第12回 東アジア地域ダム会議(EADC)開催に向けたテクニカルツアー準備・確認の現地調査(報告)

一般財団法人 水源地環境センター
研究第一部長 伊藤和彦

1.はじめに

第12回東アジア地域ダム会議(EADC)が、我が国の主催(主催:一般社団法人 日本大ダム会議)で2024年6月3日から6月7日に開催されることとなりました。同会議では、ダム事業の持続可能な維持発展のため共通する課題を討議するとともに、シンポジウム及びテクニカルツアーを通じてダム技術についての情報交換を行っており、今回のシンポジウムのメインテーマは「次世代に向けたダムと貯水池の持続可能な開発・管理(Sustainable Development and Management of Dams and Reservoirs for the Future Generations)」となっています。

今回のテクニカルツアーでは、既設丸山ダムを嵩上げする国内最大級のダム再生事業である「新丸山ダム建設事業」、土砂バイパストンネルを建設した「小渋ダム」の見学を予定しており、その準備・対応として、大会実行委員会名古屋部会にWECからオブザーバーで参加した、去る2024年2月28日~29日の両ダム等への現地調査状況について報告します。

2.東アジア地域ダム会議(EADC)の概要

東アジア地域におけるダム技術交流は、日本の(独)水資源機構と韓国水資源公社(K-Water)、日本の土木研究所・国土技術センターと韓国建設技術研究院・韓国施設安全技術公社などによる交流会議を契機としています。日本大ダム会議 (JCOLD)は、2001年に韓国大ダム会議 (KNCOLD)と日韓ダム技術会議(Japan-Korea Dam Technical Conference)を結び、その後2004年に中国が加わって東アジア地域ダム会議(East Asia Area Dam Conference、以下EADC)が結成されました。

同会議は、2004年に中国( 西安 せいあん )で開催されたのを初めとし、日本・中国・韓国の3カ国の持ち回りで近年では2年ごとに開催しており、ダム事業の持続可能な維持発展のため共通する課題を討議するとともに、シンポジウム及びテクニカルツアーを通じてダム技術についての情報交換を行っています。これまでに3巡し、4巡目の最初のシンポジウムは2018年に中国( 鄭州 ていしゅう )で、前回第11回EADCは韓国( 大田 てじょん )で開催されました。第12回EADCは日本が幹事国となり、名古屋にて開催します。

※引用元:日本第ダム会議WEBサイトhttps://confit.atlas.jp/guide/event/eadc2024/static/Organizing

3.東アジア地域ダム会議(EADC)シンポジウムの概要

東アジア地域ダム会議参加国である日本、中国、韓国に加えて国際大ダム会議参加各国から科学者、技術者、政策決定者など多くのダム関係者の参加を広く募り、第12回東アジア地域ダム会議(EADC)シンポジウムが開催されます。

今回のシンポジウムのメインテーマは「次世代に向けたダムと貯水池の持続可能な開発・管理(Sustainable Development and Management of Dams and Reservoirs for the Future Generations)」とし、このメインテーマを支えるサブテーマとして

(1)気候変動下における貯水池・土砂管理(Management of Reservoirs and Sediment in the era of Climate Change)
(2) ダムの安全評価と調査(Dam Safety Assessment and Surveillance)
(3)ダムの建設・維持管理における新技術とDX(New Technologies and Digital Transformation of Construction and Management for Dams)
(4)ダムと貯水池の環境と生物多様性(Environment and Biodiversity of Dams and Reservoirs)
(5)ダムによる再生可能エネルギーの推進(Promoting Renewable Energy with Dams)が設けられています。

※引用元:日本第ダム会議WEBサイトhttps://confit.atlas.jp/guide/event/eadc2024/static/Invitation

※引用元:日本第ダム会議WEBサイト https://confit.atlas.jp/guide/event/eadc2024/static/program

4.テクニカルツアーで視察が予定されているダムについて

今回のテクニカルツアーでは、土砂バイパストンネルを建設した「小渋ダム」、既設丸山ダムを嵩上げする国内最大級のダム再生事業である「新丸山ダム」を視察する技術見学会が6/6~6/7に予定されており、2日目の新丸山ダムでは、地域に開かれたダムとして隣接する道の駅などの周辺整備と一体となった水源地域振興が行われている「小里川ダム」の見学も予定されています。それぞれのダムについて、国土交通省の公開情報などを参照して以下に示します。

4.1小渋ダム 小渋ダムは、天竜川水系小渋川の長野県 下伊那郡 しもいなぐん 松川町 まつかわまち 上伊那郡 かみいなぐん 中川村 なかがわむら に、多目的ダムとして建設され、昭和44年5月に竣工、同年7月から管理を開始しています。ダムは、アーチ式コンクリートダムで堤高105m、総貯水容量58,000,000m3、有効貯水容量37,100,000m3です。天竜川水系では初のアーチ式コンクリートダムとして、洪水調節、灌漑用水の補給、発電を行うことを目的としています。

写真 4.1.1 小渋ダム本体 下流側(WEC伊藤 撮影)

