今年8月に国際水圏環境工学会(IAHR)会長のPhilippe Gourbesville氏、国際大ダム会議(ICOLD)名誉副総裁のDean B.Durkee氏、およびGEI Consultants副社長のDavid Gutierrez氏を日本に招聘し、東京と京都において国際セミナーが開催されました。
8月21日に東京永田町の千代田放送会館にて、第3回SIP国際スマート防災セミナーが開催されました。
冒頭、SIP課題「スマート防災ネットワークの構築」※1のProject Directorである東京大学 楠教授より、当該課題全体の研究内容及び検討状況の説明があった後、Gourbesville氏からは「洪水管理:主要な課題と軽減戦略 - 国際レビュー」と題して、世界各国における最近の洪水被害の状況と、洪水の影響を軽減するための運用アプローチの見直し、開発、調整の戦略等について講演いただきました。
またDurkee氏からは「米国のダム安全対策の現状」と題して2017年に米国で発生したオロビルダムの事故の対応とその後の状況などについて、Gutierrez氏からは「ニュー・バラーズ・バーARC放水路 - 予測に基づく貯水池運用」と題して、日本と同様に気象予測を用いてダムの事前放流を行うための2次洪水吐の増設工事計画についてご講演いただきました。
セミナーでは、サブ課題「流域内の貯留機能を最大限活用した被害軽減の実現」の研究責任者である京都大学・角哲也特定教授から、及びサブ課題「リスク情報による防災行動の促進」の社会実装責任者である東京大学・池内幸司名誉教授からの研究開発状況の発表も行われました。

SIP国際スマート防災セミナー(東京)の状況
8月25日に京都大学防災研究所(宇治市)にてスマート防災ネットワークの構築に関する国際セミナーが行われました。
Gourbesville氏からは「水管理分野におけるデジタルツイン:その可能性と限界」と題して、洪水や干ばつの早期警報や災害対策のための河川流域のデジタルツインの利用がもたらす価値と限界について、基本的な概念といくつかの事例が紹介されました。
Durkee氏は、「リスク分析の適用によるリスク情報に基づいた意思決定の支援」と題して、米国の水力発電ダムや世界中の鉱滓ダムの安全管理におけるリスク情報に基づいた意思決定手法(RIDM: Risk Informed Decision Making)の概要とダムへの適用例について紹介されました。
東京と京都での国際セミナーの移動の合間を活用して、招聘者の現地視察が行われました。特にDurkee夫妻は初めての来日ということで、日本文化に触れるいい機会ともなりました。
東京から京都への移動中、福井県に立ち寄り、足羽川ダム建設事業、九頭竜ダム(長野揚水発電所含む)、鳴鹿大堰を視察しました。足羽川ダム建設現場ではRCD工法による堤体打設状況を間近で視察されました。当初のダム計画からダムサイトやダム形式が変更となった現計画への変更の経緯に関心を持たれ、移動中のバスの中でではあったが活発な議論が行われました。
鳴鹿大堰では、治水と利水機能のほか、魚道観察施設の視察では、魚道の適切な運用によりアユやサクラマスの遡上を可能とし堰の上下流の連続性を確保している生態系保全での先進的な取り組みに大いに関心を持たれました。また、大堰の近くにある禅の聖地「大本山永平寺」に寄り、日本の禅に触れられました。
京都では、天ヶ瀬ダムの新設洪水吐トンネルの視察を行い、琵琶湖・淀川水系の水管理の体系、その中での天ケ瀬ダムの役割、さらには新設洪水吐の機能と操作について意見交換を行いました。
また、京都市内では、琵琶湖疎水に関わる疎水記念館、南禅寺水路閣、インクライン、蹴上発電所を視察されました。ほかに、桂川改修に関わる嵐山地区の防水壁ゲートや、桂離宮における伝統的な水害減災対策である「桂垣」を視察されました。京都でのセミナー後には、神戸に足を伸ばし、布引五本松ダム(欧州技術者設計で1900年に竣工した日本初の重力式コンクリートダム)を視察しました。
現地視察においては、施設管理者である国土交通省近畿地方整備局及び電源開発株式会社には視察のコーディネートや現地説明等、大変お世話になりました。
ここに謝意を表します。

足羽川ダムのRCD工法打設現場の視察

足羽川ダム建設現場の上流側からの視察

鳴鹿大堰の視察

福井県永平寺町・大本山永平寺にて

京都・清水寺の清水の舞台、遠く京都市街を背景に

布引五本松ダムの視察
上記の国際セミナーや視察のほかに、(一社)日本大ダム会議との意見交換も招聘期間中に行われました。米国ダム協会(USSD)の前会長であるDurkee氏からは、「USSDの歴史と組織の最新情報」を紹介をしていただきました。
※1 SIPスマート防災内閣府の科学技術イノベーション政策の一環として第3期・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)が令和3年から実施されており、この技術開発テーマの一つとして「スマート防災ネットワークの構築」が位置づけられている。そのサブ課題の1つとして「流域内の貯留機能を最大限活用した被害軽減の実現」について京都大学の角哲也特定教授を研究責任者として研究開発を実施している。
文:一般財団法人 水源地環境センター
中込淳、岩下友也