光資源の発信を目的として、さまざまな形で展開されました。
□周遊観光事業
【1年前プレイベント「ONSEN・ガストロノミーウォーキング in 恵那峡」】
大井ダム完成100周年を前に、令和5年11月4日(土)には「ONSEN・ガストロノミーウォーキング in 恵那峡」を開催しました。
恵那峡周辺の7.4kmのコースを歩きながら、地元の食材を使ったグルメを堪能し、終了後は恵那峡の温泉でリフレッシュ。多くの参加者に恵那峡の自然や歴史の魅力を体感していただきました。
ONSEN・ガストロノミーウォーキング in 恵那峡
【ダム巡りと記念カード制作】
「ダム巡り in 恵那市」と題し、市内6カ所のダムや発電所を巡るツアーを実施。オリジナルのダムカードを配布し、6カ所すべてを巡った参加者には、コンプリートカードとカードホルダーをプレゼントしました。
さらに、「恵那ダムフォトコンテスト2024」を開催し、優秀作品は「2025全国さくらシンポジウム in 恵那」で表彰予定です。
ダム巡りと記念カード・ホルダー
【子ども向けダム見学会・歴史講座】
令和6年度の夏休み期間中には、小中学生とその保護者を対象に「大井ダム・発電所見学会」を開催しました。また、大井ダムと恵那峡の歴史を学べる歴史講座も開催し、一部の参加児童は自由研究の題材として大井ダムに興味を持つなどの成果を得ました。
ダム見学会
歴史講座
□広報啓発事業
【各種メディアを活用した情報発信】
ポスター、チラシ、ウェブサイト、SNSを通じて記念事業の情報を広く発信しました。記念ロゴマークは、「無限大:∞」 をテーマにしたデザインで、未来に続く大井ダムの役割を象徴しています。
外部メディアにも協力いただいて情報を発信し、全国的な関心を集める結果となりました。
【応援隊との連携】
「大井ダム完成100周年応援隊」として、市内団体や事業者にご協力いただき、ポスター掲示やイベントへの出店などで事業を盛り上げていただきました。応援隊の活動を通じて、地域全体で記念事業を盛り上げました。
記念事業のロゴ(左)とポスター
【記念グルメおよび記念土産の制作】
市内事業者などに「大井ダム完成100周年」をテーマにしたオリジナル商品やグルメを開発していただきました。ダムカレーや大井ダムえなハヤシ、ロゴマーク付きのカップドリンクなど、地域の魅力を味わえる商品が登場しました。
記念グルメ(大井ダムえなハヤシーとロゴマーク付きカップドリンク)
□2025全国さくらシンポジウム in 恵那
記念事業の最後を飾るイベントとして、令和7年4月4日(金)・5日(土)の2日間にわたり、「2025全国さくらシンポジウム in 恵那」を開催します。
このシンポジウムは、地域で実践されている桜の保全管理活動の事例発表などを通じて、地域住民と行政が一体となって桜の名所づくりを進めることの大切さを再認識し、桜を活用した地域の観光振興や景観美化など特色のあるまちづくりの発展を目的としたもので、全国の桜の名所を舞台に毎年開催されています。
「未来へつなぐ恵那のさくら」をテーマに、大井ダムの建設によって桜の名所となった恵那峡を紹介予定です。ご興味がございましたら、ぜひこの機会に足をお運びください。
詳しくは恵那市ホームページ【案内】2025全国さくらシンポジウムin恵那の開催について【https://enatabi.jp/ooidam/sakura-symposium/】を御覧ください。
さくらシンポジウムの概要
さくらシンポジウムちらし
大井ダム完成100周年記念事業を通じて、ダムや恵那峡の歴史的・文化的価値を再認識し、地域への貢献と未来への可能性を感じる貴重な機会となりました。今後も地域と連携し、持続可能な社会を目指して取り組みを続けていきます。記念事業の実施にご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げ、引き続きのご支援をお願い申し上げます。