図 4.1.1 小渋ダムデータ

※引用元:天竜川ダム統合管理事務所WEBサイトhttps://www.cbr.mlit.go.jp/tendamu/dam/gaiyo/kouzo.html

また貯水池への土砂流入を抑制するとともに、ダム地点における土砂移動の連続性を確保するために、平成12年度より土砂バイパストンネル設置等に着手し、平成25年度にトンネル本体が完成、平成28年9月より試験運用を開始しています。

図 4.1.2 土砂バイパストンネル概要図

※引用元:天竜川ダム統合管理事務所WEBサイトhttps://www.cbr.mlit.go.jp/tendamu/dam/bypass/koshibu.html

写真 4.1.2 テクニカルツアーで予定されている土砂バイパストンネル見学吐口部での確認風景(WEC伊藤 撮影)

4.2新丸山ダム(建設中)

丸山ダムは、木曽川水系木曽川の岐阜県 加茂郡八百津町 かもぐんやおつちょう 可児郡御嵩町 かにぐんみたけちょう に、戦前・戦中の電力需要に応えるため昭和18年から工事に着手し、途中、太平洋戦争による工事中止を経ながらも昭和31年に完成しました。

新丸山ダムは、完成から60年以上が経過した丸山ダムを嵩上げし、洪水調節機能の強化等を目的として、昭和61年から事業に着手しました。令和3年からダム本体工事に着手しています。

写真 4.2.1 丸山ダム本体 下流側(WEC伊藤 撮影)

図 4.2.1 丸山ダムと新丸山ダム(建設中)のイメージ図

新丸山ダム建設事業は、木曽川の河口から約90kmに位置する丸山ダムを20.2m嵩上げして機能アップを図るダム再生事業です。丸山ダムの下流側47.5mの位置に、新丸山ダムが丸山ダムに一部重なる形で嵩上げを行います。新丸山ダムの堤体が完成した段階で、ダムからの放流をスムーズに流すために丸山ダムの上部を一部撤去します。

図 4.2.2 丸山ダム・新丸山ダム(建設中)データ

※引用元:新丸山ダム工事事務所WEBサイト
https://www.cbr.mlit.go.jp/shinmaru/201_damunogaiyou/shinmaru_pamphlet_keiryouban.pdf

・ダムの左岸側に転流工を施工。
・丸山ダムの放流に影響ない範囲で基礎掘削を開始。
・ダムの左岸側から先行して施工。
・ダムの中央部・右岸側を施工。 ・新丸山ダムの堤体が完成した段階で、既設丸山ダムの堤体の上部を一部取り壊し。

図 4.2.3 新丸山ダム 本体工事施工ステップ図

より堤体や貯水池周辺斜面の健全性を確認。

写真 4.2.2 テクニカルツアーで予定されている
新丸山ダム建設事業工事概要説明風景(WEC伊藤 撮影)

※引用元:新丸山ダム工事事務所WEBサイト
https://www.cbr.mlit.go.jp/shinmaru/201_damunogaiyou/shinmaru_pamphlet_keiryouban.pdf

4.3小里川ダム

小里川ダムは、庄内川水系小里川の岐阜県 恵那市山岡町 えなしやまおかちょう 瑞浪市陶町 みずなみしとうまち に、多目的ダムとして、建設されました。ダムは、重力式コンクリートダムで堤高114m、総貯水容量15,100,000m3、有効貯水容量12,900,000m3です。洪水調節、河川環境の保全などのための流量の確保、発電を行うことを目的としています。

写真 4.3.1 小里川ダム本体 下流側(WEC伊藤 撮影)

図 4.3.1 小里川ダムデータ

※引用元:庄内川河川事務所WEBサイト https://www.cbr.mlit.go.jp/shonai/origawa/know/2.html

平成9年7月31日に「地域に開かれたダム」に指定された小里川ダムでは、自然を活かしたレクリエーション活動の場として「見て、聞いて、感じる、ふれあいといこいの里」をテーマに、4つのエリアでダム周辺整備が進められ、水源地域振興が図られています。

小里川ダムでは、ダムの構造や役割について理解して頂くため、堤体内部を一般見学者の方々に開放しています。ダム堤体内部には、展望テラス、ギャラリー(監査廊)などがありダム直下からはダムを見上げることも出来ます。

図 4.3.2 ダム堤体の一般開放部分

※引用元:庄内川河川事務所WEBサイトhttps://www.cbr.mlit.go.jp/shonai/oshirase/oshirase/teitaikaihou/

写真 4.3.2 テクニカルツアーで予定されている
小里川ダム事業概要の説明風景(WEC伊藤 撮影)

5.おわりに

本年6月3日から7日までの東アジア地域ダム会議(EADC)シンポジウム開催を直前(1ヶ月)に控えた時期を捉えて、シンポジウム開催後に予定されているテクニカルツアーに関する事前調査の状況などを報告しました。

6月のシンポジウムでは、「次世代に向けたダムと貯水池の持続可能な開発・管理(Sustainable Development and Management of Dams and Reservoirs for the Future Generations)」がメインテーマであり、それを支える5つのサブテーマがあります。  WECとしては、サブテーマのうち、「気候変動下における貯水池・土砂管理(Management of Reservoirs and Sediment in the era of Climate Change)」、「ダムと貯水池の環境と生物多様性(Environment and Biodiversity of Dams and Reservoirs)」の2つに注目しつつ、それらの議論などについて、シンポジウム終了後にまた水源地ネットにて報告したいと思います。