2018.01掲載
一般財団法人 水源地環境センター
研究第三部 部長 原田 昌直
水源地ネット読者の皆様。「四国八十八箇所」という言葉を一度は耳にしたことがあると存じます。これは四国にある空海(弘法大師)ゆかりの88か所の寺院の総称で、この四国八十八箇所を巡拝することを「四国巡礼」「遍路」と称しています。ちなみに文化庁により日本遺産の最初の18件の一つとして「四国遍路ー回遊型巡礼路と独自の巡礼文化」が選定されています。
では、「四国堰堤ダム88箇所巡礼」をご存じの方は、どのくらいいるのでしょうか?
企画者((四国堰堤ダム88箇所巡礼実行委員会の佐藤哲也委員長)の言葉を借りると「遊びの延長」とのこと。)はそれまで「讃岐うどんの88箇所巡り」「四国酒蔵88箇所巡り」「四国のガチな温泉88箇所巡り」などを企画し活動していたところ、ひょんなきっかけと関係者(ダムに愛情を持つ方々)の熱意に巻き込まれ、悪戦苦闘の末立ち上げた企画です。(詳細はhttp://dam88.info/をご参照下さい。web検索は「四国 ダム 88」)。「ダムと地域の人たちとの心情的な距離を縮めていく」「古き良き日本が残る四国の文化や風土を四国島外の人に知ってもらう」ことを目的としています。
四国本島にある88の堰堤を「札所」、周辺離島にある20の堰堤を「別院」として、計108の札所を選定し、管理者の協力も得て本企画が開始されました。
この6年間で631名の方が登録され、このうち66名の方が全88箇所を巡礼され(「ダム神」としてweb内で表彰されています。)るなど、少しずつではありますが関心が高まりつつあります。
全20名余の実行委員の一員でもある筆者は、この度愛媛県今治市大三島で開催された委員会及び番外札所巡礼に参加する機会を得ましたので、本稿において「地域資源を活かしたダムツーリズム」の一事例として、皆様に紹介させていただく次第です。
本家の巡礼では決められた手順(一般的には、鐘を一回突き~本堂において燈明・線香・賽銭を奉納、納札、読経、祈願~大師堂において同様に祈願~納経(納経所において納経帳に朱印と、梵字の種字などを墨書))に従いますが、ダム巡礼においては、管理者のご厚意で堤体傍らなどに置かせていただいた判子を、webでダウンロードした“納経帳”に押印する、という至極単純なものです。(なお、無人で管理している堰堤など、朱肉を常備していないところもありますので、小型の朱肉を持参された方がよろしいです。)
(納経帳の一部 実物はA4サイズ5ページです) |
まとめて一回で巡礼する方は少なく、数回に分けてブロック単位で巡礼する方が多いようです。とはいえ、アクセスは幹線国道沿いの容易なものから、林道を20km程分け入る困難なものまで千差万別です。前出のサイトにもアクセスの上での注意点等の記載がありますので、参考にしてください。ちなみに実行委員長は、全ての札所を高松からバイク・日帰りで廻ったとのことです。
12月9日土曜日、快晴の下、今治駅に集合した委員の面々は、事前会合も兼ね今治名物の某食堂(白楽天)にて「焼豚玉子飯」を昼食としました。
これは、米飯の上にまず薄く切った叉焼(煮豚)をのせ、さらに半熟の目玉焼きをのせてから焼豚のタレで味付けした料理で、元々は「賄い飯」だったものだそうで、2012年に開催された第7回B-1グランプリにおいて「ブロンズグランプリ」に輝いた全国区のB級グルメです。
その後、自動車及びバイクにて風光明媚なしまなみ海道をドライブし、40分ほどで大三島に到着しました。この島にある、別院堰堤札所第1番「
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上浦ダム 大三島本川水系大三島本川に位置する堤高31m、堤頂長161m、堤体積126千m3、総貯水容量155千m3、湛水面積2haの農業用アースダム 堤体から左岸側の写真です。 |
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台ダム 台本川水系台本川に位置する堤高42.3m、堤頂長225m、堤体積92千m3、総貯水容量1790千m3、湛水面積16haの治水、上水道用重力式コンクリートダム 堤体下流部からの写真です。 |
両ダムとも大三島の生活の支えとなっております。平成3年に完成した台ダムのおかげで、平成6年の松山大渇水(松山市が19時間断水となった)においても一度も断水することがなく、ダム完成の効果は絶大でした。
その後、伊予国一の宮である
今後の四国堰堤ダム88箇所巡礼の運営方針(①判子のメンテナンス、②新設ダム「新札所」の設定、③追加したい「価値ある堰堤」の新規登録、④本年度の会計報告、⑤次回の実行委員会(高知県での開催を予定))などについて多岐にわたる議論を行いました。その後の懇親会まで、延々と四国、ダム、委員の身の上など、尽きることのない話で盛り上がりました。
筆者も、現時点では全108札所のうち、30札所しか巡礼できていません。今後も機会を見つけ、四国堰堤札所を巡礼してまいります。また、本家の「四国八十八箇所」の巡礼もいつの日か行いたいと考えています。 四国の文化・風土は実際に行ってみて、人々と語らってみてこそわかります。人里離れた堰堤を見て、またその下流で治水、利水の恩恵を受けている人々の生活に思いをはせてもらえる人が一人でも増えるとうれしく思います。