自立した持続可能な水道事業に向けての提言書~50年後の持続可能な水循環日本を目指し、今日から歩む~

一般社団法人 水の安全保障戦略機構
(事務局 日本水フォーラム 執筆責任者:桑原清子)

50年後の水循環日本に向けて

一般社団法人 水の安全保障戦略機構(代表理事:竹村公太郎、事務局:日本水フォーラム)は2024年3月、水道行政移管を契機とした新たな提言※を発表しました。上流取水への転換やダムの弾力的・高度な運用の提案をはじめとする、50年後を見据えた持続可能な水循環ビジョンを示す提言です。その内容は、2024年8月30日に閣議決定された新たな水循環基本計画にも随所に取り入れられています。

健全な水循環は、我が国の経済社会の健全な発展と国民生活の安定向上のカギです。2014年に成立した水循環基本法の目的にその旨が定められています。この水循環基本法に基づいて、内閣に水循環政策本部が設置されています。本部長は内閣総理大臣。その本部で水循環基本計画が策定され、健全な水循環のための具体的な政策が推進されています。

水の安全保障戦略機構では引き続き、この新たな提言の具現化に向けた各種検討会等に取り組む予定です。

※新たな提言
名称:自立した持続可能な水道事業に向けての提言書
略称「提言2024」
水道行政移管の発表後に企画・組成した「持続可能な水インフラ(基盤整備)への展開・再構築検討委員会(座長:眞柄泰基、副座長:坂本弘道・竹村公太郎)において検討が重ねられました。

2024年度より水道整備・管理行政が、厚生労働省から国土交通省及び環境省へ移管することとなっております。これは明治以降の近代日本の水行政の大きな転換であります。私どもはこの水道行政移管を重要な課題と位置付け、将来の持続可能な水道事業のための課題を明確化し、解決すべき方向性を幅広い学識者及び行政関係者により議論することとしました。

その議論の中で、水道行政及び水道事業の課題のみならず流域及び広域水利用圏の持続可能なあり方の課題が明らかになりました。すなわち、日本を巡る社会状況は、急激な人口増加から減少、高度経済成長の変化、都市集中と農林漁村の過疎化、エネルギー高騰そして大規模災害の頻発に直面しており、この傾向は将来さらに厳しい状況になることが予想されます。

このような局面においては、流域及び広域水利用圏に関係している全ての行政・関係者が協力して長期的視野に立ち、課題の解決に当たることが必要であると強く認識され合意されました。

水道事業は国民にとって最も基本的生活基盤であり、経営的に自立した持続可能な運営が重要です。本委員会での意見と提案は、全ての国会議員、関係行政機関、関係機関等のご理解とご協力なしでは成し遂げられません。そのため、本委員会の意見は喫緊の課題であるとして、内閣水循環政策本部長はじめ関係機関、関係者のご理解とご支援をお願いするための提案書とさせていただきます。

1️⃣水道行政移管に関する課題と解決事項

1-1 水道・下水道の連携による広域運営管理
  ・流域及び広域水利用圏の実情に応じた公共と民間の連携体制
  ・水道事業体の広域化と水道水質の保全・料金格差解消への長期計画の策定
1-2 流域及び広域水利用圏の水質管理体制の強化
  ・水道事業行政と水質規制行政の常時及び危機時の連携体制の確立
  ・行政、民間、NPOそして若者たちが参加する上下水道のモニタリング
  ・国の地方支分部局及び地方自治体の上下水道事業の人員増強及びDXシステムの推進

2️⃣水道事業の持続可能な運営に関する課題と解決事項

2-1 公衆衛生と生活環境の維持向上のための上下水道事業の拡充・強化
2-2 自立した水道経営への公営事業の在り方の検討
  ・自立し持続する水道公営事業体の在り方の検討
  ・大規模更新・改修への民間投資の方策の検討
2-3 地方支分局と自治体上下水道部局及び民間企業の人事交流・人材育成
2-4 緊急災害対策派遣隊による上下水道災害の復旧支援体制の強化
2-5 官民協力による上下水道施設・管路の保守点検システムの検討
2-6 官民の上下水道事業の従事者キャリア・アップのシステム創出

3️⃣全員参加の流域会議・広域水利用圏会議の創設

3-1 地方支分局と地方自治体連携による流域協議会、流域治水会議、水質協議会等の連携強化
  ・全ての水利用者間の相互理解の深化と共同事業の検討と実施
  ・流域会議による児童への学習機会の提供と流域会議への若者の参加による次世代人材の育成
3-2 流域の状況に応じた地下水利用と地下水管理の在り方の検討
  ・地下水利用の状況把握と地下水質保全方策の検討
  ・地下水保全のための各種事業と実施体制の検討

4️⃣「持続可能で健全な水循環日本」のための課題と解決事項

4-1 エネルギー及び水質の視点より利水の取水は自然流下へ
  ・利水の取水地点の見直し(上水・工水・農業用水)
  ・下水処理水の水量・水質の視点からの排水地点の検討
4-2 既存ダム・新規ダムによる治水及び利水の安全性の向上
  ・水利用安全向上のための流域間運用及び既存ダムの弾力的運用
  ・水利用安全向上の既存ダム容量配分の見直しと有効利用
  ・気象狂暴化への備えと水利用の安全性向上のための新規ダムの推進
4-3 流域の水利用者の協働による健全な水循環システムの構築
  ・農業用水と水道・工業用水の連携事業の検討と推進
  ・下水処理水の有効利用等の連携による河川維持水量の改善
  ・国土を形成してきた既存農業用水の持続可能な運営への支援
4-4 流域及び広域水利用圏自立のための資金の検討
  ・小中水力発電等による各流域の状況に応じた水基金等の創設
  ・多様な資金による上下水道の更新事業や生態系豊かな環境事業への支援
4-5 危機時の水利用の柔軟な弾カシステムの採用
  ・自然流下取水と下流ポンプ取水の組み合わせによる強靭な水システムの構築
  ・災害危機時の地下水・伏流水利用施設の整備
  ・非常災害時を想定した利水者間の連携等による給水施設の分散化
4-6 全国モデル流域で健全な水循環事業の検討と実施
  ・「愛知県の矢作川・豊川カーボンニュートラル」・「相模川の上流取水の優先利用」・「札幌市豊平川の水源水質保全事業」など、流域ごと、
  広域水利用圏ごとで多様な事業の検討と実施

今後の活動の表明

「持続可能で健全な水循環日本」へ向けて「水の安全保障戦略会議」の中間目標
本提言の具体化のため産業界・学界・有識者等による個別検討会を発足させる
  「上下水道の科学的視点からの課題検討会(仮)」
  「持続可能な水道事業の運営・制度検討会(仮)」
  ・検討会は2024年~2025年の2年間を目標に実施する。
  ・検討会は、2050年の中間目標と2070年の最終目標への方向性を明らかにする