研究第三部 主任研究員 平岡康介
応用生態工学会(https://www.ecesj.com/)は、人と自然の共生をめざす学際的な学会です。工学や生態学を中心に、研究者や実務者が参加するだけでなく、国土交通省など行政の関係者も多く関わっていることが特徴で、科学的な研究と現場の課題をつなぐ場となっています。
学会においてダムも重要なテーマのひとつです。治水や利水を目的として建設されたダムは、河川の連続性の分断、水質や土砂動態の変化、生態系への影響など、多くの環境課題を引き起こしてきました。貯水池という新しい環境も生み出し、そこをどう管理するかは流域の生態系や地域社会に直結する課題です。
これらを理解し、より良い管理に結びつけることは、まさに応用生態工学的な実践のテーマといえます。
2025年度の全国大会は、9月11日から13日まで新潟市の新潟大学を中心に開催されました(https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/eces2025)。研究発表やポスターに加え、特定のテーマに焦点を当てた自由集会も開かれました。その中から、水源地環境センターが関わった二つの自由集会を紹介します。
一つ目は、水源地生態研究会によるミニシンポジウム「これからのダムの生態系管理はどうあるべきか?」です。
水源地生態研究会は、水源地域の環境問題解決に資する科学的成果を得、水源地域のあり方を検討する研究会で、大学等の研究者数十人が関係する組織です。水源地環境センターが事務局をしており、現在2020-2024年度の成果をとりまとめ、次の研究フェーズに向かう議論をしています。
今回のシンポジウムでは、2020-2024年度の研究から、ダム湖の水温プロファイルや生態系の特徴、気候変動下での水質管理、流砂環境と生態系保全の課題など、研究成果が報告され、これからのダム環境研究をめぐり議論が交わされました。
会場に参加した、次世代を担う若い研究者からの発言もあり、研究会が次のフェーズへ進む節目の場となりました。

「これからのダムの生態系管理はどうあるべきか?」 開催状況
二つ目は「河川・ダムに関するデータベースの意見交換会」です。
日本の河川やダムでは、流量・水位・水温・水質、生物相など多様なデータが長期にわたり取得されています。しかし、これらは管理者が自らの業務に使う前提で蓄積されており、研究者が広域・長期の解析に使うには必ずしも利用しやすい形ではありません。また、多様なデータベースを組み合わせた包括的な研究も盛んにおこなわれつつあります。
今回は、企業や地方自治体のデータベースの活用が中心的な話題となりました。データの蓄積と公開については、小さな一歩ずつでも前進することの意義が確認され、参加者の関心の高さがうかがえました。

「河川・ダムに関するデータベースの意見交換会」 開催状況
応用生態工学会で交わされる議論や研究成果は、水源地域の環境整備の基盤となるものです。今後のダム環境研究と学会には、単に影響を評価するだけでなく、地域社会とともに課題解決を考え、持続可能な流域の姿を描く役割が求められています。
ダムのある流域をどう未来に引き継ぐのか―そのための実践知を共有する場として応用生態工学会を活かし、水源地域の将来像をともに考えていきたいところです。